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「メイン・ディッシュ」/二人の「ねこ」の物語

 2006-07-30-21:12
 
北森 鴻
メイン・ディッシュ

小劇団「紅神楽」を率いる、姉御こと略して「ねこ」。彼女の元には、雪の日に拾ってきた捨て猫のような男がいる。彼女が拾ったのは、これまた略して「ミケ」こと三津池修。年齢も職業も過去も、互いに敢えて聞くことも、話す事もない彼。日ごろ何をしているのか分からないけれど、きちんと家賃を半分納めてくれ、なおかつ料理の腕はプロ級とくれば、文句はない。二人はいい関係を築いているのだ。

目次
アペリティフ
ストレンジ テイスト
アリバイ レシピ
キッチン マジック
バッド テイスト トレイン
マイ オールド ビターズ
バレンタイン チャーハン
ボトル“ダミー”
サプライジング エッグ
メイン ディッシュ

劇団員達が持ち込むちょっとした謎を「ミケ」が解いてくれる、そんな日常の謎系ミステリーかと思いきや、実はもっと凝った仕掛けが施されているのであった・・・。

間に挟まる「アリバイ レシピ」「バッド テイスト トレイン」は作中作とでもいいましょうか、作中のある人物が作った、仕掛けの物語。わけが分からなくても読んでおけば、後できっちり繋がりますです。

さて、このまま半永久的に続くかと思われた、「ねこ」と「ミケ」の暮らしだけれど、ある日ふらりと「ミケ」が出て行ったことでこの生活は終わってしまう。「ねこ」は結局は「ミケ」のことを何も知らなかったわけで、彼自らの意思で出て行かれては、探す伝手すら残されてはいなかったのだ。また、「ねこ」が主宰する劇団にも転機が訪れる。毎週末のように行われたホームパーティーで、「ミケ」の料理を堪能した仲間達もバラバラになってしまう・・・。

「ミケ」とは誰だったのか?
そして、「ミケ」はねこの元に返ってくるのか?

うーん、人にとって、人生のメイン・ディッシュとは誰で、またそれは誰と食べるものなんだろうね。

ちょっと
「支那そば館の謎 」 のムンちゃんを髣髴とさせる、見当外れの推理ばかりしている、座付き作者の小杉隆一のキャラがいいです。?

「ミケ」が作る料理が、これまたすっごい美味しそうなんだ!
大きな謎解きとしては、実はちょっとうーんだったりもするんだけど、ミケの料理に免じて許せてしまう。
人間の男を拾うという点で、ちょっと「きみペ」との関連も思ったんですが、いや、「ミケ」はモモより全然、実際的な面で役に立っています。笑

← こちらは文庫
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「勝手にビデオ―ノってけ200本」/映画三昧!

 2006-07-28-21:33
石川 三千花
勝手にビデオ―ノってけ200本

今はブログがあるから、個人の感想を見聞きする事も比較的多くなったけれど、実際の会話のネタとしては、「面白かった」「面白くなかった」くらいを言い合うのがせいぜいで、意を尽くして映画や本の感想を語り合うのは難しかったりする。

でもやっぱり、人の感想を覗き見るのは面白いもの。印象的な一言が添えられた絵や、その人ならではのジャンル分け。たとえ好みが一致しなくとも、感想は少々独善的に書かれた方が面白い。

石川三千花さんの筆が冴える本。
取り扱うは、ずらり取り揃えた200本の映画。

目次
ラブ&カンノーもの
汗かきもの
お笑いもの
泣かせもの
大味もの
ヤバイもの
スカシもの
オドカシもの
マジメもの
ケイジもの
使えるビデオ

ここで取り上げられた中で、私が気になった映画たちをメモ。

☆ラブ&カンノーもの☆
ビデオメーカー
ドライ・クリーニング【字幕版】
・・・人妻と若い男という取り合わせは結構あるように思うけど、更に旦那とも・・・って、どうなっちゃうんでしょう。

紀伊國屋書店
ライブ・フレッシュ
・・・生きた肉、即ち肉欲のお話。
エスピーオー
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ
・・・怒りの一インチ!

