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「ロンドンAtoZ」/LはロンドンのL!

 2006-11-30-22:12
小林 章夫
ロンドンA to Z
丸善ライブラリー

  何しろ、ロンドンには人生が与えうる一切のものがある (S.ジョンソン)

A~Zまで、アルファベット順に並べられた、ロンドン百科。

目次
プロローグ
A アビイは悪の巣窟
B ブリッジの上にも人生がある
C 誇り高きシティ
D ドック今昔
E エレキがもたらしたもの
F 大火(ファイア)は近代ロンドンの出発点
G 恐怖の監獄ニューゲイト
H ハロッズは世界に奉仕する
I 第三の大学、法学院(インズ・オブ・コート)
J ジャーミンとセント・ジェームズ
K キュー・ガーデンの建築家チェインバーズ
L ロイズ保険会社の沿革
M メイヒューの見たヴィクトリア朝ロンドン
N ニュー・リヴァー株式会社
O オックスフォード・ストリートは処刑場への道
P ペストに負けぬピープス
Q オールドQの女漁り
R リフォーム・クラブの行く末
S ストウの見たロンドン
T タワー・ヒルはいかさま師の巣
U ロンドン地下鉄(アンダーグラウンド・レイルウェイ)今昔
V ヴォクソール遊園地の賑わい
W ロンドン市長ウィルクス
X ロンドンのXマス
Y ヨーマン・ウォーダーズと幽霊
Z 動物園(ズー)の「スター」たち
エピローグ
参考文献
あとがき

手軽にぱらぱらめくる事が出来る新書。だけに、素早く忘れてしまいそうでもあるんだけど・・・。

そうだなー、へー、ほー、と楽しくぱらぱらめくったんだけど、精読したわけではありません。

今回は完全にメモのみ。この目次が面白くて、載せてみたかったのです。笑
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「わたしたちが孤児だったころ」/揺らぐ世界の中で・・・・

 2006-11-29-21:57
カズオ イシグロ, Kazuo Ishiguro, 入江 真佐子
わたしたちが孤児だったころ

わたしを離さないで 」のカズオ・イシグロ熱が冷めやらないまま、読んでみました、こちらの一冊。上海の租界で育ったイギリス人、ロンドンの社交界、私立探偵・・・と、私が好きな要素が詰まっていたので、「わたしは~」の次の一冊に選んだんだけど、流石カズオ・イシグロ。一筋縄ではいかない感じでありました。

目次
PART? 1930年7月24日 ロンドン
PART? 1931年5月15日 ロンドン
PART? 1937年4月12日 ロンドン
PART? 1937年9月20日 上海、キャセイ・ホテル
PART? 1937年9月29日 上海、キャセイ・ホテル
PART? 1937年10月20日 上海、キャセイ・ホテル
PART? 1958年11月14日 ロンドン
訳者あとがき

主人公は、クリストファー・バンクス(幼少時のニックネームはパフィン)というイギリス人男性。幼少時を上海の租界で過ごした彼は、十歳にして両親を失う。父と母が別々に失踪を遂げたのだ。クリストファーはイギリスに住む裕福な伯母の元へと、ひとり送り返されることになる・・・。

寄宿学校とケンブリッジ大学を順調に卒業した彼は、いよいよ兼ねてからの計画に乗り出すことになる。それは、私立探偵になるということ。これは、勿論ついに行方が知れなかった彼の両親の事と無縁ではない。そう、上海での最後の幼き日々、隣家の少年、アキラと父を探す警官ごっこをしたように。

私立探偵としてこちらも順調に名を上げた彼は、いよいよ満を侍して上海に乗り込むことになる。強い倫理観を持つ気高く美しい母は、イギリスの企業がアヘン貿易に手を染めている事に対していつも憤っていた。その企業には、夫が勤め、彼ら一家の生活を支えていた企業までもが含まれていたのだが・・・。

クリストファーは母の強い倫理観や、その母に応えようとする父の行動が、謎の失踪事件に関わっていると考え、事件から20年以上が経過しているにも関わらず、両親の無事を疑わない。そう、彼らはきっとどこかに幽閉されているだけであり、探偵として力をつけて来た彼の力をもってすれば、事件は解決するはずなのだ。また、クリストファーが乗り込んだ上海の社交界の人々も、彼の快挙を疑わないように見えるのだが・・・。
語り手はクリストファーなのだけれど、読者はこの語り手をどこまで信用していいのか分からない。最初からちらほら覗く、彼の主観と客観とのズレが、段々大きくなってくるようでもある。臨場感溢れる今現在の供述のようでいて、「とはいえ、これは~年(日)前のことだ」というように、読者はそれが既に起こってしまった事の回想であることを後から知る。そう、読んでいる内に、世界はどんどん揺らいでいくのだ。

