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「錦絵双花伝」/虚と実とそして・・・

 2006-12-28-00:11
米村 圭伍
錦絵双花伝

風流冷飯伝 」、「退屈姫君伝 」の米村さん、長編三作目がこの「錦絵双花伝」とのことだったので、借りてきたんですが、私はまたやってしまいましたよ。関連はしているものの、シリーズとしては退屈姫君伝とは違う時間軸で時間が流れているみたい。「退屈姫君伝」シリーズを読みたければ、そのまま素直に「退屈姫君 海を渡る」にいっちゃって良かったようデス。それはさておき、こちらの本の感想をば。

目次
序幕 薄墨
二幕目 笠森お仙
三幕目 柳屋お藤
四幕目 鈴木春信
五幕目 大田直次郎
六幕目 むささび五兵衛
七幕目 怪光
八幕目 変化
九幕目 飛翔
十幕目 熊野行
十一幕目 父娘
十二幕目 嫁入

「風流冷飯伝」、「退屈姫君伝」を読んで、この作家さんは沢山の知識を持っていながら、物語を語る上ではそれを贅沢にざばざばと捨てているんだなぁ、と思っていた。で、そういった知識をきっちり使ったらどうなるのかなぁ、と思っていたんだけど、私の印象で言えば、それがこちらの「錦絵双花伝」。それらの知識を殆ど余すことなく用い、実在の人物、出来事と虚の部分を非常に巧みに絡めたストーリー。ただし、その分、退屈姫君伝などで見られた、あっけらかんとした呑気な雰囲気は随分と陰を顰めている。

これは、お江戸美少女旋風の話であり、とりかへばや物語でもあるんだけど、物語の内容としては、いっそ陰惨とも言える。田沼意次による藩の取り潰しにしても、「退屈姫君伝」の中で描かれるそれは、めだか姫や風見藩の人々の呑気さによるものなのか、身体の危機に迫るものではない。悪人の血は流れるけれど、大半の良い人々は良い人々のまま。悪人を悪人として、ある意味紋切り型に描く「退屈姫君伝」よりも、悪人側の事情が描かれる事で、また遣り切れなさが募るのかも。ほとんど愚かともいえる何とも哀れな女や、因果が巡る様も描かれるしねえ。その辺を考えると、ちょっとしみじみ。

「退屈姫君伝」ではお馴染みの、くの一の真っくろ黒助のお仙。そういえばお仙の父、むささび五兵衛が営む茶屋は笠森にあったわけだけど、でもでも、それが鈴木晴信の美人画「笠森お仙」のモデルだなんてー。もう一つの「花」、つまり双花の片割れは、これまた美人画に描かれた、柳屋お藤なのであります。このお藤はそばかすを除けば、なぜかお仙にそっくりで・・・。取り潰しにあった藩の武家の娘であるお藤と、熊野の山奥で育ったくの一のお仙に果たして何の関係が?
というわけで、これは錦絵に咲いた双つの花、お仙とお藤の物語。

小さい頃を知っていた女の子が美人に育つのは嬉しいもので、その辺はちょっと嬉しく読んだんだけど、内容は結構ハード。実際に合った出来事を盛り込みつつ、終盤は伝奇小説的な要素まで絡んでくる。ある一点を除けば、納まるべきところに納まったんだろうけど、その一点のその後についても気になるなぁ。あ、倉知の旦那は珍しく頑張ってます。

好きか嫌いかで言えば、やっぱり「退屈姫君伝」シリーズの呑気な雰囲気が好きだけど、ま、たまにはこういうのもいいかな、と思った。そういえば、田沼時代を舞台にした時代物としては、この他にも、池波正太郎「剣客商売」、諸田玲子「お鳥見女房」なんかもあるわけで、この時代は小説にし易い時代であったのかなぁ。
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2006年読書的覚書

 2006-12-27-09:38
今年は暖かい期間が長かったせいで、どうも年末気分が盛り上がりませんが(銀杏の葉だって、まだまだ黄金色に輝いてるし)、時は既に年末ということで、2006年のワタクシ的読書を纏めておこうかと思います。全て該当記事にリンクしてます。

2006年に初めて出会った作家さんとしては、ダントツで古川日出男
エッジの効いた文章が、ガシガシと色鮮やかな世界を描き出します。
でもって、ええ、こんなんまで買っちゃいましたよー(ユリイカなんて初めて買った・・・)。

?