☆汗かきもの☆
ジェネオン エンタテインメント
恋はハッケヨイ!デラックス版
・・・にしても、なぜスモウ・・・。

☆泣かせもの☆

ポニーキャニオン
のら猫の日記
・・・野良猫のような少女達。

☆マジメもの☆
ジェネオン エンタテインメント
桜桃の味


ニル・バイ・マウス ?
ビクターエンタテインメント

アミューズソフトエンタテインメント
アメリカン・ヒストリーX

「お笑いもの」「G・Iジェーン」が入っていたり、「いわゆる大作映画。カネはかけているが、中身は薄い。大作でもなくて、ただ大味なものもあるぜ」である「大味もの」というジャンル分け(ちなみに、「ディープ・インパクト」「アルマゲドン」が、ここに入っている)。「ケイジもの」とは刑事ものにあらず、ニコラス・ケイジものの事であったりなど、これは完全に石川さんならではの見方だよね。ちょこちょこと描かれた絵と共に、ぱらぱら頁を繰って楽しんだのでありました。

これを見て初めて、「メリーに首ったけ」のあのヘアスタイルの秘密が分かりましたよ。いや、あの映画見てなかったんだけど、気付くの遅すぎ??笑

どうでもいいけど、石川さんはマット・デイモンがお嫌いなんでしょうか。「あまりにも場違いに登場するジミー大西」(@リプリー)とか、マット・デイモンに厳しいです・・・。グッド・ウィル・ハンティング」も良かったし、私、割と好きなんだけどなー。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「私が語りはじめた彼は」/愛って何だ?

 2006-07-27-21:33

三浦 しをん
私が語りはじめた彼は

「月魚」 を読んで、文章の巧さは良く分かったんだけど、その寸止めBL小説のような香りに、ちょっと何が言いたいのか分からんなーと混乱し、でも、此度めでたく直木賞を獲ったことだしと、評判の良い「私が語りはじめた彼は」に挑戦。

結論からいうと、いや、これは良かったんだよ。胸に染み入るような綺麗な表紙、そのまんまの世界。そして、此度は言いたいこともちゃんと分かりましたよ。

愛って何だ?そして愛を持続させるには?

目次
結晶
残骸
予言
水葬
冷血
家路

「ニシノユキヒコの恋と冒険」 のように、一人の男性について、関わった人々が語るスタイル。「ニシノ~」の場合は、語るのは女性だけだったけれど、こちらでは男性も。

さて、この輪の中心となるは、歴史学を専門とする村川教授。彼は妻に言わせるとこんな男性。「村川の魅力は、ある種の女にはたまらないものです。どこを掴まれたのかは自分でももうわからない。けれど、彼によってふいにもたらされた痛みと驚きだけは、いつまでも新鮮に残る。外見や性格とはかかわりのない、そんな種類の魅力です」

浮気を繰り返した彼は、妻と二人の子どもとは別れ、太田春美というカルチャー・スクールの生徒と結婚し、彼女の連れ子を娘とした、新たな家庭を築く。

「結晶」は村川の弟子、三崎が怪文書を確かめに彼の妻の元を訪う。
「残骸」は、村川のカルチャースクールの生徒、多分、彼の最初の浮気相手である真沙子の夫が語る。
「予言」は村川の息子、呼人が語る。離婚を知った彼は荒れる。彼だけが父の十数年に亘る浮気を知らなかったのだ。現在高校生である彼が過ごした時間の大半が、全て嘘で塗り固められたものであるとは、なんと残酷な事だろう。
「水葬」は、大田春美の連れ子、村川綾子の物語。なぜか彼女を監視する調査員が語る。彼女は自らを海に埋葬する。
「冷血」は、村川の娘、ほたるの婚約者、市川律が語る。
「家路」は、新聞の訃報欄で村川の死を知った、三崎が再び語る。