20数年前のたった二人が消えた事件を、世の人々はいつまで覚えているものなのだろうか? 本当に彼らの無事を信じているのだろうか? そして、クリストファーが、自身に寄せられていると信じている期待は本物なのか? 既に日中戦争が始まっており、優雅で怠惰な上海租界の社交界で行われるパーティーの外では、日本軍による爆撃が光る。悪と戦ってきた私立探偵は、この状況をも、たった一人で変えられるというのだろうか。

わたしたちが孤児だったころ。この作品に出てくる孤児は、三人。クリストファー自身。クリストファーが惹かれる女性、サラ。クリストファーが引き取った、身寄りのない少女、ジェニファー。何かの証を立てたいと必死に願っていたサラは、既に引退しようとしていた名士、セシルとの婚姻にその証を得た。ジェニファーは両親がいないことなど物ともせぬような、生気あふれる賢い少女であったが・・・。

わたしたちが孤児だったころ。訳者あとがきのイシグロの言葉にもあるように、「過去にこのような強いトラウマを持たないふつうの人々も、親の庇護のもとでぬくぬくと暮らしていたところから巣立ち、初めて現実の世界に立ち向かったとき、世界とは親から聞かされていたようなすばらしいところでは決してないという事実に直面させられる。突然、世間の荒波の中に放り出されたわたしたちも、言ってみればみな孤児のような時期を経験している」。私たちが、大人の庇護なくして初めて世界に打って出る時、そのとき、私たちはイシグロの言うように、世界に対して無力な孤児なのかもしれない。世界は子供の頃信じていたような、若しくは信じ込まされていたような、温かい、明るい場所だけではない。そして、その外の世界から見れば、個人にとって重要だった出来事も、それは瑣末な出来事になってしまう。

しかし、そうであっても尚、やはり個人にとって重要なことは、その個人にとっては大切な事である。孤児として世に出る私たちは、そこでまた新たな関係性を形作っていくものなのかもしれない。ラスト、養女ジェニファーにも何か良くないことが起こった事が示唆され、もう彼女は生気に溢れた少女ではないことが知れる。それでも、ここまで形作ってきたジェニファーとクリストファーの絆は温かい。
いや、やっぱり良かったですよ、カズオ・イシグロ。さて、次は何を読もうかな~。

 ← こちら文庫。

■カズオ・イシグロの感想
・「
わたしを離さないで 」/この無慈悲な世界の中で ← これにて瞠目
・「
わたしたちが孤児だったころ 」/揺らぐ世界の中で・・・・
・「
女たちの遠い夏 」/陽炎のようなあの夏の思い出・・・(もしくは、「遠い山なみの光」)


*臙脂色の部分は引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「パンダの時間」/野生のパンダ、とことん

 2006-11-27-22:05
ケレン スー, Keren Su, 松井 貴子
パンダの時間(とき)
二見書房

学名は「Ailuropoda melanoleuca」(アイルロポーダ・メラノレウカ)。その語源はギリシャ語の黒(メラス)と白(レウコス)からきているとも、ネパール語のネガリャー・ポンヤ(竹を食べるもの)からきているとも言われる。その動物とはパンダのこと!

パンダはアライグマ科とクマ科の双方の特徴を持つ原始的な哺乳類で、高山の竹林にすみ、笹や竹の葉を食べる。これは、写真家ケレン・スーが野生の大熊猫(ジャイアント・パンダ)を撮った本。表紙の大熊猫という著者による題字も良いよな。

もうねえ、とにかくこの表紙の写真がいいでしょう。思わず大きな画像を載せてしまったことですよ。このパンダの背中の愛らしい事といったら! 河原での穏やかなひと時を満喫するパンダ。横にはこれから食べる竹までおいてある。パンダにとって至福のひと時だったりして。そして、著者の言うとおり、横にある竹はパンダのおやつなのかもしれない(若しくはお弁当か?)。

こういった穏やかな時間だけではなく、実は木登りも大好きだという若いパンダの姿(木の枝にぶら下がって、体を揺すっているとか、でんぐり返ってたりとか!)や、木の又に上手にはまって満足げな姿、更には親子パンダや、じゃれる子パンダたちの姿まで。春夏秋冬、色々なパンダが見られる本。

ちなみにこちら、著者ケレン・スーのHP では、パンダだけではなく、その他の野生動物や世界の様々な国の写真を見ることが出来ます。ケレン・スーは、写真家、画家、探検家であるそうです。すごいね、三足の草鞋? 何はともあれ、たくさんの写真に、うー、満足。?

