スポンサーサイト

 -----------:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリ :スポンサー広告 トラックバック(-) コメント(-)

「いつか王子駅で」/待つということ

 2007-12-09-23:04
堀江 敏幸
いつか王子駅で

各所で好評の堀江敏幸さん、初読みです。

数ある著作の中で「いつか王子駅で」を選んだのは、荒川の風景が表紙になっていたことと、どうも都電の近辺が舞台になっているようであったから。

私が新卒で入った会社は、荒川に縁がある会社で、それで初めて東京都内に路面電車が残っていることを知りました。本の中に出てくる飛鳥山公園も、研修中にそこで花見をしたんだよなぁ、などと懐かしく思いました。

字も割と大きめで、頁数だってそう多いわけでもない。直ぐに読めてしまうかと思ったら、これがなかなかそうはいかなくって。筋と言う筋があるわけでもない、とても静かなこの小説は、読み手にゆっくりとしたスピードで読むことを求めているように感じたのです。

言うならば、日本の伝統的な私小説風の味わい。勿論、これはあくまでフィクションの巧妙に創られた「私」小説であり、この小説の中の「私」は、堀江さん自身とは微妙に重なり、微妙に違うのでしょうけれど。

主人公は、翻訳や時間給講師をして暮らす「私」であり、これは彼の生活圏内で知り合った人々との交わりの話。背中に昇り龍を持つ正吉さん、小さな居酒屋「かおり」のママ、小さな旋盤工場の社長で、私の家主でもある米倉さん、米倉さんの娘の咲ちゃん、米倉さんの工場で働く林さん、古書店を経営する筧さん…。偉い人は出てこないけれど、皆が皆、しっかりとした「手」や仕事を持つ人だということが出来る(まだ年若い、「咲ちゃん」だけは、陸上部に所属するだけに、彼女が持つのは「手」ではなく、その伸びやかな肢体かな)。

物語の序盤において、「私」が一目置く「正吉さん」は早々に姿を消し、不在のまま物語が進んでいく。「私」は行きがかり上預かってしまった荷物のために、「正吉さん」をひたすら待つ。語られるのは、待つ間の「私」の身近で起こる、小さな出来事、不在であっても尚強い正吉さんの影…。

この小説の中で、最も印象深かったのは以下の部分。

 私に最も欠落しているのは、おそらく心の「のりしろ」だろう。他者のために、仲間のために、そして自分自身のために余白を取っておく気づかいと辛抱強さが私にはない。いま咲ちゃんと、ダイジェストというのかあきらかなリライト版でたどっているトム木挽きあらためトム・ソーヤーの、「待つこと」を知らぬせわしない動きが『あらくれ』のお島が見せたせわしなさと似て非なるものだと感じられるのは、後者の心に細い点線で区切られた「のりしろ」がないせいではないか。そこに糊をきちんと塗らなければ形が整わない、最後には隠れてしまう部分にたいする敬意を彼女が有していなかったせいではないのか。                        (p146より引用)

何かとせわしない世の中だけれど、自分も心の「のりしろ」が足りていないのかも、とふと思いました。最初に静かな小説だと書いたけれど、実際は静かな部分ばかりでもなくて、過去の歴史的な競馬の部分などは、生き生きと爆発的。ラストもいいです。

さて、この小説の中で、島村利正、瀧井孝という作家の小説が多く引用されるのだけれど、私にはきっとこの人たちの小説を読むことは出来ないだろうなぁ。それこそ、静かに待ち、余白に敬意を表する、本読みとしての実力が問われるわけで…。実は堀江さんの文にしても、味わうのにちょっと自分の実力がギリギリかなぁ、とも思うのだけれど、時にこういう文章に触れるのもいい経験だと思いました。とんとんと、焦っていた心がならされて落ち着くのでしょう。

最初に新卒の時の話を少し書いたのですが、あれから○年、実はこの12月からまた「新入社員」となりました。それまでと同じ場所で働いているので、環境がそう変わるわけではないのだけれど、働き方の形態が変わると、やはり少し焦ってしまう部分もあって。気ばかり焦って本も落ち着いて読めなかったりしたのですが、心の「のりしろ」を大事に楽しく働いていきたいなぁ、と思いました。

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

←こちらは文庫。都電が可愛いですね。
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:
http://tsuna11.blog70.fc2.com/tb.php/108-d8e720d1
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫
プロフィール

つな がる

Author:つな がる
つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
興味を持った記事があったり、あなたが読み終えた本について語っていたら、是非あなたの感想を教えて下さい。お待ちしています。

2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

掲示板その他リンク

ユーザータグ
最近の記事
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

RSSフィード
カウンター

月別アーカイブ
検索エンジン情報
Googleボットチェッカー Yahoo!ボットチェッカー MSNボットチェッカー

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。