村川の心中はどこにも描かれないけれど、様々な人が語る彼の様子から、村川の心が浮かび上がってくる。

この世のどこかに不変なものがあると信じたい、子供のような村川。誰かと生活を共にするという事は、鮮烈な感情が薄れ、ゆっくりと変化していくということでもある。永遠を求めて、次々と恋を仕掛ける村川は、純粋ではあるが、ある意味哀れな男なのかもしれない。

愛を求め、確かにそれは得られたけれど、誰が村川を理解しただろうか。
また、一体誰が理解されたのだろうか。

変化するからこそ、揺らぐからこそ愛は美しい。
それは、一瞬の完璧に固められた恋の輝きとはまた異なったもの。

村川とは違う生き方を選ぶ男性二人にしんみりする。

冒頭の二千年以上前の、不義密通をした寵姫に対する皇帝の残酷な仕打ちは非常に怖い。変わらぬ愛を許さない大田春美の怖さにちょっと通じているのやも。全く同じ状態をキープしようと努力する愛なんて、不自然なものなのかもね。思い出を合った事として、そのまま受け入れる村川の家族と比べ、村川の何もかもをも奪おうとする、貪欲な大田春美はあまりに醜い。

巻末には、田村隆一の詩が載せられている。
「私が語りはじめた彼は」というタイトル、かっこいいよなー。

 この男 つまり私が語りはじめた彼は 若年にして父を殺した
 その秋 母親は美しく発狂した
    田村隆一「腐刻画」



*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「開高健先生と、オーパ!旅の特別料理」/旅と料理

 2006-07-26-22:47
 
谷口 博之
開高健先生と、オーパ!旅の特別料理 

「天上の開高先生に」捧げられた本。

作家、開高健とともに旅し、料った記録と記憶。

「まえがきにかえて」と題された、開高健『オーパ、オーパ!!海よ、巨大な怪物よ』より抜粋から、更に抜粋すると、この旅の始まりは辻調理専門学校で知られる辻氏とのこんな会話だったそう。

忍耐力と想像力に富んでいて即断即決、どんな素材でもその場でコナして料ってみせることができるという人物を推薦してもらおうじゃないか。とれとれのオヒョウだの血まみれのオットセイの肉などはどう逆立ちしても東京や大阪では入手できないのだから、あえてそれに挑戦して頂く。

目次
まえがきにかえて
Chapter? ベーリング海の孤島で巨大オヒョウを姿造りすること
Chapter? ネバダの砂漠でブラック・バスの洗いに舌鼓をうつこと
Chapter? カナダの川原でチョウザメのキャビア丼に夢を馳せること
Chapter? アラスカの入り江で海の果実をまるごとブイヤベースにすること
Chapter? ウガシクの湖畔でないないづくしの野生にひたること
Chapter? コスタリカのジャングルでイグアナのスープを絶賛されること
Chapter? モンゴルの草原で幻の魚を味噌汁の実にしちゃうこと
Chapter? テムジンの大地でウォルトン卿のパイク料理を試みること
あとがき

当初は他のメンバーにその重量に目を剥かれようとも(飛行機の重量制限があるからね)、大鍋、小鍋、フライパンからすり鉢、包丁一式をはじめとする料理人の七つ道具をずらり取り揃え、また、どんな土地においても出汁もきっちりとっていたのが、回を重ねるごとに「やわらかく」なる様が面白い。うん、臨機応変ってやつだよね。和包丁から、フィレッティング・ナイフへと得物を持ち替え、この辻調理専門学校・谷口“教授”は、クルー全員の胃袋を満たす。

釣れれば釣れたで大変な魚だってあるし、ボウズに終わった時のクルーの沈んだ気持ちを引き立てるのもやっぱり料理。釣りは水物。事前の調査があるとはいえ、期間が限られた中で、狙った獲物を釣り上げるのはやはり大変なよう。傷心の皆を、たまには「隠し玉」の素麺で癒したり、谷口氏の功績は非常に大きいのだ。

