「大地の子」/痛い
実は山崎豊子さん、これが初読みなのです。何となく読まないままにきてしまった作家さんって、考えれば結構多い。これは義父からお借りしました。
この小説は、所謂中国残留孤児である、陸一心の過酷な生涯を辿ったもの。フィクションではあるけれど、緻密で丹念な取材により著されたもので、この中には何人もの姿が投影されている。
■満州開拓団の描写では、藤原てい「流れる星は生きている」を思い出した。あちらも想像を絶する苦難の旅だったけれど、「流れる〜」では何とか帰国を果たしている。「大地の子」を読んで、帰国出来なかった場合、もっと悲惨な運命が待っていることを知った。
■文化大革命下における、労働改造所の場面では、篠田節子「弥勒」を思い出した。無能な指導者による、理屈、知識を無視した労働の暗澹たる姿。共産主義は人を大事にするといいながら、特権階級を生み出し、人間をないがしろにするのはなぜだ?
■日中共同の大プロジェクト「宝華製鉄」建設では、建設への熱意という点で、吉村昭「戦艦武蔵」を思い出した。しかし、随所で出てくる「中日友好(ここでは、日本の一方的譲歩を意味する)」や、この一大プロジェクトすら政治の一齣として利用する、老獪な政治家など、日中関係(この場合、中日関係というのだろうか)の難しさを感じさせる。
何か事がある度に、「日本人」として疑われ、嫌われ、利用されながらも、「大地の子」として生きる決意を固めた、陸一心の心中は如何なるものか。「痛い」小説。
解説によると、山崎氏はインタビューに答えて、「テーマは、戦争が個人に与える運命」と語っている。これだけ色々なテーマを絡めて、一つの流れとして小説にした、山崎氏の力量は凄いものだと思う。過酷な運命を与えられている人々は、決して減ってはいないのだろう。世界各国に、その土地の「大地の子」が存在しているように思う。悲しいことだ。
- 山崎 豊子
- 大地の子〈1〉
- 吉村 昭
- 戦艦武蔵



