スポンサーサイト

 -----------:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリ :スポンサー広告 トラックバック(-) コメント(-)

「傭兵ピエール」/男の論理、女の論理

 2005-11-11-09:01
佐藤賢一「傭兵ピエール」

傭兵ピエールと、かの聖女ジャンヌ・ダルクとの関わりを描いた物語。

ジャンヌは神の声を聞いたおとめ。見事、ランスで王太子シャルルを戴冠させるが、敵であったイギリスからは魔女と称され、異端裁判によりルーアンで火刑に処される。

ジャンヌは歴史上の著名な人物であるけれど、一方のこの「傭兵ピエール」とは一体どんな人物だったのか。
************************************************
時代は乱世。フランス王国はアングル王の侵略が始まってもう百年、戦火に苛まれ続けていた。ピエールが傭兵となったのは、父であり、北西フランスのアンジュー地方に広大な領地を持つ、王国屈指の大貴族ドゥ・ラ・フルトと戦場ではぐれたため。ドゥ・ラ・フルトとはぐれたピエールは、荒くれ傭兵集団に拾われ、傭兵の技としては一流の腕を持っていた、頭目(シェフ)のユーグにその技を習う。剣術、馬術はドゥ・ラ・フルトに仕込まれたが、略奪、恐喝、誘拐、追い剥ぎ、人身売買等々の盗賊仕事は、このユーグに仕込まれたものだ。

ユーグの技は優れていたが、その人間は好もしいものではなかった。長じてピエールは、シェフであるユーグを殺し、通称「シェフ殺しのピエール」として、傭兵集団「アンジューの一角獣」を率いる頭目(シェフ)となる。略奪、強姦なんでもござれ。この時代の傭兵は、まさに章のタイトル、「一の巻、傭兵も生きていかねばならない話」の通り、生き抜くために荒んだ生活を送っていた。

私生児であるとはいえ、元来は貴族の出身であるピエールは、幼い頃からキリスト教徒の善、徳を教えられて育った。しかし、それは傭兵として生きるためには役に立たず、かえって妨げとなるものであり、生活は荒み、心は壊れていく。良心の呵責に苦しむ余裕など無く、痛む心をそっくり捨てて、ただ強くなる事を望む日々が続く。

そんな荒んだ生活の中、ピエールは「神の声を聞いた」というジャンヌ・ダルクと出会う。彼女こそ、フランスを救うためにやって来た、ラ・ピュセル(救世主)であった。穢れ無き処女のジャンヌは、戦争が始まったら、自分とはオルレアンで会えるはずだとピエールに告げる。また、いつものように襲い掛かったピエールに、自分の使命を果たした後に、ピエールに処女を捧げる事を約束する。良心を殺し、荒んだ生活を送るピエールに一つの灯りがともる。王太子シャルルをランスでフランス王に戴冠させるのだ。

「シェフ殺し」として恐れられるピエールだけれど、彼はいつも仲間には優しい。その彼を反映して、ピエールの部下たちは実に陽気な連中。もとは托鉢修道士で好色漢・ロベール。商家の出のトマ。ピエールと同じく、貴族の私生児出身の弟分、冷たい美男子ジャン。ピエールの性格はあくまで陽性のもの。無分別にふきまくる所もあるけれど、これは明日をも知れぬ傭兵の世界では、恐怖を吹き飛ばすためにも必要なこと。

ピエールは無事オルレアンでジャンヌと再会を果たし、戦場では彼女を陰に日向に守りながら(だって、彼女はただの村娘で、戦場の論理も知らない)、ランスでの戴冠までを見届ける。

ラ・ピュセルは前述のように「神の声」を聞いたおとめであった。しかし、この「声」は、王太子をランスにて戴冠させよ、というものであり、ここで神の声は途絶え、彼女は「救世主(ラ・ピュセル)」ではなく、ただの人間の娘に戻る。その後のパリでの戦況も思わしくなく、王軍は殆どの傭兵軍団を解雇する。ピエールはその任を解かれるが、ジャンヌは国王より引き続きの従軍を命ぜられる。神の声が聞こえなくなったまま、少女ジャンヌは戦いを続けなくてはならない。ピエールは傭兵であり、雇われなくなってしまえば、もう用はなく、また彼の仲間の傭兵連中も、これ以上の従軍を望まない。