物置のドアを外してまな板とした、一メートル70センチにも及ぶベーリング海の巨大なオヒョウの姿造りから、なぜかイグアナや、川ガメ(甲羅を斧と金槌で割った!)、中南米最大・最強の毒ヘビ、ブッシュマスターの解体までする羽目になったコスタリカまで、その料理は「和食」のスケールから外れてとってもハード。しかも、谷口氏は爬虫類、両棲類が大嫌いだというのに・・・。この旅から外されてはならじ、と頑張る部分は、少々痛々しくもある。

回を重ねるごとに、先輩や同僚に「お前、だんだん荒れてきたんとちゃうか」と言われるほどに、谷口氏はすっかりアウトドアな男になってゆく。豚や牛の肉を使ったら日本料理ではないと言われていた頃もあったというのに、何せイグアナのスープとか、作っちゃってますからね・・・。

「ある量を超えると質に転ずる」を身上とし、これはと思う食べ物に出会うと、徹底的に食べて食べて味をとことん追求する、開高流鑑賞法に付き合うのも大変そう。時には「不味」といわれてしまう事もあるわけで・・・。でも、谷口氏は、一緒にとことん追求してしまうのです。うーん、料理も極めるとほんとに「研究」になってしまうものなのね。

旅して食べるというと、C.W.ニコルさんや、椎名誠さんを思い出すけれど、開高健への尊敬の念で全員が一致団結しているこのチームの雰囲気は、やはり多少他とは違う。開高健とは、やはり凄い作家というか、凄い人間だったんだなぁ、と感じた。

← 文庫も

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「メビウス・レター」/過去から来た手紙

 2006-07-25-23:50
 
北森 鴻
メビウス・レター 

幻想文学の書き手として名が売れ始めた作家、阿坂龍一郎のもとに、「今はもういないキミへ」と題された、差出人の名が無い手紙が送られてくる。
その過去から来た手紙に阿坂は激しく動揺する・・・。

また、時を同じくして五芒星を描くように、阿坂のマンションを中心とした放火事件が相次ぐ。

阿坂を追い詰めるのは何なのか、阿坂は誰に追い詰められているのか?

それは手紙が指し示す、山梨の高校における、七年前の少年の焼身自殺事件が関係しているようであるのだが・・・。

フェアに書かれているし、ん?、と引っ掛かるところもあるので、勘の良い方は途中で一つのカラクリには気付くのだと思う。なんていうんだろう、ちょっと違うけど、歌野さんの「葉桜の季節に君を思うこと」的なトリックが仕掛けられているのだよ(あれも、そう思って読めば、確かにそう読めるでしょ

ただし、こちらは動機がなー。作家・阿坂の誕生のきっかけになった殺人(というか、事故)や、阿坂を追い詰める人物の動機がいかにも弱い。

残念ながら、この本は
「狐罠」 に出てきた刑事、四阿、根岸のコンビが活躍するのが嬉しいくらいだったなぁ。?

?← 文庫も。こちらのが直截的に「事件」に関わっている。

「MAZE」/迷図、迷宮、惑う・・・

 2006-07-23-18:27
恩田 陸
MAZE(めいず)
双葉社

アジアの西の果ての山奥には、住民達が恐れる禁忌の地があるのだという。
それは、「存在しない場所」「有り得ぬ場所」と呼ばれ、そこに屹立する白い矩形の建物の中に入った人間が、消えて無くなってしまうのだ。
数百年にわたり、延べ三百人もの人間が消えたのだという。
果たしてそこは、「人間が」存在しない場所、有り得ない場所なのか?

