スポンサーサイト
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「まやかし草紙」/あやし、あやかし、まぼろし、まやかし・・・
- 諸田 玲子
- 「まやかし草紙 」
主人公は、明るく闊達な若い女、弥生。歌人として名を馳せ、都で華やかな人生を送った近江を母に持つものの、乳飲み子の頃から近江の粟津の里で育ち、物心つく前にその母を失った。中宮に仕え、御子の乳母をつとめ、帝の寵愛すら得て、その子を宿した母、近江。ところが、その母は出産のために身を寄せた、淀川ほとりの古曾部で産褥のために命を落としたのだという。時めき、華やいでいた母は、なぜそのような田舎でひっそりと亡くなったのか。また、宮中で栄華を極めたものの、母は弥生宛の文で、「宮中に近づいてはならぬ」と度々警告していた。母の死には一体何が隠されているのだろうか?
粟津の里では、母の侍女、玉木の両親に慈しまれて育ったものの、玉木が亡くなったことで、弥生は後ろ盾を失う。女の立場は弱いもの。郡司の後妻とされる事を厭った弥生は、家出同然に郷里を出る。玉木の姉であり、内裏勤めをしている讃岐を訪ねた弥生は、右大臣の娘、温子姫の女房の職を得る。温子姫は今秋、東宮妃として内裏へ上がる事になっており、これは母の死を調べる意味でももってこい。弥生は母の死の謎に迫るのだが・・・。
目次
第一章 華宴
第二章 狂宴
第三章 怨宴
第四章 終宴
目次を見ても、華麗でありながら、何だか重い雰囲気。登場人物は弥生を始め、いま一人の主人公とも言える、「悪たれ」音羽丸、世捨て人のような爺さん、白楽天ともに、皆明るいのだけれど、そこで起こる事件は何とも陰惨極まりないもの。
弥生が母の死を探るのと同時に聞こえてきたのは、東宮と契った女が狂死したとの芳しくない噂。美貌の有明宮は、東宮の身にありながら、市中の女に手を出し、契った女を狂わせるのだという。弥生の目には、美しく儚げな東宮とその噂が結びつかないのだけれど・・・。
東宮が居たと思われる場所にきつく香る白檀の匂い。普通の方法では、女を抱けないのだという東宮。これにもまた、ある人物の意図が隠されていた。
権謀渦巻く宮中の世界。弥生は否応なしに、その波に呑まれて行く。
母の死には、約二十年前にあった、権勢を誇った藤原光盛の惨殺事件が関わっていた。遠島となった中納言・橘雅之が、犯人とされたのは、東宮妃であった元子の女房・陽炎が雅之に宛てたとされた歌。この過去の事件が、亡霊のように再び立ち上がる・・・。
同じ著者の「髭麻呂 」も、平安時代を舞台にしているけれど、こちらは貴族とはいえ、宮中からは少々遠そうなのに比べ、「まやかし草紙」は宮中がばっちりストライク。
その分、皆が姻戚関係であったり、ちょっと色々ややこしい。平安モノを読むときって、役職もそうだけれど、この姻戚関係が曲者だと思うのです。また、最後まで読めば理解出来るものの、途中、昔の出来事が唐突に挟まれたりもするのも少々ややこしい(現在起こっている話は二段組で書かれ、挟まれる昔の出来事は一段と、区別されて書かれている)。
あやし、あやかし、まやかし、まぼろし・・・。
世の中に怖いもの、不思議なものは沢山あれども、一番怖いのはやっぱり人間なのかもしれないなぁ。明るく健やかな弥生と音羽丸、過去の悔恨を胸に、飄々と生きる白楽天の爺さんはともかく、弱く疑心暗鬼にかられた人間、得体の知れない何かに捕まってしまった人間が、こわーい一冊。?