「サウンドトラック」/青春を駆け抜けろ

 2006-11-23-20:01
古川 日出男
サウンドトラック

青年は護るべきものを見つけ、目覚めたガールは踊りによって外界を揺らし、未だどちらの性にも属さないものは、誠実に現実を射って、一人、烏と共に戦いを挑む。そして、最後に彼らは共闘する。

さて、「
アラビアの夜の種族 」ではまった古川さん。図書館にあるもので次何を読もうかな~、と考えていた私は、amazonやbk1の書評を参考にしました。で、概ね好評だったこの「サウンドトラック」を読んだわけですが、いやー、皆さん良くこれ読みこなしましたね、という感じ。450頁をちょっぴり超える上下二段組と、かなりボリューミーなこの作品は、半分くらいまで読む進まないと、どんな物語かすら分からない。

私が読んだ単行本の表紙を上に載せましたが、今回の場合、こちら、文庫本の表紙の方が内容に合っている様に感じました。多分これは、現実から少し捩れた場所にある、東京を舞台にした青春小説。

? ?


主な登場人物は、トウタとヒツジコとレニ。冒頭は、六歳にしてサバイバル技術を叩き込まれたトウタが、父親とのサバイバル・クルーズの訓練中に、荒れる海の中でいきなり父親を亡くす場面。それまで鳴り響いていた音楽は死に、父親は海に消える。トウタは一人、無人の山羊の島に辿り着く。同じ夜、同じ海で、四歳の幼女、ヒツジコは母親の無理心中に付き合わされていた。同じ夜にヒツジコの乗る客船から出た、浅はかな自殺志願者のために降ろされた救命ボートが彼女を救う。ヒツジコもまた、トウタと同じ島に辿り着く。

トウタとヒツジコは、無人の島で完璧に暮らす。ヒツジコはまた、この島にいる間に経験した地震により、自身の体が重力から解き放たれる瞬間を知る。そして1997年、環境庁の依頼で、東京都が小笠原諸島の北部地域からのヤギの駆除に乗り出す。トウタたちが暮らす無人の島に人が入る。都の職員は、トウタとヒツジコを発見する。保護された彼らは、兄妹として父島で暮らすことになる。

父島の暮らしの中でトウタは苛立ち、ヒツジコはある切っ掛けで、自らが沈められた過去を思い出す。目覚めたヒツジコは、トウタより一足先に島を出る。トウタが島を出るのはもっとずっと後。義務教育を終え、持て余されたトウタが父島にいられなくなるのは、まだ先の2008年の話。

現実から、少しずつ捩れていくのはこの辺りから。小笠原諸島よりも暑いくらいに、熱帯化した東京。東京から既に冬は消失していた。女子高生たちは、冬を非夏と呼びならわす。2004年7月に入管法と外国人登録法が改正され、東京のあちこちに移民街が出現していた。少女と少年の間を自由に行き来するレニは、神楽坂の角付近、通称「レバノン」で暮らしていた。本当のレバノンでは、大叔父は王族の鷹匠(サッカール)だったのだという。サッカールとは、黒い目のハヤブサや黄色い目の大鷹を調教する専門の技術者。レニは東京のレバノンで、ハシブトガラスのクロイのサッカールとなる。

移民街で「非日本人化」が進むにつれ、その反動のように「純日本人化」が進む地域もある。ヒツジコが住み、彼女の学校、テレジアがある西荻窪、通称「ニシオギ」は、純日本人のサンクチュアリと化す。

ヒツジコは踊りの技術を高め、外界を揺らすことを覚える。攻めに転じた彼女は、テレジアを揺らす、揺らす。その舞いは、ほとんど天災。免疫を持つ、揺らされぬ何かを持つ少女以外は、全てその踊りに感染する。ユーコ、フユリン、カナという「免疫体」を従え、ヒツジコは長い髪、長い手足を揺らし、踊る、踊る。

東京には様々な要素が混在する。レニが敵視する「傾斜人」、自称コロポックルたちの住む地下。純日本人、非日本人・・・。正規日本人でありながら、変わった生き方を選ぶ、トウタ、ピアス。移民たちのドクトルとして生きるリリリカルド。熱帯化により爆発的な流行を見せる伝染病。トウタは、ヒツジコは、レニは、それぞれのフェイズで、このイカれた東京の状況と戦うことになる。

面白かったんだけど、この面白さに至るまでが、大変な一冊でありました。一旦、読み始めたら、最後まで読むことをオススメしますが、青春物であるせいか、何となく舞城氏に似たものを感じたり(そして、読みこなすのがちょっと大変?)。文庫本の表紙なんかを見ても、これ、長編のアニメなんかにいいんじゃないかな、と思いました。

amazonを見ると、文庫本の解説は、これまた柴田元幸さんのようですね。立ち読みしなくっちゃ!