目次
?. BUSH
?. WALL
?. HOLE
?. DOOR

遠い山に囲まれた、乾燥した平原である盆地。正面には灰色の丘と白い矩形の構造物が建つ。年季の入ったフリーターである時枝満は、中学時代の友人、神原恵弥(めぐみ)に、助手兼料理人としてこの地に連れてこられた。

日中は軍事用のヘリが飛び交い、沢山の兵士達が蠢く地となったが、日が暮れてからはまた別の話。恵弥の言葉を借りれば「人数は少なければ少ないほどいい」。最小限の人数で、このプロジェクトの秘密を守るのだという。メンバーは、満に恵弥、堂々たる体躯の白人スコットに、地元民のような雰囲気のセリムの男性四人。

恵弥の勤める製薬会社の思惑は、建物を護るように蔓延る「鉄条網」のような植物の幻覚作用や、砂漠のようなこの場所で、建物の周囲だけに生える「鉄条網」の養分を知ることだという。しかしながら、それぞれの思惑が絡むこのプロジェクトは、どうも一筋縄ではいかないようで・・・。まだまだ裏がたっぷりとありそうなのだけれど、満は恵弥から、「人が消える謎」を解くことを要請される。そう、満はこの人里離れた山奥の聖地で、安楽椅子探偵をやるために呼ばれたのだ・・・。

「人が消える」時のルールは存在するのか?
一体、この地で何が起こっているのか?

毎度の事ではありまするが、途中までの盛り上げは見事であるものの、ラストは少々肩透かしではあるし、ある程度合理的な説明がなされても、また、それとは別に超常的な描写がなされても、何だか割り切れないものが残る。

でも、相変わらず、細部の人間観察は見事だし、満によるこの白い矩形の遺跡に対する仮説なんかは、ゾクゾクきちゃうんだな~。

◆精悍な顔立ちでありながら、女言葉を操る恵弥の戦略◆
日本人ていうのは元々、頭ごなしに叱るか、情に訴えるか、他の人もやってるよと言うしか他人を服従させる手段がないのね。論理的な説明はできないし、そもそも論理的な説明をすることをカッコ悪いと思ってた時代が長かったわけ。今時そんなの通用しないし、そんなことは時代遅れだってことは頭で分かってるから、論理的、合理的なものがベストだと思ってるふりをしてるけれど、本当のところは、みんな論理的なものを憎んでると思うわ。

情緒的な日本も嫌いではないけれど、本来は論理的で言葉を尽くして、人に説明をしたい方だという恵弥。ただし、「眉目秀麗で明晰なこのあたし」がこのまま男らしい路線を辿ったら、周りに妬まれて足元をすくわれる。そのために、彼は「変ななよなよした奴」というポジションを築き上げたのだという。それが彼が編み出した、日本社会で労力少なく目的を通すためのやり方なのだ。

さて、この時枝満、どっかで見たキャラクターだよなぁ、と思っていたら、短編集「象と耳鳴り」 の中に確り出てきていましたよ(「新・D坂の殺人事件」「給水棟」の二編)。浮世離れしたこのキャラクター、なかなか素敵なのですよ(彼が作る料理もね)。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「神様」/不思議のものども

 2006-07-20-21:30
 
川上 弘美
神様 
中央公論社


私がこれまで読んだ川上さんの本は、小説では「
古道具 中野商店 」、「ニシノユキヒコの恋と冒険 」。エッセイでは「なんとなくな日々 」。これらも勿論良かったのだけれど、これは基本的には現実にリンクした物語。
川上さんの本には、不思議な生き物が出てくるものもある、と聞いていたのだけれど、まさにこの「神様」が不思議な生き物が闊歩するお話だった。

不思議といえども、怪異でも怪奇でもなく、妖艶でもない。当たり前のように、そこにすこんと不思議な者たちが生きている世界。これぞ川上ワールドなのかな。ちょっと他の作家さんにはない独特の雰囲気に感じた。
不思議のものどもが、怒ったり、笑ったり、悲しんだり、何とも普通に生きている。読みながら、何だかしみじみしてしまったことですよ。