・「アラビアの夜の種族 」?
・「サウンドトラック 」?
・「13
(・短編集「ルート350 」:これはちょっと汲み取れたとは言えず・・・)

後は、舞城王太郎。奈津川ファミリー・サーガ続編の「暗闇の中で子供」。
購入はしたけど、まだ読めてません・・・。来年こそ読むぞ!

・「煙か土か食い物 」?


今年は時代物も結構読んでまして、米村圭伍や、諸田玲子さんなど、安心して読めるシリーズに出会う事が出来ました。あ、あと変形としては、西條奈加さんの「金春屋ゴメスシリーズ 」なんかも楽しかった。

・「風流冷飯伝 」米村圭伍
・「退屈姫君伝 」米村圭伍
・「お鳥見女房 」諸田玲子
・「蛍の行方―お鳥見女房
 シリーズではないけれど、諸田さんの「犬吉 」、「髭麻呂 」(時代は平安)なども。

これらの時代物を更に楽しむためというだけではないんだけど、杉浦日向子さんの江戸物も楽しかったなぁ。身体は現代日本に置いていたのかも知れないけれど、心はするりと江戸に飛んでいたような、杉浦さんと共に時空を旅する感じ。

世界の歴史物まで広げれば、佐藤賢一さんもゆるゆると読み続けてるんですが、今年出会ったものとしては、森福都さんの中国物。

・「吃逆

さて更に、一度出会ってはいたものの、今年、再会を果たし惚れ込んだ作家さんとしては、カズオ・イシグロ川上弘美京極夏彦京極さんはずっと好きは好きだったんだけど、今年、巷説百物語シリーズを全部読んだ事や、京極堂シリーズの新刊が出た事で、再度京極熱が盛り上がってまいりました。

カズオ・イシグロは長らく「日の名残り」を読んだきりだったんだけど、「わたしを離さないで」がすっごく良くてですねー。これ、私の2006年ベストワンです。まだ纏めてないんですが、「日の名残り」も読み直したら、滅び行く美しさの中に、郷愁や悔恨、希望が丹念に織り込まれた美しい小説でした。

・「わたしを離さないで
・「わたしたちが孤児だったころ

川上弘美さんは、芥川賞受賞作、「蛇を踏む」が読んだ当時はわけが分からなかったし、芥川賞はどうも自分には合わないという先入観もあったので、これまた長らくそのまんまだったんです。「蛇を踏む」もその内、リベンジしたいと思っています。今だったら読めるかも?

・「神様
・「センセイの鞄
・「古道具中野商店
・「ニシノユキヒコの恋と冒険

京極夏彦さんの「巷説百物語」は好きだったんだけど、続と後と三作全部を読まないと全てが立ち上がってこないという、凝った作りの大きな物語だったんですね、これ。全部読んで、唸りました、うん。

・「続巷説百物語
・「後巷説百物語
・「邪魅の雫 」(京極堂シリーズ最新刊)

更に、今年は「魔法の本棚シリーズ 」なんていう、魅惑の短編集も読んじゃいまして、この辺も色々読んでいけたらなぁ、と思います。「英国短篇小説の愉しみ」シリーズも買っちゃったしね。



来年は買い込んだものの、積読になってるやつらをやっつける事も課題です。古本屋で買い込んだ米原万里さんとか、ストリートキッズの最新刊であり最終巻である「砂漠で溺れるわけにはいかない」とか、その他個人的に借り込んでいるものとか。図書館に行っちゃうと、ついつい限界まで借りちゃうんですよね。二週間で10冊。やはりそれなりにアップアップです・・・。

来年もまた良い物語に出会えますように!

「江戸アルキ帖」/江戸の町を歩いてみれば

 2006-12-25-22:33
始まりは日本橋。そこから管理局を通っての、お江戸探索が始まるのだ・・・。

杉浦 日向子

江戸アルキ帖

ペーパートラベラーを返上し、民間の教習所で短期講習を受け直した杉浦さん。これからは、毎週日曜日に江戸へ行く事に決めたそうな。一切の物品の持ち込み、持ち出しは禁止され、スケッチは帰ってから描くのだとの事。これは、杉浦さんのスケッチ付きのお江戸探索記。

銭湯を楽しみ、蕎麦を楽しみ、横丁をひやかす。途中からは検定三級に合格し、二十一時まで滞在可能となるけれど、基本的には江戸での移動は徒歩か猪牙舟のみ。ゆるゆると変わる景色を杉浦さんと共に楽しむことが出来る。