この記事を書いた時は、割とブツブツ言ってたんですが、でもこれは読み終わった後の方がじわじわとすっごいクる物語でした。なんか中毒性があるというか。私にとってある意味分りやすかった「アラビアの夜の種族」と比べても、全く見劣りしない物語であったなぁ、と。

以下、トラバのためのリンクです。

物語三昧 」のペトロニウスさんのリンクを辿って、更新を楽しみにしているブログ「族長の初夏 」さんの「サウンドトラック」記事です。

・「サウンドトラック」(上) 古川日出男
http://umiurimasu.exblog.jp/5988131
・「サウンドトラック」(下) 古川日出男
http://umiurimasu.exblog.jp/6010103

「風味絶佳」/甘やかな、甘やかな

 2006-11-21-22:26
山田 詠美
風味絶佳

目次
間食
夕餉
風味絶佳
海の庭
アトリエ
春眠
あとがき

森永のエンジェルマークがついた、ミルクキャラメルを思い出す、黄色い表紙にキャラメルが並ぶ
(同じキャラメルでも、間違っても「一粒300メートル」のグリコじゃないよね。笑)。

口の中で転がしてねっとり蕩ける、キャラメルのような味わいの短編集。

「間食」
鳶職の雄太を巡る女たち。人はみな、「うんと可愛がれるもの」を求めている?

「夕餉」
美々は男に食べさせる。私の作る料理は、男の血や肉となり、私に返って来る。彼の体は私が作る。

「風味絶佳」
横田基地近くでバーを営む、一風変わった「グランマ」を持つ志郎。いつだって女を優先させるレディファーストを代表として、彼女に仕込まれた事は山ほどある。
でも、女の子は、シュガー・アンド・スパイス。女は決して弱いだけの代物ではない。

「海の庭」
作並くんと母親の、やり直しの恋を見つめる私は高校生。私、日向(ひな)の少々苦い恋。
与えられるのがあらかじめ決まっているものなんて一つもない。庭も海もその人だけが作るもの。
塩辛さも甘さも自分で味付けする自由がある。

「アトリエ」
甘やかに麻子を閉じ込めてしまった私。夢見たのは、二人だけのために完璧に準備された空間であり、私はそれに向けて注意深く行動したけれど・・・。

「春眠」
父、梅太郎と大学の同級生、弥生の恋を見守る羽目になった章三。大学時代、密かに弥生に恋していた章三は面白くない。なぜこの二人は惹かれ合い、父は母が生きていた頃には決して見せなかった表情を、章三や妹に見せるのか?
ひっさびっさの詠美さん。そうだなー、良い意味でも悪い意味でも詠美節であり、あんまり変わっていないように感じた。久々だったので、ちょっと変化があるかなぁ、と期待してたんだけど・・・。この世界、嫌いじゃないんだけど、私にはちょっとこってりだったかなぁ。一番好きだったのは、「海の庭」(ああ、でも、これ、恋愛物っつか、観察者だわ)。

 ←そいえば、映画化もされてたんでしたっけ。
              柳楽優弥くん、詠美ワールドにぴったりはまりそうですね。

「わたしを離さないで」/この無慈悲な世界の中で

 2006-11-19-19:42
カズオ イシグロ
わたしを離さないで

1990年代末のイギリス。

十一歳だったキャシー・Hは、ジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』に収められた「わたしを離さないで」を飽くことなく聴く。「ネバーレットミーゴー・・・・・・オー、ベイビー、ベイビー・・・・・・わたしを離さないで・・・・・・」彼女が思い浮かべるのは、一人の女性。子供に恵まれなかったのに、奇跡的に授かった赤ちゃんを胸に抱きしめ歌うのだ・・・。勿論、ここで言う歌詞の「ベイビー」は、赤ちゃんを指すベイビーではない。しかしながら、キャシーにとっては、母親と赤ちゃんの曲だったのだ。