目次
神様
夏休み
花野
河童玉
クリスマス
星の光は昔の光
春立つ
離さない
草上の昼食
あとがき

「神様」「草上の昼食」は、ある日同じマンションに越してきたくまの話。
「夏休み」は梨の精のような、白い毛が生えた小さな三匹の生き物とのお話。
「花野」は五年前に死んだ叔父の話。
「河童玉」は、文字通り河童のお話。大らかな河童たちの姿がいい。
「クリスマス」は、壷から出てきた、コスミスミコの話。気のいいコスミスミコは、「チジョウノモツレ」でこんな姿になってしまったのだという。
「星の光は昔の光」だけは、そういえば不思議がちろりとしか出てこないな。近所の小学生、えび男くんお話。
「春立つ」は近所の居酒屋「猫屋」のおばあさん、カナエさんの不思議な話。
「離さない」は、偶然手に入れてしまった人魚の話。

作品の世界が繋がっているのは、「神様」「草上の昼食」「河童玉」「クリスマス」「星の光は昔の光」。 私が中でも好きだったのは、川上さんの初めて活字になった小説だという「神様」「草上の昼食」

◆「神様」◆
「わたし」の三つ隣の部屋に越してきたのは、雄の成熟したとても大きなくま。彼は律儀で行き届いたくまだった。「わたし」とくまは、くま言う所の縁を感じ、時に共に散歩をする仲になる。呼びかけの言葉としては、漢字の「貴方」が好きだというくまは、昔気質のくま。

「わたし」はごく普通にくまを受け入れるけれど、勿論そんな人間ばかりではない。子どもに「くまだ」「くまだ」と囃し立てられても、くまはあくまで穏やか。
「小さい人は邪気がないですなあ。」

川原でのピクニック。くまは魚を獲って、更に今日の記念にと干物にして、「わたし」にプレゼントしてくれる。なんと行き届いたくま! 散歩を終えた二人はそれぞれの自宅に帰る。くまの別れの挨拶は、抱擁に、「熊の神様のお恵みがあなたの上にも降り注ぎますように」という祈りの言葉。悪くない一日。

◆「草上の昼食」◆
故郷に帰るという、くまとの最後のお散歩。此度、くまが用意したのは、鮭のソテーオランデーズソースかけ、なすとズッキーニのフライ、いんげんのアンチョビあえ、赤ピーマンのロースト、ニョッキ、ペンネのカリフラワーソース、いちごのバルサミコ酢かけ、ラム酒のケーキ、オープンアップルパイ。くまは付き合えず白湯だけれど、彼が用意した赤ワインはバルバレスコ。

赤ピーマンのローストを褒められたくまは、薄皮を剥くのが少し難しかったと話す。学校に通うのも難しいくまの料理は、こんなに多くの料理を作ることが出来ても、それは自己流なのだという。くまの生活の難儀の多き事に、「わたし」は思い至る。
青年期から、こちら側に住んだというくま。故郷に帰る気持ちは如何に? こちら側に馴染め切れなかったというくま。「わたし」とて馴染まないところがあるけれど、それは簡単に比べられるものではない。

故郷に帰ったくまから、差出人の名前と住所がない手紙が届く。
私はくま宛に決して届く事のない手紙を書く・・・。

この「くま」がいいんだよなぁ。「合わせる」ことなんかないのに、一生懸命律儀に「合わせる」姿に、何だかしんみりしてしまう。「魚の皮」を持ってのお散歩。洒落た料理じゃなくったって、「わたし」はきっと付き合ったのに。

?← 文庫も

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「犬吉」/それは一夜の夢物語

 2006-07-19-21:08
諸田 玲子
犬吉

あたい、犬吉。おかしな名前だけれど、これはあたいが人よりもお犬さまの方が好きだから、付けられたあだ名。時は「生類憐れみの令」が出され、中野に約16万坪からなる御囲が作られた元禄時代。最盛期ではなんと坪数にして約27万、犬の総数は約十万匹に及んだといい、これはこの最盛期の御囲を舞台にした物語。

