「数学的にありえない」/起こりそうもない?それが何だ!
![]() | 数学的にありえない〈上〉 (2006/08) アダム ファウアー 商品詳細を見る |
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目次
<上巻>
第一部 偶発的事件の犠牲者たち
第二部 誤差を最小化せよ
<下巻>
第三部 ラプラスの魔
エピローグ
謝辞
訳者あとがき
若き数学者、デイヴィッド・ケインは追い詰められていた。原因不明の神経失調に謎の悪臭。加えてポーカーで作った返せる見込みのない借金。あいつの手にロイヤル・ストレート・フラッシュが出来るなんてことは、確率論的にほとんどありえなかったのに!
上巻では、登場人物の様々な情景がどんどんカットインしてきます。これをどう収束させるか楽しみだー、と思っている間に、物語は加速度を増して下巻へと傾れ込む。
ナヴァ・ヴァナー。彼女はCIAのエージェントにして、ある信念のために、立場を利用して機密情報を敵対組織に売っていた。これまでは巧く切り抜けてきたけれど、彼女は北朝鮮との取引でミスを犯す。二十四時間以内に残りの情報を届け、金を返さなければ命はない。
ドクター・トヴァスキー。天才的科学者にして、ほとんどマッド・サイエンティスト? ある発見をした彼は、愛人である大学院生、ジュリアに対し、危険な人体実験を繰り返す。
ドクター・ジェイムズ・フォーサイス。科学者としての能力よりも、マネジメント能力に長けた男。しかし、優秀な科学者をコマとして使うことが出来るのならば、科学者としての評価などいかほどのものか? そんなドクター・フォーサイスは、何でも情報を覗き放題の<科学技術研究所>所長の椅子を、あと一ヶ月で追われるところ。何としても、ここらで一発、でかいテーマを掠め取っておきたいところだが…。
キーとなるドクター・トヴァスキーの大発見とは何なのか? ナヴァは北朝鮮から身を守ることが出来るのか? ドクター・フォーサイスは、見事、トヴァスキーの研究を横取りすることが出来るのか? ケインに発現した能力とは? 一見、何の関係もなさそうだった人たちの話も見事に絡まってきて、どうなるのか目を離せなくって、ページをどんどん繰ってしまいます。
確率論、統計学、量子力学、いろいろ出てきますが(量子力学に関しての説明はいまいち?)、エンターテインメント性を失わずに、お話を処理する手腕は見事。
ケインの双子の兄で、統合失調症のジャスパーの、韻を踏む癖のある会話も、このスピードに貢献している気がします。
ナンバーズで大当たりをするトミーに関しては、ちょっと可哀想なんだけど、ケイン、ジャスパー、ナヴァの側に立って読んでいれば、ハッピーエンドと言えるのかな。あ、悪役側(?)だし、とんでもない覗き屋なんだけど、監視任務のエキスパート、グライムズも、個人的にはツボでした。「事情を話してくれる気は−あるか−猿か−割るか−丸か?」
先が気になってざくざく読んじゃうし、登場人物たちもそれぞれに魅力的なんだけど、KGBの忘れ形見というナヴァの設定なんかは、現実味とかそういうのを飛び越えて、実に小説的とも言えましょうか。たぶん、いろいろ欠点もあるんだろうけど、私はこの小説、好きでした。「ダヴィンチ・コード」並みのページ・ターナーっぷりに、同じような値段設定。しかし、この手のエンターテインメント&一気読みが基本な本は、もう少しお安い設定でもいいんじゃないですかねー。と言いつつ、私は毎度の図書館なんですが。
扉の著者紹介を、そのまんま引きます。
さらにさらに、訳者あとがきから引いちゃいますと、1970年生まれ。ブルックリン在住。幼い頃、病で視力を失い、度重なる手術のため少年時代の多くを病院で過ごし、病床で小説の朗読テープを「濫読」する。やがて視力は回復、ペンシルヴァニア大学で統計学を学び、スタンフォード大学でMBAを取得、有名企業でマーケティングを担当。一念発起して執筆した本書でデビューする。本書は日米独伊ほか16か国あまりで出版されるベストセラーとなり、記念すべき第1回世界スリラー作家クラブ新人賞を受賞した。現在、第2長篇を執筆中。
原題は、「improbable」。起こりそうもない、本当らしくない。著者、ファウアーの来歴を知って読むと、よりぐっと来てしまいます。この世界には色々な選択肢や段階があって、それは無限の可能性でもって伸びていく。でも、起こりそうもないところ、ことであっても、それを選び取って行くのは自分でしかない。ファウアーの第二作も期待しちゃいます。なお、ファウアーは影響をうけた作家として、アイザック・アシモフ、スティーヴン・キング、マイクル・クライトン、トム・クランシーなどの名前を挙げている。ただし、ファウアーはこれらの作家の作品を”読んだ”わけではない。六歳のときに両目を難病に冒された彼は、膨大な量のエンターテインメント小説を、図書館の録音テープ版でつぎつぎに”聴破”していったのだ。一〇年以上にわたって入退院と手術をくりかえし、その間、つねに失明の恐怖に怯えていたファウアーにとって、こうしたエンターテインメント小説は、「医師や両親でさえあたえてくれなかった”逃避”をもたらしてくれる唯一のもの」だったという。