四谷では、御家人の内職を覗き見し(ああ、「嗤う伊右衛門」!)、 采女ヶ原では馬場での訓練を見物、亀戸梅屋敷では名古木「臥竜梅」を鑑賞し、雑司が谷では森林浴で疲れを癒す(「お鳥見女房 」!)。品川では汐干狩を見物し、東領国では芝居小屋をひやかす。見開き二ページの片側がスケッチ、もう一方に文章が載る。入りの戸である江戸の景色は海が近く、また遠くに富士を望む事も出来る。箱庭のような江戸の景色が美しい。

江戸時代といってもそれは長い期間に及ぶわけだけれど、ここに記されているのは(多分)古くは延享三年(1746年)、新しいところで慶応三年(1867年)までかな。この年代の違いが分かれば、より楽しめるのかも。私はそこまでは至りませんでした、残念~。

隠居暮らしを羨み、江戸の「息子」の良さを語る杉浦さん。お坊ちゃまにも似ている息子だけれど、その違いはこんなところ。息子にはヌケたところがあって、浮かれて遊んでいる間に突然勘当されたりする(そして、息子の親は厳格頑迷に決まってる!)。この良いご身分をあっけなくフイにする危うさが、息子に甘やかな色気を与えているよう。

杉浦さんは、本当にこうやってふいっと江戸の町に行ってしまったのかもしれないなぁ。
生前、東京の街を歩いていても、時空を超えて、ふいっと江戸の町へ入っていたのかも。
そうであっても何の不思議もないような、不思議な不思議なタイムトラベル・ガイド本であり、江戸をこよなく愛した杉浦さんらしい一冊です。

「センセイの鞄」/恋すてふ

 2006-12-23-00:46
川上 弘美
センセイの鞄

目次
月と電池
ひよこ
二十二個の星
キノコ狩 その1
キノコ狩 その2
お正月
多生
花見 その1
花見 その2
ラッキーチャンス
梅雨の蕾
島へ その1
島へ その2
干潟―夢
こおろぎ
公園で
センセイの鞄

駅前での一杯飲み屋での十数年ぶりの再会から、逢瀬を重ねるセンセイとわたし。センセイは、わたし、月子の高校時代の国語の教師であった。二人は「センセイ」、「ツキコさん」と呼び合い、共に酒を愉しむ仲になる。

逢瀬といっても最初の頃は、それは実に淡い交わり。歳は三十と少し離れているけれど、肴の好み、人との間の取り方が似ている二人は互いに近しく思う。

淡い交わりはいつしか恋に変わる。しかし、それはツキコさんの一人芝居のようにも見え、またツキコさんの前にも高校時代の同級生である男、小島孝が現れる。年齢的にも、また男性としても、ふつうの女であれば、こちらの方が相応しいと思われる小島孝であるけれど、しかし彼はツキコさんには馴染まない。

ああ、こういうのって分かるなぁと思ったのが、以下の部分。

 年齢と、それにあいふさわしい言動。小島孝の時間は均等に流れ、小島孝のからだも心も均等に成長した。
 いっぽうのわたしは、たぶん、いまだにきちんとした「大人」になっていない。小学校のころ、わたしはずいぶんと大人だった。しかし中学、高校、と時間が進むにつれて、はんたいに大人でなくなっていった。さらに時間がたつと、すっかり子供じみた人間になってしまった。時間と仲よくできない質なのかもしれない。

センセイもツキコさんも、時間からはぐれた迷子のような人間だったのかも。

途中まではこんなにずっぽり恋愛になるとは思わずに読んでいたので、花見におけるツキコさんの嫉妬心に驚いたり、面白がったりしながら読んでいた。いや、この二人、相当すっとぼけているのですよ。けれども、花見を過ぎた中盤あたりからは、時間が限られている恋愛に切なくなった。勿論、若い人であっても持っている時間は無限ではないけれど・・・。あわあわと、しかし濃ゆくもある、恋物語。

 ← こちらは文春文庫

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「鴨川ホルモー」/恋せよ、若人

 2006-12-21-23:36
 
万城目 学
鴨川ホルモー 
産業編集センター

目次
 はじめに
その一 京大青竜会
その二 宵山協定
その三 吉田代替わりの儀
その四 処女ホルモー
その五 京大青竜会ブルース
その六 鴨川十七条ホルモー
 エピローグ
 あとがき

ホルモーとは何ぞや? それは京都の街の一部に、脈々と受け継がれるある種の競技なんだという。
京都の市井に響くという悲痛な「ホルモー」という叫び声。
さて、人はそれを耳にした事がありやなしや。

主人公は二浪の末、京大に目出度く入学した安倍という男。彼は成り行きで、どこか怪しげな、京大青竜会なるサークルに入ることになったのだが・・・。どの代にも常にきっちり十名の学生が揃い、また二期毎に代替わりが行われるというこのサークル。この人数には、またこのサイクルには何の意味が?