犬吉は二の御囲で、お犬さまの世話をする日々。たかが犬の世話と侮るなかれ。病犬の世話に、狂犬の世話、糞便が染込んだ布団の洗濯に餌やりと、お犬さまの世話は重労働。御囲に詰めた女たちは、ほとんどが賄い役に回る所を、犬吉は志願してお犬さまの世話係となった。

これだけの広さであるからして、ここに流れ着いた者どもも、大抵は理由あり、若しくは脛に傷持つものばかり。主家を失った伊賀者、人を斬り殺し追われる浪人、先祖代々のお役目を奪われた侍、悪党、ごろつき、食い詰めた女ども・・・。給金だけでは賄い切れぬ女どもは、五匁、十匁で、男たちに身体を売る。嫌な奴には肘鉄を食わせるけれど、犬吉とてそれは例外ではない。

廓で産み落とされ育った犬吉は、幾千代姉さんの馴染みの旗本奴に、飼い犬・雷光の世話係として身請けされた。今はもういない雷光だけれど、犬吉にだけは幻の犬が見えるのだ。犬吉は、なき雷光を追って、この御囲にやって来たとも言える。

さて、御囲に赤穂浪士の討ち入りの一報が入る。お犬さまよりも劣る食事に、「お犬さま」大事のお世話。不本意に御囲に流れ込んだ男達。この報に接した、鬱屈した者どもの感情が爆発し、一夜限りの祭が始まり、犬吉もまた否応無くそれに巻き込まれる・・・。

これは、一夜の夢物語。でも、夢というにはあまりに苦い。

犬吉は祭の中、御鷹御犬索を務めていた、依田と心を通わせ、危機を乗り切る。身分の違い、育ちの違い、互いに恋しく思えども、それはやはり一夜の夢なのか?

弱いもの、虐げられるものへの犬吉の目線が優しい。弱いものが更に弱いものを虐げる中、彼女はそれに至った事情を思い遣り、人を赦す事が出来るぴかぴかの心を持つ。

また、猟犬が死んでしまったことを、依田に「生きる張りが無うなったのやもしれぬ」と言わせ、美しく着飾った幾千代姉さんの無残な死を描く事で、安住の地にいるものの幸不幸をも考えさせる。人とて、犬とて、何もせず、たらふく喰えるだけが、幸せではあるまい。

犬吉の明るい語り口にどんどん頁を繰ってしまう、非常に面白い物語ではあったんだけど、女性としてそれはあまりに辛いだろう、という出来事あり。そういう意味で、語り口はあくまで明るいけれども、無残な青春でもある。
痩せ我慢で強がりの犬吉。一瞬の輝きだからこそ、恋は美しいのかもしれないけれど、何で、そこ、行かないんだよ!、と思ったり。笑(ハーレクインになっちゃうかもしれないけど、私はハッピーエンドが好きなんだい!)
諸田玲子さん、初めて読んだのだけれど、他の著作も読んでみようと思いました。 割りと読み飛ばしてたんだけど、この御囲については内藤新宿の宿場の話として、「新宿っ子夜話 」にも出てきたのではありました。

 ←文庫も


一つだけ疑問。表紙がハスキー犬に見えちゃうんだけど、この時代の輸入犬である、「唐犬」って一体どんな犬種なんだ~?? (雷光は唐犬なのです)

「ささらさや」/ヒューマンテイスト・ユウレイ譚

 2006-07-18-20:42
加納 朋子
ささらさや

どこか時が止まったような、ヒューマンテイストの幽霊もの。

新婚早々、可愛い息子、ユウ坊も生まれたばかり。なのに、「俺」は、まだまだ頼りない新妻「サヤ」を残して、交通事故で逝ってしまう。サヤの頼りなさのせいか、「俺」の未練のせいか、「俺」はまるで空港を通り過ぎる、「トランジット・パッセンジャー」のように、この世にとどまってしまい・・・。

