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「きみの血を」/ジョージの魂が求めたものは
- シオドア スタージョン, Theodore Sturgeon, 山本 光伸
- 「きみの血を 」
陸軍軍曹で精神科医の、フィリップ・アウターブリッジ(フィル)と、アルバート・ウィリアムズ大佐(アル)との往復書簡によって、物語が動いていくという、ちょっと変わった形式の物語。
海外駐屯地で少佐の鼻を殴って、フィルが勤務する陸軍神経精神病院へと送られてきた、兵士ジョージ・スミス。アル大佐は、ジョージは正常であり、適当なテストの後、自由の身にしてやるようにと、部下であり友人でもある、ドクター・フィルにオフレコで頼むのだが・・・。
そもそも、ジョージが少佐を殴ったのは、故郷にいる恋人、アンナに送った手紙の内容について、問いただされた場において。孤独と釣り、狩りを好む、大男であるジョージ。「なぜ狩りをするのか」。この質問もまた、彼にとって禁忌なようである。この質問を少佐にされたジョージは、コップを握り潰して、少佐に殴りかかろうとしたのだ。ジョージが恋人、アンナに送った、たった三行の手紙。その内容とは一体どんなものだったのか?
フィルが少しずつジョージの謎に迫る毎に、薄紙を剥ぐ様に、ごく普通の、若しくはちょっと寡黙なだけの人間であるかのように見えた、ジョージの異常性が少しずつ明らかになっていく。ミステリとして読んでも、サイコ・ホラーとして読んでも、これは結構怖い物語。
中盤、テストの一環として、フィルがジョージにこれまでの自分について、客観的に書いてみるようにと指示し、ジョージによる約80ページ程の手記が語られる。例えばそこで語られる森の様子、狩りの様子は、生き生きと魅力的だし、不幸な子供時代、少年時代も、貧しいアメリカとして、時に読むことがあるものだ。でも、きっと、これを読む人は、この物語を最後まで読んで、もう一度この手記に戻るんだろうなぁ。確かに、全てはそこに書いてあるのだもの!(でも、こんなの気付けないってば)
シオドア・スタージョンはSFの巨匠であるそうだけれど、この物語ではSFっぽいのは、あえて言えば、最初と最後の字体が違う部分、この物語全体を俯瞰するような視点のみかなぁ。もっと読み辛いと思っていたのだけれど、ジョージの秘密が気になって、どんどん読み進めてしまいました。うーん、巧い! でも、ジョージに「わかるだろう?」といわれるたびに、ちょっとゾッとしました。ジョージがそうなってしまったのも分かるけど、でも、その行為については分かりたくないよー、という感じ。
(あ、一点、ジョージの父さんの会話文の訳が気になりました。英語が上手く話せないヨーロッパ系移民ということで、ああいう話し方になっちゃったのかなぁ。ちょっと緊迫感が削がれましたよ(「おう、ええ匂いやんけ」とか、そりゃないよ~)。