東の青竜、南の朱雀、西の百虎、北の玄武。実は、京大青竜会だけではなく、京都の街の残りの三校にも、「ホルモー」を目的とするサークルが存在したのだ・・・。

陰陽系の話であるとか、鬼、式神については、そうディープなものではない(茶巾絞りのような頭をした式神って、どっかに由来があるんでしょうか?)。「吉田代替わりの会」とか、物凄くギャグだし。いや、これで笑うのはどうかと思うんだけど、電車の中で読んでたので、ちょっと辛かったですよ・・・。これはだから、その辺を道具立てとした、青春小説なんだろう。物語が動き出すのも結構遅いし、長くすべきところ、短くすべきところなど、お話としてのポイントはちょっとずれてるようにも思うんだけど、なんというか、垢抜けない大学生活を懐かしく思い出すような本でもありました。

帰国子女であるところ、無意味にポジティブであるところなど、安倍の友人、高村には「
金春屋ゴメス 」シリーズの松吉を思い出した。高村の場合、途中の髪型もアレだしねえ。

祭りもいっぱいあるし、楽しそうだよなぁ、京都で送る学生生活。京都の大学生になってみたかったなぁ、などとも思ったのでした。

「魔法の本棚シリーズ」

 2006-12-21-21:27
国書刊行会から出版されているこのシリーズは、全部で六冊。此度、目出度く読破致しました。

というわけで、読んだ順に並べて、ちょっと整理しておこうかと思います。

訳者の南條さんと、表紙絵の綺麗さに惹かれて借りてきた「幽霊船」が、このシリーズとの出会いでした。「幽霊船」は、全編、程よい感傷と疎外された感受性と、それでも尚強い自分の中での自信のようなものを感じる、ちょっと習作のようでもある短編集でした。表題作の「幽霊船」が良かったです。

 ◆リチャード ミドルトン, Richard Middleton, 南條 竹則 「幽霊船

奇妙な世界の片隅で 」のkazuouさんに、これがシリーズの内の一冊であることをお聞きして、更にこのシリーズを読み進めてみることにしました。「魔法の本棚」というシリーズ名が、これまた魅力的ではないですか。

 ◆ロバート エイクマン, Robert Aickman, 今本 渉 「奥の部屋
・・・・朧に正体が見えかけた、と思ったところで、話がすとんと終わってしまう、尾を引くストレインジ・ストーリーたち。

 ◆H.R. ウエイクフィールド, H.R. Wakefield, 倉阪 鬼一郎, 西崎 憲, 鈴木 克昌 「赤い館
・・・・これぞ怪奇小説という、薫り高い物語たち。

 ◆アレクサンドル・グリーン, 沼野 充義, 岩本 和久 「消えた太陽 」?
・・・・超自然的なもの、人間の心の中に潜むもの。それらがある種の透明さを持って語られる。これまで親しんできたような所謂幻想的な物語とは一味違うけれど、やはり幻想的な物語たち。

 ◆ヨナス リー, Jonas Lie, 中野 善夫 「漁師とドラウグ
・・・・ノルウェーの民間伝承が元になっているようだけれど、泥臭さをほんの香り程度残した、適度に洗練された物語たち。

 ◆A.E. コッパード, A.E. Coppard, 西崎 憲 「郵便局と蛇
・・・・キリスト教に関わるもの、村を舞台にしたもの、恋愛小説的なもの、ファンタジーなど、種類は色々あるけれど、ファンタジーのかっ飛び具合が素晴らしい。



kazuouさんも仰るように、このシリーズはどうもマイナーなようなので、読んでおられる方もあまりいらっしゃらないかもしれないけれど、六冊が六冊ともバラエティに富んでいて、また中にはこれまで読んだことのなかったような物語も含まれていて、楽しい読書体験をする事が出来ました。

