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「わたしを離さないで」/この無慈悲な世界の中で

 2006-11-19-19:42
カズオ イシグロ
わたしを離さないで

1990年代末のイギリス。

十一歳だったキャシー・Hは、ジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』に収められた「わたしを離さないで」を飽くことなく聴く。「ネバーレットミーゴー・・・・・・オー、ベイビー、ベイビー・・・・・・わたしを離さないで・・・・・・」彼女が思い浮かべるのは、一人の女性。子供に恵まれなかったのに、奇跡的に授かった赤ちゃんを胸に抱きしめ歌うのだ・・・。勿論、ここで言う歌詞の「ベイビー」は、赤ちゃんを指すベイビーではない。しかしながら、キャシーにとっては、母親と赤ちゃんの曲だったのだ。

三十一歳となった「介護人」のキャシー・Hは、「介護人」としての生活と、彼女が過ごした子供時代を語る。彼女が子供時代を過ごしたのは、ヘールシャムという施設。

癇癪持ちだけれど、明るい気質を隠そうともしないトミー、いつも思わせぶりながら、多大な影響力を持つルース、他の子供たち・・・。厳格なエミリ先生、率直なルーシー先生、子供たちにとって少々不気味な存在でもあった「マダム」。教えるべきことをきっちりと押さえた丁寧な授業。異様に力を入れられる、「創造的な」図画工作の時間。詩作・・・。繰り返されたトミーへの苛め。毎週の健康診断。外部から遮断され、入念に保護された生活。一風変わった寄宿舎生活にも見える、この施設での生活の秘密が徐々に明かされる・・・。そして、ヘールシャムからの巣立ち。彼女たちは十六歳でこの施設から巣立つ。

抑制の利いた筆致は最後まで崩れる事がないけれど、ここで語られ、やがて立ち上がってくるのは驚愕としか言いようがない世界。この世界の中で、ヘールシャムの子供たちはどう生きたのか? そして、その他の施設からやって来た「子供たち」の間にも根強かった、ある噂。噂は果たして真実なのか?

抑制の利いた筆致は、しかし残酷で無慈悲な世界を暴き出す。知りたがり屋のキャシーとトミー、それに反して信じたがり屋だったルース・・・。人にとって「最善」とは何なのか?

私の文章も、思いっきり思わせぶりになってしまったような気がするけど、これは本来、何の先入観もなしに読んだ本がいい本だから。でも、間違いなく凄い本です。是非是非、読んでみてくださいませ。面白くて読むのが止められなくなる本は、そう多くはないけれど、まぁ、それなりに数はある。
でも、久しぶりに切実な意味で、読むのが止められなくなる本でした。抑制された筆致ながら、胸に迫り繰る切迫感は凄まじいです。

カズオ・イシグロといえば、日の名残り」を読んだ切りだったんだけど(あのころは、イシグロ・カズオじゃなかったっけ?)、読んだときの自分の年齢が幼かったのか、本当にその良さを理解できたとは言えなかったような気もする。あれはリアリズムの世界だったけれど、こちら、わたしを離さないで」は近未来のあるかもしれない世界を描いて、その中で生きる人間たちの像が実に素晴らしい。ああ、凄い本を読みました。

先生の言葉から喚起された、ノーフォークという土地への子供たちのイメージ。イギリスのロストコーナー(忘れられた土地)、ノーフォーク。先生が授業で話した「ロストコーナー」とは、忘れられた土地という意味だったけれど、ロストコーナーには遺失物置き場という意味もある。子供たちの中で、ノーフォークはイギリスのロストコーナー、イギリス中の落し物が集められる場所となった。このノーフォークのイメージは、美しくも哀しい。

作中に出てきた、ジュディ・ブリッジウォーターという歌手。検索をかけてみたところ、どうやら架空の人物のようです。こんなところも、きっちりと作り込まれていたのだなぁ。 静謐な世界、喪われるものを描く点では、小川洋子さんの作品にも似ているように感じたけど、小川さんがそこまでは描き切らない痛いところ、辛いところまで、抑制の利いた筆致を崩さぬまま、きっちりと描いているような印象を受けた。

【追記】
他の方のブログで見かけて、気になっていた柴田元幸さんは、英米文学研究者なのですね。この本の解説は柴田さんがなさっています。「ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち」も気になるなぁ。

ポール・オースター, 村上春樹, カズオ・イシグロ, リチャード・パワーズ, レベッカ・ブラウン, スチュアート・ダイベック, シリ・ハストヴェット, アート・スピーゲルマン, T・R・ピアソン, 柴田 元幸
ナイン・インタビューズ

■その後に読んだ、カズオ・イシグロの感想です。

・「
わたしたちが孤児だったころ 」/揺らぐ世界の中で・・・・
・「
女たちの遠い夏 」/陽炎のようなあの夏の思い出・・・

記事には上げ損ねたけれど、再読した「日の名残り」も、昔読んだ時に感じたような、実直な執事の単純な昔物語ではありませんでした。抑えられた中から立ちのぼってくる様々な感情に、くらくらとするような物語。おっとなー!、なのです。
コメント
いや、こちらでしたね、すいません。
眠い頭でサイト内検索して、最初に出てきた「女たちの遠い夏 」の「わたしを離さないで」へのリンクへ飛んだら旧サイトでした。気が付きませんでした。

「ロストコーナー」はいいなぁ、うまいなぁと思ってました。

でもやっぱり本当の読みどころにぐっときていないんですよね。

そうそうまことに勝手なお願いで申し訳ないんですが、1冊本を薦めさせてください。

タタール人の砂漠
ディーノ・ブッツァーティ

という作品です。

ま、世界文学、というだけで薦めているのでどうかと思うのですが、読む本がなくなったときにでも思い出してください。たぶん図書館にはある本だと思います。
それに貸し出しなんかもされていないタイプの本です。

