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「夢を与える」/嘘を紡いだその先には

 2007-07-14-23:11
夢を与える夢を与える
(2007/02/08)
綿矢 りさ

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「蹴りたい背中」にはあんまり感心しなかったのだけれど、こっちは良かったよ、綿矢りささん。同時に、あー、「綿矢りさ」も大人になっちゃったんだなぁ、とも思ったけれど。大人も大人、何だかそれはこの「夢を与える」の中で、主人公である夕子が呟く、「私の皮膚は他の女の子たちよりも早く老けるだろう」というような大人になり方で、勝手ながらちょっと心配してしまうくらい。ま、作品は作品、作家は作家で本来別々のものなのでしょうが。

芸能人、スポーツ選手などが、最近よく使うこの「夢を与える」や、希望を与えるという言葉。傲岸不遜とも思われる、この言葉の裏の彼らの生活は、一体どうなっているのか。他人に「夢を与え」続けるというのは、どういうことなのか。本書は、残酷で無残な青春小説とも読めるような気がする。

主人公は、夕子。その愛らしい容姿でもって、チャイルドモデルとして活動していた彼女は、大手チーズ会社との半永久的なCM契約により、日本全国に知られた存在となる。そのCMは「ゆーちゃん」の成長を映し続ける。「ゆーちゃん」とは誰なのか?、世間の関心が高まったところに、普通の少女としての「ゆーちゃん」の難関高校の合格。幼いころから知っている少女が、健やかに成長するさまを見た大衆は、夕子が「普通の少女」である事に好感を持ち、彼女は一気にブレイクを果たすのだが…。

主人公はこのアイドルとなる夕子であるけれど、実際には彼女の母も、この物語に濃密に絡みついてくる。日仏ハーフのどこか頼りなげなトーマを繋ぎ止めたのは、夕子の誕生であったのだけれど、無理矢理繋ぎ止めた関係はいつか破綻する。夕子にとってはいい父親のトーマであったけれど、彼はいつしか夕子や妻、幹子に隠れて、もう一つの「家」を持つようになっていた。夫、トーマへの満たされぬ思いを埋めるように、母、幹子は夕子の芸能活動を全力でサポートする。母子が邁進した芸能活動の果てに待ち受けていたものは、しかし…。

高校に入学する前、完全にブレイクを果たす前の夕子の生活は、時にCMに出たり、ギャルズクラブの妹分としてレポーター活動などもこなすものの、まだまだ至ってのどかなもの。母、幹子の実家にもほど近い、海、山、川と自然に恵まれた昭浜の家での一家三人の暮らし。同級生との他愛もない会話。恋とも呼べぬような淡い思い。

ところが、ブレイクを果たした後の夕子の生活は一変する。都内に借りた仮住まいのままのようなマンションでの母子の暮らし、高校へ辿り着いても、眠り続けてしまうような疲労、詰め込まれたスケジュール。薙ぎ倒す様にひたすらにスケジュールをこなす日々の中で、夕子は段々と倦んでいき、「一般人」に恐怖を覚える「芸能人」になっていく。けれど、どんなに忙しくても、使い捨てられるのは、こわい。

高校三年生となった夕子の勢いが失速するのは、大学受験のため。普通の理想の人生を歩んでこその、みんなの「ゆーちゃん」である、阿部夕子というもの。ところが、夕子は突然の静かな生活に耐えられなくなっていた。そして、夕子にとっては運命の恋に出会ってしまう。それは、普通の人間にとっては、ごく普通の恋愛で終わる可能性もあったのだけれど…。ここでも、母と同じように無理矢理繋げた関係が、ある衝撃的な事件を呼ぶ。

夢を与えるとは、他人の夢であり続けること。そして、その他人の夢を裏切るような生き方をしてはならない。初めての恋に、世間の人々を「裏切った」夕子の独白は、あまりにも早く大人になってしまった少女のもの。諦観に老成。そして、人はきっと、そういう少女をテレビで見たいとは思わない。明るく、頬紅を塗らなくても、ふっくらと輝いていた頬は、すでに痩せて萎んでしまった。夕子の今後はどうなるのか。普通の人々の信頼の手を手放して、文中にあるような赤黒い欲望の手と手を結ぶのか。

ずしんと重い小説です。高校生の頃の夕子が頑張れたのは、中学生の頃やその前の生活が充実していたからなのだよね。ところが、何の実もない高校生活が彼女の心を萎ませてしまった。人間は、自分の現在の少し前の遺産を食い潰して生きている。積み重ねなく、常に人に「夢を与え」続け、他人の夢であり続ける。それは、やっぱり、壊れていくものなのでしょう。

今、amazonを見たら、amazonではなぜか押し並べて低評価のようですが、私は濃密な良い小説だと思いました。でも、この絶望が深すぎて、綿矢りささんがずーっとこっち側に深度を深めていってしまうとしたら、次の作品を読むのが怖いな、とも思いました。蹴りたい背中」のディスコミュニケーション一本槍よりは(って、随分前にぱらぱらと読んだ印象のみだけど)、私はもっといろいろなテーマが盛り込まれた感がある「夢を与える」の方が好きなんだけれど、欲を言えばもう少し希望を感じさせる作品も読みたいな、とも思います。次作はどう来る? 綿矢りさ。
コメント
そうですね。「蹴りたい背中」は10代少女のヴィヴィッドな感性一本槍で、それがおっさん(私)にはものめずらしかったのでよかったのですが、人によっては退屈かも。
その分色々盛り込まれている今作は、楽しみやすいものの、コレ、という売りがないような気もしました。
作者のストーカー事件なんかもちょっと影響しているのかな、と思いつつその絶望の方向性も深いけれど普通の絶望、といった感じで(個人的には、です)、最後まで読めてしまう巧さはあるものの、次作に期待、と私も思いました。
勝手な意見すいません。
【2008/06/23 01:44】 | bookbath #- | [edit]
そんな~、bookbathさんが「おっさん」だなんて~。笑
大分前に読んだきりなので、今読むと少し違った感想を持つのかもしれませんが、うん、そうそう、少々退屈でありました。<「蹴りたい背中」
今作についてもそうですねえ。
読んだ直後は良かった!、と思ったんだけど、確かにいろいろ拡散しちゃってるかも。
私、金原ひとみも実は良く分からないので(「蛇にピアス」しか読んでないけど)、このへんの感性はちと不安ではあるのですが、やっぱり次作に期待ですかね。
でも、二人ともまだまだ若いですもんね。
これからでも、変わっていったりするのかな。
【2008/06/26 00:31】 | つな@管理人 #- | [edit]












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【2008/06/23 01:31】
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