並べてみると表紙も綺麗♪ 濃色を背景にしているのは共通しているけれど、それぞれ、工夫されている感じがするなぁ。

いや、しかし、出版社別カテゴリーにする事を決めたとき、まさか自分が国書刊行会の本を六冊も読むとは思いもしませんでした・・・。国会図書館と国書刊行会をごっちゃにしてるくらいだったのにさ。

「郵便局と蛇」 /自然と不思議と

 2006-12-20-21:49
 
A.E. コッパード, A.E. Coppard, 西崎 憲
郵便局と蛇 

目次
銀色のサーカス
郵便局と蛇
うすのろサイモン
若く美しい柳
辛子の野原
ポリー・モーガン
王女と太鼓
幼子は迷いけり
シオンへの行進

巻末の「A・E・コッパードについて」によると、コッパードの作品は、キリスト教に関わるもの、村を舞台にしたもの、恋愛小説的なもの、ファンタジー、の四種に大別できるそうである。で、この「郵便局と蛇」は、その四種の中からランダムに編まれたものだとのこと。

虎の毛皮を被り、ライオンと闘う羽目になった男の話(銀色のサーカス)。
いつか世を滅ぼすとの予言をされ、封じ込められて最後の審判の日の前日までは、沼から出られない王子の話(郵便局と蛇)。
天国の悦びを探しに行った、幸福だった事が生涯三度しかなかった男、うすのろサイモンの話(うすのろサイモン)。
とある街道に立っていた、若く優美な、けれど一人ぼっちだった柳の話(若く美しい柳)。
薪を拾いにやって来た三人の女たちの話(辛子の野原)。
アガサ伯母と幽霊との蜜月を壊してしまった、ポリーとジョニーの話(ポリー・モーガン)。
戴冠することのない王女に、王冠の代わりに渡された太鼓の話(王女と太鼓)。
エヴァとトムの息子、無気力なデヴィッドの子供時代から青年時代までの話(幼子は迷いけり)。
旅をするミカエルの話(シオンへの行進)。

こう羅列してみただけでも、かなりのバラエティに富んだ話だと思う。美しい自然描写も魅力的だし、「うすのろサイモン」における天国へのエレヴェーターなど、ほんのぽっちり挿入される超自然的なアイテムも魅力的。

この中で私が好きだったのは、「辛子の野原」、「王女の太鼓」、「シオンへの行進」の三編。

辛子の野原」は、薪を拾いにやって来た女たちが、野原の中でただ語り合うという話で、不思議な事などは何もない。過ぎ去った男を追憶する二人の女、最後に一人の女が見つける一シリング銅貨など、平凡な人生にも過去それなりの出来事があり、それら全てを内包して人生は続くんだな、と思った。最後には小さな希望が残っていたり、ね。

王女の太鼓」は、家出した孤児のちびのキンセラが出会った王女トゥルースの話。戴冠式は常に延期され、王冠の代わりを求めた王女に与えられたのが太鼓、というこの突拍子もなさがいいなぁ。王女の見張りをしているのは、巨人のハックボーンズだったりね。この太鼓は実に美しく、「太鼓の胴には惜しげもなく黄金が用いられ、皮はもっとも神聖な獣の皮。飾り鋲と楔は水晶と柘榴石。絹の吊革、翠色も鮮やかな房飾り、黒壇の枹が一対」付いているのだそうな。

シオンへの行進」は、天国への旅路ということなのかなぁ。巻末の「A・E・コッパードについて」にもあるような、コッパードのキリスト教への不信感を表しているような気もするお話。旅をするわたし(ミカエル)の相棒となったのは、絹の舌と鉄拳を併せ持つ修道士。修道士は罪を犯す男を打ち殺す・・・。更に彼らと共に歩むことになったのは、自分が見た夢のために祈るマリア。

これは私にとっては「魔法の本棚シリーズ」の最後の一冊だったんだけど、これもまた不思議な味わいのお話でした。思いっきり怪奇小説している「
赤い館 」を除いて、この「魔法の本棚シリーズ」は自然描写がどれもこれも素晴らしい物語でした。美しい自然の中にあってこそ、「魔法」が活きるのかしらん。?

