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「夏の名残りの薔薇」/変奏曲

 2005-12-22-08:50
恩田陸「夏の名残りの薔薇」

真実はどこに? それは各人の心の中に。

そして、ほんとうにそれがあったかどうかは、実は大きな問題ではないのかもしれない。

現世から隔絶したような山の上のホテルでは、毎年同じ時期に三人の魔女のような老姉妹が待っている。滞在中一度はよばれるという、お茶会の中での気まぐれにより、次の年にまた招待されるかどうかが決まってくるため、招待客は彼女らのバックにある財力を恐れ、戦々恐々としつつも毎年この山の上までやって来る。それは「招待されている」という自尊心を擽るものでもあり、かつ三姉妹の毒を求めてのことでもある。

夕食時の三姉妹のテーブルは、いつもショーのよう。彼女らが主演する物語であり舞台。どこまでが真実で、どこからがうそ幻なのか。それは三姉妹にしか分からない。周囲のものたちは、ただ嘘で織られたタペストリーを眺めるのみ。

さて、そんな山の上のホテルにやってきた人物のうち、主たるものは桜子、時光の姉弟、桜子の夫、隆介、三姉妹の一人、丹伽子の娘で、女優の瑞穂、そのマネージャーの早紀、桜子の浮気相手であり、輸入車ディーラーの辰吉、大学教授の天知。

桜子と時光は、それぞれに家庭を持つ、人も羨む美しい姉弟だが、実は長期間にわたり、近親相姦の関係にある。時光にとって、一年に数日、美しい姉、桜子を所有出来る、このホテルでの時間は掛け替えのないもの。ここは全て「秘密を持つもの」の集まりだと信じている。

一方の桜子は、実の弟と関係を持ちつつも、ディーラーの辰吉とも浮気をするなど、なかなかに捉えどころのない女性。好き好んで浮気をしているというよりも、ただ自分に求められるものを、そのまま与えているようにも見える。

桜子の夫、隆介は三姉妹の甥にあたる。恵まれた環境に育った彼は、今では如才なく商才も発揮している。時光から見ると、彼は育ちの良い牧羊犬であるが、実際の彼はそんな柔な人間ではない。

女優である瑞穂は、三姉妹たちの悪意を受け継ぐことはなかった。毎年ホテルで醸し出される悪意、険悪な雰囲気に怯えつつも、彼女の安定剤として、マネージャーの早紀を連れて、嫌々ながらもやって来る。

大学教授の天知。基本的にこの招待客は、三姉妹のうち、一人からの招待を受けてやってくる。しかし、彼だけは三姉妹の内、誰から招待を受けたのか、それが良く分からない。随分、古くからの付き合いにも見えるのだが・・・。

そして毎年繰り返された、この「招待」は今年で終わる。

章立ては、主題の次に、第一変奏第六変奏へと続き、登場人物一人の視点を持って語られる。「変奏」は、それぞれ衝撃的な場面で終局を迎えるのだが、次の「変奏」では何事もなかったように、また同じ題材が違う視点で繰り返し語られる。そしてその終局は、全て違ったもの(第六変奏のみ、一年後の話)。
何が真実だったのか? くらくらと酩酊するような物語。
*****************************************
登場人物の内、今回気になったのは、桜子と桜子の夫、隆介の二人。

隆介は一見、金持ちのボンボン風ではあるが、彼の内面はそれから類推されるような、弱いものではない。看板に押しつぶされることなく、その幸運をきちんと享受出来る実力の持ち主。そして、その幸運に実は物足りなさを覚えるくらいの、傲慢、贅沢を自覚している。
そんな彼の前に現れたのが、時光と桜子の美しく気品に溢れた姉弟。
時光は所有することは出来ないが、桜子を所有することならば可能である。

私は他人が思うよりもずっと、人間関係には敏感なのである。男女関係をはじめ、誰が誰に反感を持っているか、誰と誰が手を結ぼうとしているか、他人の動きや表情をちょっと見ていれば分かってしまう。それは生きていくために必要な嗅覚であるが、元々子供の頃からその辺りにはひどく敏感だった。もっとも、その敏感さはある程度隠していた方がいいことも、昔から本能的に知っていた。おっとりした気のいい三代目でいるほうが周囲から愛されるし、皆無防備に情報を提供してくれるものなのである。かといって、決して舐められてもいけないところが、匙加減の難しいところだ。
最初、二人の関係に気づいた時は愕然としたが、逆に安堵のような気持ちを覚えたことも事実である。

彼にとって、桜子と時光の関係は許せるものであるが(むしろ桜子を通して、時光を所有しているという満足感すら覚える)、桜子と辰吉の関係は、「舐められない」ために許すことが出来ないもの。彼にとって、このホテルにやって来て、桜子と時光の年に数日の楽しみを奪うことは、決して本意ではなかった。

ここで手を打たないと、私は無能の烙印を押されることになる。私は、私が自分の問題を解決できる男であることを、各方面に対してアピールしなければならなかったのである。

さて、一方の謎めいた桜子。彼女もまた、時光を愛していた。

時光は、昔から美しい子供だった。彼の無垢を愛していた私は、それを守るために努力をした。そのことが、彼から成熟や、清濁併せ呑む大人の知恵などを奪い取る結果になったかもしれない。だが、私はそのことを後悔していない。隆介が彼に執着するのは、やはり彼のそういうところに惹かれるからだと思う。私が守り育てた弟は、私に夫を連れてきてくれた。だから、私の努力は間違っていなかったのだ。

この二人の愛は空恐ろしくもあるが、無垢を愛する気持ち、愛でる気持ちは分かる。時光が実際に無垢であるかどうかは、分からないけれど、無垢なものに対する憧れは、自分が喪ってきたものへの憧憬でもあるのかもしれない。

 
恩田 陸
夏の名残りの薔薇

さて、この小説には、各所にある映画の場面が挿し込まれる。あとがき-二つのマリエンバートの狭間でによると、これは、『去年マリエンバートで』という映画のシーンだそう。

迷宮のようなホテルを徘徊する、人形のように無機質名登場人物。シンメトリーの巨大な庭園、囁くように繰り返される台詞。演劇的な虚構の空間を埋める、様式美に溢れた白と黒のコントラスト。

この「夏の名残りの薔薇」の核には、映画『去年マリエンバートで』がある。マリエンバートは、チェコの古い保養地の地名のドイツ語読み。かなりの箇所が引用されているけれど、雰囲気だけを楽しんでそのまま読むことも可能。でも、その核となった映画をちょっと見てみたくもある。

ビデオメーカー
去年マリエンバートで〈デジタル・ニューマスター版〉 

*臙脂色の文字の部分は引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
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2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

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