三十一歳となった「介護人」のキャシー・Hは、「介護人」としての生活と、彼女が過ごした子供時代を語る。彼女が子供時代を過ごしたのは、ヘールシャムという施設。

癇癪持ちだけれど、明るい気質を隠そうともしないトミー、いつも思わせぶりながら、多大な影響力を持つルース、他の子供たち・・・。厳格なエミリ先生、率直なルーシー先生、子供たちにとって少々不気味な存在でもあった「マダム」。教えるべきことをきっちりと押さえた丁寧な授業。異様に力を入れられる、「創造的な」図画工作の時間。詩作・・・。繰り返されたトミーへの苛め。毎週の健康診断。外部から遮断され、入念に保護された生活。一風変わった寄宿舎生活にも見える、この施設での生活の秘密が徐々に明かされる・・・。そして、ヘールシャムからの巣立ち。彼女たちは十六歳でこの施設から巣立つ。

抑制の利いた筆致は最後まで崩れる事がないけれど、ここで語られ、やがて立ち上がってくるのは驚愕としか言いようがない世界。この世界の中で、ヘールシャムの子供たちはどう生きたのか? そして、その他の施設からやって来た「子供たち」の間にも根強かった、ある噂。噂は果たして真実なのか?

抑制の利いた筆致は、しかし残酷で無慈悲な世界を暴き出す。知りたがり屋のキャシーとトミー、それに反して信じたがり屋だったルース・・・。人にとって「最善」とは何なのか?

私の文章も、思いっきり思わせぶりになってしまったような気がするけど、これは本来、何の先入観もなしに読んだ本がいい本だから。でも、間違いなく凄い本です。是非是非、読んでみてくださいませ。面白くて読むのが止められなくなる本は、そう多くはないけれど、まぁ、それなりに数はある。
でも、久しぶりに切実な意味で、読むのが止められなくなる本でした。抑制された筆致ながら、胸に迫り繰る切迫感は凄まじいです。

カズオ・イシグロといえば、日の名残り」を読んだ切りだったんだけど(あのころは、イシグロ・カズオじゃなかったっけ?)、読んだときの自分の年齢が幼かったのか、本当にその良さを理解できたとは言えなかったような気もする。あれはリアリズムの世界だったけれど、こちら、わたしを離さないで」は近未来のあるかもしれない世界を描いて、その中で生きる人間たちの像が実に素晴らしい。ああ、凄い本を読みました。

先生の言葉から喚起された、ノーフォークという土地への子供たちのイメージ。イギリスのロストコーナー(忘れられた土地)、ノーフォーク。先生が授業で話した「ロストコーナー」とは、忘れられた土地という意味だったけれど、ロストコーナーには遺失物置き場という意味もある。子供たちの中で、ノーフォークはイギリスのロストコーナー、イギリス中の落し物が集められる場所となった。このノーフォークのイメージは、美しくも哀しい。

作中に出てきた、ジュディ・ブリッジウォーターという歌手。検索をかけてみたところ、どうやら架空の人物のようです。こんなところも、きっちりと作り込まれていたのだなぁ。 静謐な世界、喪われるものを描く点では、小川洋子さんの作品にも似ているように感じたけど、小川さんがそこまでは描き切らない痛いところ、辛いところまで、抑制の利いた筆致を崩さぬまま、きっちりと描いているような印象を受けた。

【追記】
他の方のブログで見かけて、気になっていた柴田元幸さんは、英米文学研究者なのですね。この本の解説は柴田さんがなさっています。「ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち」も気になるなぁ。

ポール・オースター, 村上春樹, カズオ・イシグロ, リチャード・パワーズ, レベッカ・ブラウン, スチュアート・ダイベック, シリ・ハストヴェット, アート・スピーゲルマン, T・R・ピアソン, 柴田 元幸
ナイン・インタビューズ

■その後に読んだ、カズオ・イシグロの感想です。

・「
わたしたちが孤児だったころ 」/揺らぐ世界の中で・・・・
・「
女たちの遠い夏 」/陽炎のようなあの夏の思い出・・・

記事には上げ損ねたけれど、再読した「日の名残り」も、昔読んだ時に感じたような、実直な執事の単純な昔物語ではありませんでした。抑えられた中から立ちのぼってくる様々な感情に、くらくらとするような物語。おっとなー!、なのです。

「芥子の花」/金春屋ゴメス第二弾!

 2006-11-16-21:44
 
西條 奈加
芥子の花 

一風変わった変形時代物である、「
金春屋ゴメス 」の第二弾!