「春期限定いちごタルト事件」/小市民を目指すぼくらは・・・

 2006-12-18-20:10
米澤 穂信
春期限定いちごタルト事件

目次
 プロローグ
羊の着ぐるみ
For your eyes only
おいしいココアの作り方
はらふくるるわざ
虎狼の心
 エピローグ

青春とは熱く滾る気持ちを抱えて、ただひたすらに燃えるもの?
それとも若さを胸に、明るく物事に向き合っていくもの?

いやいや、ここにそれらとは対極の場所を目指す二つの青春がある。若々しさからも瑞々しさからも、何だか遠くにあるように見えちゃうこの二人。清く慎ましい小市民を目指すのだ、と事ある毎に確認するのだけれど、わざわざそんな確認をする辺り、何だかちょーっと怪しいわけで・・・。

さて、小鳩くんと小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが、互恵関係にある高校一年生。二人して無事にこの春、船戸高校に合格を果たした。ある意味で、「高校デビュー」を目指すこの二人。
さあ、この二人の過去には一体何が?

小鳩くんの過去の方は、語り手がこの小鳩くんであるために、早々に知れるのだけれど、小佐内さんの方は最終章を待ってから。小動物を思わせるような外見に、いつも小鳩くんの後ろに隠れてしまう、地味さ全開の小佐内さん。嗚呼、過去の姿を是非見てみたい!

物語の方は、所謂日常の謎系ミステリー。校内など、身辺で起こった謎を、小鳩くんが解いていくスタイル。しかし、この小鳩くんは小市民を目指しているわけで、本来は探偵の真似事などもっての外。そう、それは過去、苦い思いの下に、彼が封印したはずのものだったのだ。この辺、彼が煩悶しながら進んでいくところが、面白いところ。短編一つ一つで解決される謎に、この小鳩くんと小佐内さんがなぜ互恵関係にあるのか、なぜこの二人は小市民を目指すのかという謎が重なっていくわけ。

先が気になって、どんどん読み進んでしまいましたよ。ライトノベル風味なので、実際、早く読めちゃうんだけど・・・。古本屋で見つけて買ったんだけど、続編は新刊で買う事になりそうです。次はどんな二人に出会えるのかなぁ。

小鳩くんの幼馴染の健吾もいい味出してます。いまのお前みたいにこそこそこぢんまりしたやつとは、俺は付き合いたいとは思わない」っていうのも、ある意味、真実を突いている。今後は、どうする、どうなる?、小鳩常悟朗。

 ← これが続き。今度は夏期限定のトロピカルパフェだそうな。
          流石、甘いもの大好き小佐内さん。
          これ、読んでると甘いものを食べたくなるような気も・・・。笑
          いや、甘いものが苦手な人だと胸焼けするかな?

「風流冷飯伝」/風見藩が冷飯ども

 2006-12-17-00:19
米村 圭伍
風流冷飯伝

目次
その一  桜道なぜ魚屋(ぼてふり)に 嗤われる
      冷飯の逃げ足冴える時分どき
その二  あれもうもうたまりませんと娘連
      どうもそう見られていては食えやせん
その三  のどかさや凧をあやつる怪物(おじょも)かな
  
    しびれさせ峯紫は跡白波
その四  眉に唾たいこ狐に化かされて
      藻屑蟹に勝負をいどむ一角獣(うにこうる)
その五  短さが哀れを誘うお行列
      手毬唄つまらぬ殿は雪隠に
その六  通えどもつれない素振りの小町さん
      もてあます葛篭の底の春画本
その七  解けました源内作の手毬唄
      大暴れ冷飯どもが夢の跡
その八  駒が舞う不成(ならず)の妙手剣四郎
      詰将棋はたして詰むや詰まざるや
その九  あれごらん凧のおじちゃん右回り
      晴れ舞台降るは喝采花の雨
その十  友がため振るう天賦の舌三寸
      入婿の閨を怖がる情けなさ
その十一 嫂の剃刀を研ぐ怖い顔
      締められて蛤に泣く俄か医者
その十二 へぼ将棋待った反則咲き乱れ
      剣四郎とどめの一手地獄落ち
その十三 鹿島立ち姉の手蹟を懐に
      だるまさん田沼転んで都詰め
その十四 別杯に乙な合いの手波の音
      帰りなん薫風に袖なびかせて

退屈姫君伝 」で風見藩を探りに行ったまま、行方不明となっていた、お仙の兄、一八。?
彼は一体何をやっていたのかといいますると、そう、実はこんな事をやっていたのです。
という、「退屈姫君伝」とは表裏をなすような物語。

