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「犬はどこだ」/二十五歳、犬探し専門(希望)の私立探偵紺屋。最初の事件
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ところが、地元の友人、町役場に勤める大南が気を利かせたお陰で、図らずも町の老人たちの間に「探偵さん」として宣伝されてしまったよう。持ち込まれたのは若い女性の失踪事件に、神社に伝わる古文書の解読。さらには、探偵に憧れる、高校時代の後輩、ハンペーこと半田平吉までもが、雇ってくれと<紺屋S&R>に現れて・・・。犬を探すはずだったのに・・・。犬はどこだ??
失踪人、佐久良桐子の足跡を辿るのは紺屋、愛車ドゥカティM400を駆って、古文書の由来を調査するのは、ハンペー。彼らはそれぞれのやり方で、担当した事件に迫る。
理知的で自らを頼むところが強かった桐子は、なぜ失踪したのか? 浮かび上がって来た彼女の姿に、紺屋は心ならずも退職せざるを得なかった、自らの姿を重ねるようになる。ハンペーにはやる気がないと評され、身体は疲れやすく、また仕事としての興味しか持てなかった桐子の失踪について、紺屋は血の通った人間としての興味を持ち始める。
さて、桐子を追うのは、紺屋一人ではなかった。彼女をネット上で追い詰めた、ストーカーの姿が紺屋にもくっきりと見えるようになる。そして、その間、ハンペーは何をしていたかというと、図書館や地元の老人を訪ね、ちゃらんぽらんな見かけによらず、きっちりと古文書の由来に迫っていた。両方の進捗を読んでいる読者には直ぐに分かるけれど、彼ら二人は最後までそれぞれが追うものの関連に気付かない。
ハンペーが追う古文書によれば、中世、戦国の世の人々は、ただ略取されるだけの存在ではなかった。時と場合によっては武器を取り、傭兵を雇い入れる「自力次第」の世界。民衆が常に弱く、虐げられる存在であると誰が決めた? それはまた、紺屋が追う桐子についてもいえる事。
そして、実に鮮やかな反転。
最後はちょっとビターな味わい(探偵は警察ではないので、こういう物語もたまにはあるけど)。
「春期限定いちごタルト事件 」、「夏期限定トロピカルパフェ事件 」などのほのぼのミステリから、米澤さんに入ったので、このビターなラストはちょっと意外だったけど、概ね楽しく読みました。
私立探偵紺屋、「最初の」事件ってことは、続編も出ると期待してもいいのだよね。
ハンペーのキャラもいいし、妹夫婦が営む喫茶店、<D&G(ドリッパー&グリッパー)>、彼らのキャラもいい感じ。未だ顔の見えないチャット相手の友人、<GEN>(紺屋のHNは<白袴>!)についても、追々明かされたりするのかな。