さて、此度江戸の国を騒がすのは、上質の阿片の噂。阿片は、この独立国家、江戸を出て、亜細亜各国に出回ったらしい。江戸国は、法も政も日本に干渉されぬ独立国であるとはいえ、実は日本の属領であるという微妙な立場。それが阿片に関わったとあれば、たちまち槍玉に挙げられ、江戸の独立国としての地位が揺らぐのは必定。

江戸国からの入り物、出物といえば、そこは外交を司る長崎奉行、ゴメスと裏金春の皆の出番! 一作目のラストで、父親の看病のために故郷の村に引っ込んだ辰次郎が、看病も一息ついて裏金春に戻り、裏金春には更に新たな女人が入る。さてさて、此度の捕り物の首尾は如何?

女っ気の全くなかった裏金春にやって来たのは、こぢんまりした卵形の顔に、すっきりとした一重の切れ長の目が映える三芳朱緒という武家の女。是非にと志願してゴメスの御側勤めになった彼女は、すっきりとした姿形だけでなく、柔術の技にも優れた、強くまた優しい好もしい女性である。

辰次郎達は、様々な品物が売られる異国市で、偶然、麻衣椰(まいや)村の少年、サクに出会う。彼らは江戸に住み着いた、ミャンマーの少数民族であった。芥子坊主を抱く女神、芥子観音を奉り、芥子信仰を持つという彼らの出自は、この阿片騒動に関係しているのか? また、二年前にあったという、麻衣椰村と来本(らいほん)村との争いは?

一作目ではその発想、設定は凄くいいのに、それらが全部活かされていないように感じたのだけど、二作目の本作は面白かったー! 阿片一本で書かれていても、キャラクターたちが良く動き、色々と複雑な要素が絡むため、退屈に陥る事もない。分かりやすい麻衣椰の民は勿論ある意味ダミーであり、ゴメスと不仲の町奉行、筧も勿論、真の敵ではない。真の敵については、根が深そうで、これは三作目にも続いていくのかなー。

江戸趣味のためか若い武士の切腹が相次ぎ、公儀が「ハラキリ死ゼロ運動」を展開していたり、江戸国独自の制度、武士としての職を得るための、武家試験におけるゴメスの武勇伝や、辰次郎と松吉が乗り込む流人島の恐ろしさなど、本筋ではない脇の設定も巧く出来ているなぁ、と感じた。ふふ、島を持たない「江戸」における、「流人島」とはこれ如何に? いや、この島に閉じ込められる羽目にはなりたくないものです。軟弱な日本の青年だった辰次郎も、故郷の村での忍術修行や、道場での修練により、なかなかに強く使える男になっている。素直な心はそのままに、強くなるのだ、頑張れ、辰次郎!

「髭麻呂」/平安の世に暮らす人々

 2006-11-14-22:47
諸田 玲子
髭麻呂

平安時代といえば、自分の中では「なんて素敵にジャパネスク!」の瑠璃姫、高彬、鷹男の帝が活躍、若しくは「陰陽師」の安倍晴明と源博雅が活躍する時代。大概、イメージが偏ってはおりますが・・・。

で、今回のこの本は、お鳥見女房」「犬吉」などの時代物をものしている諸田さんが、平安時代を書いたもの。そうだなぁ、くだけた「ジャパネスク」と雅な「陰陽師」の中間のような物語。

検非違使庁に勤める監督長(かどのおさ)なる下位の官人である、藤原資麻呂こと髭麻呂は、盗賊追捕の役を仰せつかっているものの、これが生来の怖がりで。年の頃は二十四。おっとりした顔立ちの優男ぶりを、太い眉と頬髯で誤魔化している。

さて、髭麻呂が仰せつかるお役目とは、巷を騒がせる盗人・蹴速丸を捕らえること。蹴速丸は変貌自在にして神出鬼没。義賊であるという者があるという一方、残虐非道な人殺しだという者もいる。偽者も横行し、誰一人としてその顔を見たものはいないのだが・・・。

目次
楓館の怪
女心の怪
月夜の政変
かけがえのないもの
烏丸小路の女人
笙と琴
香たがえ
鬼法師の正体

髭麻呂と蹴速丸とのファースト・コンタクトは、楓館で殺された女人の元。蹴速丸はなんと役人に化けており、髭麻呂はまんまと彼を逃してしまう! その後も、変幻自在の蹴速丸に翻弄され続ける髭麻呂であるが、いつしか蹴速丸の事情を知り、彼らは友人となる。さて、蹴速丸の隠された事情とは?