ま、前情報はないほうが(笑)いいと思うのですが、よろしければ私のサイトでも覗いてみてください。

http://bookbath.ameblo.jp/bookbath/entry-10089735001.html

でも魅力を十全には伝えていないので、AMAZONなんかであらすじのみ確認してもいいかもしれません。
【2008/09/14 01:11】 | bookbath #- | [edit]
あ、そうそう、リンクとか全然直せてないんですよ。
色々と齟齬があって申し訳ない。

「ロストコーナー」、良かったですよね。
自分のロストコーナーには、何が吹きだまってんだろう、と思います。
ブログをやってなかったら、読んだ本の切れっぱしの記憶が吹きだまってたかも?

ブッツァーティは、最近新訳も出てるし気になってました。
早速、図書館に予約入れちゃいました。
読んでみますねー。
bookbathさんの記事読んだんですが、これまた前情報入れても、あまり意味のない感じのお話みたいですね。笑
さて、私には読みどころが分かるのか?

結局、自分は読みたい筋を見つけて読んでるところもあるし、誤読の可能性も捨てきれず、ひどい時には結末を勘違いしちゃってる時もあるんです。
でも、そうやって好きなように読むのも、読書の楽しみですよね。
他の人がどう読んだのかを知ることも、違う道筋を知る意味で面白いです~。
お、そこから登ったのね、とか。
【2008/09/14 23:10】 | つな@管理人 #- | [edit]
はじめまして、
piaaさんのブログから辿ってきました。

イシグロ作品はとても好きなんですが、
この作品はタイトルしか知らなくて、
偶然にもどのような内容なのかという情報を
ほとんど得ずに読むことができたので
(勝手に恋愛ものなのかなとか思ってました)、
イシグロには珍しいSF的背景に驚き、
そして、物語の面白さと、
どうしようもないドンヨリ感、
半端ない「語り」の上手さにすっかり夢中に読んでしまいました。

良い作品で、確かに面白いですけど、
結構体力の要る作品だったと思います。
【2008/10/03 00:46】 | ANDRE #- | [edit]
ANDREさん、初めまして!
コメント&トラバありがとうございます。

「わたしを離さないで」。
タイトルだけ聞いたら、確かに恋愛物にも思えますよね。

イシグロ作品、マイベストは何なのか、ANDREさんの記事を読んで私も考えてしまいました。
「日の名残り」もあの情景と、諦観の中のうっすらとした希望が良かったですよね。
まさに夕陽のような希望だから、ぴかぴかした日の出のようなものではないけれども…。
「浮世の画家」は、途中で止まったまんまです。
まだほんのさわりしか読んでないんですけど、あの嫌な奴臭がちょっと苦手感を醸し出しているのかもしれません。笑

この「わたしを離さないで」も、私は凄い本だな~と思ったんですが、ここ最近文庫化の影響か、また色々な方の感想を読む機会が増えて、色々な読み方があるんだなぁと感じました。
イシグロ作品の中の世界は、特に揺らぎが大きいからかもしれませんね。

体力要りましたよね。笑
私はがーーーっと一気に読んで、そのあと呆然としちゃいました。
また違ったタイミングで再読してみると、違う風にも読んじゃうのかもしれません。


【2008/10/04 10:03】 | つな@管理人 #- | [edit]
つなさん、こんにちは!

>切実な意味で、読むのが止められなくなる本

いや、ほんとそうでしたね。
同じ「止められなくなる」ような作品でも
今どきのジェットコースター的な展開のとはまた全然違っていて
目が離せない… というより、目を逸らせない、かな。
ちょっと分厚いかなーなんて思いながら持って家を出たんですが
分厚さなんて何のその。
でもほんと、体力いりました。(笑)

分厚いといえば「充たされざる者」なんですが
つなさんは読まれてます?
これは文庫で948ページですって!
そんな分厚さでも一気に読めちゃったりするのでしょうか…
…分厚いだけで、ビビって読めない人間がここに1人。(^^ゞ
上下巻にして欲しかったです。
【2008/10/22 21:33】 | 四季 #Mo0CQuQg | [edit]
四季さん、こんばんは!
すっかり、返信が遅くなってしまい、すみません。

そうそう、そうなんですよ。
「止められなくなる」っていっても、無理やり乗せられるような、ジェットコースター的なものとは違うんですよね。
おお、でも、四季さんは、これをお外で読まれたんですか!
すごーい。
時々、外に持ってっちゃってから、うわ、これは外で読むのが辛かった、と思う本があります。
そんなわけで、私はよく電車の中で涙ぐんでますけど、四季さんはいかがですか?笑

「充たされざる者」、読んでません。
うおー、そんなに厚いんですか。も、持ちにくそう…。笑
文庫本で厚いと、何かの拍子にぱたんと閉じちゃうから、ふがふがしております。
なんで、上下巻にしてくれないのかしら?
【2008/10/25 22:53】 | つな@管理人 #- | [edit]












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  • 「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ【Andre\'s Review】
    わたしを離さないで(never let me go) カズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro) ハヤカワepi文庫 2008.8.(original 2005)   イシグロ氏の6作目の長編作品の文庫版。これで、ハヤカワepiで、イシグロの全長編作品が文庫で読めるようになりました。そんなわけで、文庫派の
【2008/10/03 21:24】
【2008/10/22 06:49】
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「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
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