その後、田舎町で燻ぶるピエールの元に、ラ・ピュセルの危機が伝えられ、奪還命令が下される。ピエールは無事、彼女の救出を果たし、ラ・ピュセルはようやく「ただの村娘ジャンヌ」に戻る。ピエールとジャンヌは、これまでも互いに強く惹かれあっていたわけで、これにて全ての障害がなくなったか、というと決してそうではなかった。捕らえられている間に、ジャンヌは処女を非道な形で奪われており、ピエールは自分のこれまでの行いに苦しむ。ジャンヌは彼にとって美し過ぎる存在で、また彼女の痛みは、これまで自分が他者に強いてきたものでもある。ピエールの良心は痛む。

さて、ここからどうなるのか。色々あって、ピエールは領地民に愛される貴族となり、ジャンヌを妻とする。しかし、タイトルの「傭兵ピエール」、これは貴族となった後でも、生涯彼と無縁のものではなかった。
************************************************
「王妃の離婚」「カルチェ・ラタン」 では無かった、モヤモヤが心に残ったのは、ピエールの一生に「傭兵ピエール」の名が付いて回った理由に、心が痛んだから。ピエールがその生き方しか選べなかったのは、彼がジャンヌを伴侶としたから。その意味で、やはり彼女は彼の「牢獄」であった。

ピエールは「女が分からない」から、女に優しい男。
ピエールが好きなのは、こんな女性。

ピエールは女の言い分で生きる女が好きだった。へんに物分りのよい顔をして、男を理解したふりをされるのは、かえってむかつく。なめられてる気がする。おまえになにがわかるってんだ、と返したくなるのである。
その点、女の論理を一貫している女はいい。

ジャンヌはいつだって、自分の論理、女の論理で生きていた。戦場では娼婦の館に乗り込み、「汚らわしい行い」を非難し、潤滑油である猥談には激怒し、妻となってからも、妊娠中に「仕事」に出かける夫を昂然と非難する。

しかし、女は本当に「女の論理」だけで生きていかれるものなのか?
男の組織の論理を、本当に無視出来るものなのか?
お互いの論理が違ったままで、男女はそれでも互いに幸せに愛し合うことが出来るのか?
「牢獄」に自ら入る場合、それは愛しい「牢獄」であるものなのか?

これまで読んだ佐藤氏の物語は、女性の役割が限定されていた、中世フランスに全てその舞台が設定されていた。その中で一番「女の論理」に忠実に生きていたのが、この「傭兵ピエール」のジャンヌ。
この時代には普通のことであったのか。

しかし、現代に生きるものとしては、ある程度「男性的」な教育も受けているわけで、昂然と男性の論理を非難し、女の論理で生きることは難しい。
もし佐藤氏が現代にその舞台を移すとしたら、その中の男女はどう動き、どう愛し合うのだろうか、と思った。

物語としては非常に面白いものではあり、ピエールの性格も魅力的であったのだけれど、その辺りの「痛み」が読むスピードを鈍らせ、また読んだ後も何だかモヤモヤとしたものを残した。

 ← 私が読んだのはこちら
佐藤 賢一
傭兵ピエール
 ← 既に文庫化されているようです
 でも、表紙はハードの方が好きだなぁ。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。 
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:
http://tsuna11.blog70.fc2.com/tb.php/722-9fb230ef
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫
プロフィール

つな がる

Author:つな がる
つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
興味を持った記事があったり、あなたが読み終えた本について語っていたら、是非あなたの感想を教えて下さい。お待ちしています。

2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

掲示板その他リンク

ユーザータグ
最近の記事
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

RSSフィード
カウンター

月別アーカイブ
検索エンジン情報
Googleボットチェッカー Yahoo!ボットチェッカー MSNボットチェッカー

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。