怖がりだけれど、心優しく人のいい髭麻呂。気風も良く頭も切れ、かつ隠された役目のために邁進する蹴速丸。髭麻呂の恋人で、謎解きを得意とする梓女。キャリア・ウーマンである、梓女の母(衣擦れの音を頼りに装束を作る、今で言う服飾デザイナー)と祖母(都でその名を知られた調香師)。髭麻呂が拾って、従者とした生意気な雀丸。羅生門近くの孤児達・・・。これらの人物造詣がいいんだー。

実際にあった政変を絡めたストーリーだけど、特に難しくもなく、彼らの活躍を楽しみながら、するすると読めてしまう本。ただし、平安時代の女人として、梓女のスタイルはちょっと疑問だけど・・・。笑 (華奢な体付きに似合わぬ、形が良く豊満な乳房っつーのは、平安時代にアリなのか?) あと、彼女の話し方がちょっと蓮っ葉なんだよな。も少し上品でも良かったと思うのです。 

 ← こちらは文庫。「王朝捕物控え」だそうな。

「赤い館」/これぞ、怪奇小説?

 2006-11-12-22:45
 
H.R. ウエイクフィールド, H.R. Wakefield, 倉阪 鬼一郎, 西崎 憲, 鈴木 克昌
赤い館 

解説によると、この本の著者、ウエイクフィールドは「最後のゴースト・ストーリイ作家」なのだそうだ。伝統的なる怪奇小説の書き手、「シェリダン・ル・ファニュ」も「M・R・ジェイムズ」も読んだ事のない自分ではあれど、この本を読んで、怪奇小説の香気をたっぷり吸い込んだ気分になった。

目次
怪奇小説を書く理由

赤い館
ポーナル博士の見損じ
ゴースト・ハント
最初の一束
死の勝利
”彼の者現れて後去るべし”
悲哀の湖
中心人物
不死鳥

さらば怪奇小説!

最後のゴースト・ストーリイ作家 鈴木克昌

登場人物は、大抵イギリスの品ある紳士。理性も品格もたっぷりと持っている筈の彼らが出会う、この世ならぬもの。それは彼らの心を凍り付かせる・・・。

著名な怪奇小説の書き手であるM・R・ジェイムズは、怪奇小説の作者は彼自身熱心な幽霊信者である必要はないと述べた事があるそうだけれど、このウエイクフィールドはその反対の立場を取っていたという。たとえ一時的にせよ自分自身で恐怖を感じなかったとしたら、作家は誰を恐怖に陥れることが出来ようか?

「赤い館」
田園生活を楽しむために、幼い息子、妻と共に滞在したその赤い館には、不吉な住人達がいた・・・。緑色の厭な匂いのする軟泥。庭の木戸や息子の部屋に残されたそれは何を意味するのか? これは最後がいいなぁ。彼らを追い出した赤い館に棲むものどもは、再び館を我が物にする。

「ポーナル博士の見損じ」
「わたし」が受け取った奇妙な手紙。この世に友というものを、唯一人も持たないかのように見えた博士からの奇妙な頼みごと。そこに書かれていたのは、ポーナル博士と彼のライバルであったモリソンという男の話。そして、その話はその手紙の中だけでは終わらずに・・・。

「ゴースト・ハント」
この中では軽妙とも言えるかも。悲惨と言えば悲惨なんだけれど、私はこの短編、結構好きでした。
ゴースト・ハントのラジオ中継の首尾は如何に?

「最初の一束」
古来からの人間の儀式。ポーチャスはなぜ片腕を失くしたのか?

「死の勝利」
女性が出てくるのはこれくらい?
ウィンダミア湖の先、北部の丘陵地帯にあるエリザベス様式の家、カースウェイト邸。陰気なこの館では、ペンドラム老嬢に仕えるアメリアが、日夜辛い仕打ちを受けていた・・・。

「”彼の者現れて後去るべし”」
エドワード・ベーラミーの学友、フィリップは困った羽目に陥った挙句、彼の目の前で亡くなってしまった。彼に呪いを掛けたという、オスカー・クリントンなる人物は一体何者なのか? ベーラミーは復讐を誓う。

「悲哀の湖」
妻アンジェラを殺害した容疑で起訴されたものの、逮捕を免れた「わたし」。わたしが取り急ぎ手配したこの田舎の屋敷の敷地内には、土地のものから「悲哀の湖」と呼ばれる湖があった。「ここはいつも罪と死の場所だ」。カーマン爺さんの言葉は一体どういう意味なのか? 緋色の罪は湖を染め、湖が染まった時には、中に死体があるのだという・・・。