幕府隠密の手先となって、風見藩に潜入した一八は、そこで冷飯食いの数馬と出会う。江戸の幇間に化けた一八。早速、武家である数馬にたかろうとするが、小藩である風見藩の冷飯食いであるからして、数馬には当然金などない。しかししかし、一八は一銭の金にもならないと知りながら、この「見るが極楽」でどことなくとぼけた冷飯、数馬の友となるのだった。そして、隠密の手先でありながら、随分と風見藩に肩入れして、この小藩の行く末に気をもむ事になる。この辺は、めだか姫に肩入れするお仙と一緒。流石兄妹ともいえるのかなー。

先々代の藩主が定めたという、奇妙なしきたりが数多く存在する風見藩。そして、そこでつましく暮らす冷飯ども。最初は奇妙なしきたりを律儀に守るちょっとヘンな奴ら、無為の時を過ごす冷飯どもと、この小藩に住む人々を冷笑していた一八だったけれど・・・。

風見藩は、「武家が武家たる誇りと慎みを忘れ、金が全てを支配する世の中になってみよ、それで万民が幸せになると思うか」なんていう正論をきっちり吐く男がいる藩であり、遊び心を十分に持つ心豊かな藩であった。一八でなくとも、風見藩の人々には心惹かれてしまうよな。

さて、このシリーズでちょっと面白いのは、何かと悪評ふんぷんの、第十代将軍家治が、単なる趣味人ではなく、なかなかの大人物に描かれている事。ほんのぽっちりしか登場しないのだけど、ちょっと気になる存在なんだ。あ、で、彼が重用した田沼意次は、通説どおりというか、きっちり悪い感じに描かれてるけど。笑

もう一つ付け加えるとすれば、性に関する大らかな記述もこのシリーズの特長かなぁ。「退屈姫君伝」でもそういう描写は出てきたけれど、こちらの「冷飯伝」に出てくるのは、江戸前の男を何よりの好物とする、飯盛女おふく。何も知らずに寝ている男性はご用心。おふくの餌食となってしまうのだ!(それは、ほとんど悪夢のようなもの、であるらしい) でも、実はこんな設定も後できっちり意味が出てくるんだよね。「退屈姫君伝」も「風流冷飯伝」のどちらも、女性優位だなー、とも思うけど。笑 いや、働く女性の強さなのかなー。

 ← こちらは文庫

「漁師とドラウグ」/海と風と、魔物と

 2006-12-14-23:52
ヨナス リー, Jonas Lie, 中野 善夫
漁師とドラウグ ?

目次
漁師とドラウグ
スヨーホルメンのヨー
綱引き
岩の抽斗
アンドヴァルの鳥
イサクと牧師
風のトロル
妖魚
ラップ人の血
青い山脈の西で
「あたしだよ」
訳者あとがき

訳者あとがきから引きますと、「本書は北欧の国ノルウェーの海と森と山を舞台にトロルや海底の死人の王や風を売る妖術師らが活躍する幻想と怪奇に満ちた物語集」。うーん、この説明はほんと過不足ないな。

色々なこの世ならぬものが出てくるのだけど、繰り返し出てくるのが、「ドラウグ」という魔物。同じくあとがきから引きますと、「民間伝承に登場するドラウグは、姿は頭のない男の格好をし、頭の代わりに海草の塊を載せていることもある」らしい。ドラウグは難破船を操って航海をし、このドラウグに海の上で出会ったものは、近いうちに溺れて死ぬのだという。まさに北の海に相応しい魔物。そうだなー、タニス・リーの「
ゴルゴン―幻獣夜話 」に収録されていた、「海豹」における、海の民シールスを思い出した。

ノルウェーの民間伝承が元になっているようだけれど、泥臭さをほんの香り程度残した、適度に洗練された物語。「漁師とドラウグ」、「風のトロル」のような容赦の無い結末を迎えるものから、どこか滑稽味のある「あたしだよ」のような物語まで、幻想的な物語を楽しんだ。一つ一つの物語については書かないけれど、「魔法の本棚」シリーズの中では、本書が一番読み易くて、自分がこれまで親しんできたものに近かった感じ。

挿画もいい感じ。ちょっとおっかないような絵なんだけど、この幻想的な物語には相応しい。
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プロフィール

つな がる

Author:つな がる
つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
興味を持った記事があったり、あなたが読み終えた本について語っていたら、是非あなたの感想を教えて下さい。お待ちしています。

2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

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