「中心人物」
「わたし」が法廷精神科医として著名なランドン博士から受け取った奇妙な文章。そこにはある劇作家の生涯が書いてあったのだが・・・。

「不死鳥」
数学家としての才能に恵まれた「わたし」。このわたしこそが、ロンドンのメトロポリタン大学における、欽定純粋数学講座担当教授の地位に相応しい。ところが、齢70にも達する老齢のキャノピー教授は、その座から降りようともせず・・・。不幸な偶然により、キャノピー老教授の死の切っ掛けを作ってしまった「わたし」。わたしは以来、キャノピーと特別の関係にあったかに見えた、白いクロウタドリに悩まされることになる。
ここまで三作読んだ「魔法の本棚シリーズ」においては、このウエイクフィールドの手によるものが、一番商業的な完成度が高いような印象を受けました。・・・というか、こういうのは職人的というのかしら? 秋の夜長に怪奇小説の薫り高いこんな本もなかなか乙なものかもしれません。

☆関連過去記事☆
・「
幽霊船 」/不思議のカケラ、小さな少年、満たされぬ思いを抱える者。それらのスケッチ
・「
奥の部屋 」/ストレインジ・ストーリー

電車バトン!

 2006-11-12-21:16
「電車バトン」なるバトンを、ぐるぐる さんから頂きました。

◆ぐるぐるさんの記事はこちら → 電車バトン

「電車バトン」とは何ぞや? ふふふふふ、それはある意味、妄想全開のバトンなのですよ・・・。授業中、ぼーっとして空想の世界に遊んでいたために、「教科書の世界に帰れ!」などと言われた事もあるワタクシ。今回もええ、ガッチリ妄想を楽しませて頂きました。笑

さて、「電車バトン」のルールは以下の通り。

ルール 1. 指定された【人物】について回答する。
ルール 2. バトンを回す人が【人物】を指定する。

ぐるぐるさんから頂いた【人物】は、「つなさん、例の目の綺麗な彼とではどうでしょう?」とのこと。ということで、ふふふ、私は松本潤くんで行きます!

ビクターエンタテインメント
きみはペット DVD-BOX


以下、回答です。でも、思うにこれ、やってる本人が一番楽しいような気がする・・・。笑


*電車待ちの列に【松本潤くん】を発見!どうしますか?
 たぶん、とりあえず凝視、ガン見・・・。

*【松本潤くん】がとなりの席に!どうしますか?
 動揺する。固まる。

*【松本潤くん】が寝てしまいました。どうしますか?
 やっぱり、観察ですよねえ(ぐるぐるさんもそう書いておられました。笑)。
 後はなんだろうなぁ、匂いをかぐ?

*爆睡中の【松本潤くん】。突然あなたに寄りかかってきました! どうしますか?
 謹んで肩をお貸し致しましょう!笑

*もう直ぐあなたの降りる駅。まだ【松本潤くん】は眠っています。どうしますか?
 乗り越す。よな、きっと。

*終着駅に到着しても起きない【松本潤くん】。どうしますか?
 とりあえず、起こす?

*やっとお目覚めの【松本潤くん】。ちょっと寝ぼけている様子。どうしますか?
 寝ぼけ顔を楽しみます♪ でも、なんか、寝起き悪そうなイメージが・・・。笑
 どうしよう、怒られたら。笑

*平謝りの【松本潤くん】。お詫びに何でもしてくれるって!どうしますか?
 サインして貰う。・・・・妄想とかいいながら、嗚呼なんて普通なんだ!汗

*もう直ぐ【松本潤くん】とお別れです。最後に【松本潤くん】に一言
 応援してます♪ 軟弱なお茶の間ファンのためにも、偶にはドラマにも出てくださいね
 花より男子2」の制作も始まったようで、楽しみ楽しみ♪
 でも、出来ればもそっと大人なドラマも・・・・。

というわけで、バトンもここで終わり。妄想しようと思った割りに、なんだかふつーの回答だったような。ううむー。

お聞きしてみたいのは、いちみさん(きみペでは、蓮見派、モモ派のどちらにつかれたのでしょう?笑)、喋喋雲さん(子犬のような目の彼でも、チェスト櫻井(笑)でも、私と同じ彼でもいいなー。あ、勿論、ミッチーでも!)なんですけど、もしお時間があったらよろしくです。
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つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
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2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

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