目次
トランジット・パッセンジャー
羅針盤のない船
笹の宿
空っぽの箱
ダイヤモンドキッズ
待っている女
ささら さや
トワイライト・メッセンジャー

トランジット・パッセンジャー」、「トワイライト・メッセンジャー」のみ、サヤの亡き夫である「俺」が語り、その他の編は、サヤを主人公とした第三者の目で語られる。

サヤは、亡き夫、「俺」の実家から逃げるように、佐々良という田舎町へと越して来る。映画会社を経営する義父、子どものいない姉夫婦が、忘れ形見のユウ坊を狙うのだ。さて、この佐々良という町は、肉親の縁薄い、サヤの叔母が住んでいた町。ある意味都合のいいことに、数ヶ月前に亡くなった叔母が、彼女に家を遺してくれていた。

郵便配達夫が、一癖も二癖もある年寄り連中しか住んでいない、と決め付けるこの一画。サヤとユウ坊の二人組は、この一画に新風を吹き込む。偶然知り合った老女達に助けられて、何とも頼りないサヤ、お人よしのサヤ、彼女の夫言うところの「馬鹿っサヤ」は、ユウ坊と二人、何とか暮らしてゆく。

でも、泣き虫で弱虫のサヤが何とかやっていけるのは、老女達による手助けのためだけでも、仲良くなったエリカ・ダイヤ親子のためだけでもない。彼女が危機に陥った時、「ささら さや」との音が聞こえ、この世にとどまる亡き夫が、誰かの身体を借りて、彼女の危機を救うヒーローさながら、現れてくれるのだ。サヤは一人きりではない。

とはいえ、「俺」が入って身体を借りることが出来るのは、「俺」を見ることの出来る人間だけであり、そしてそれは一回こっきりのこと。また、勿論、「俺」とて、いつまでも成仏しないままというわけではない・・・。

頼りないサヤ、お人よしのサヤが、ラストでは幼な子を護る為、自ら声を上げる事になる。弱い事、自分の思いを伝えられない事は、時として罪になってしまうのだ。

ちょっと甘い話ではあるんだろうけど、私は嫌いではない。不思議な町佐々良、口煩いけれど、親切な老女達、ベビーカーならぬ乳母車などなど、良かったなぁ。ふんわりとした表紙そのままのような物語。

← 文庫もあるよう。やはりやさしい雰囲気だね。?

「鳥少年」/怖い短編集

 2006-07-16-21:27
皆川 博子
鳥少年

これは、皆川博子さんの短編集。
幻想的でホラー調でもあるんだけど、ここに描かれているのは、人間の業というか、どうしようもない感情。ある意味現実的なんだけど、短編だけに説明が少なく、ぷつんと断ち切られるために、より怖さを感じるのかも。

目次
火焔樹の下で

血浴み

黒蝶
密室遊戯
坩堝
サイレント・ナイト
魔女
緑金譜
滝姫
ゆびきり
鳥少年

」、「黒蝶」は、芝居者達のじっとりした舞台裏の話。女形の嫉妬は怖い。
緑金譜」、「滝姫」は、姉への密かな思慕を描く。

作品としての出来は良く分からないけれど、「血浴み」は描かれた女性の人生が哀しい。地方都市の名家の末娘、夏代は離婚して子連れで郷里に戻ってきた女。その後も、父親を決して明かさない、またそれぞれに父親の違う子どもを、ぽこぽこと産む。淫乱だと後ろ指をさされても、夏代には夏代なりのルールがある。夏代のもとに、詩の文芸誌で知り合った須賀という女が、やって来る。夫に離婚を切り出され、また浮気相手にも捨てられた彼女はボロボロ。しかし、泣ける彼女はいい。泣けない夏代とて、男に捨てられて、決して平気なわけではない。

魔女」もまた怖いなぁ。
独りの女が深夜、部屋にこもっているとき、どんな力を持つものか、男は知らないのだって。魔女達の対象である、美容師見習いの六也が健全なだけに、この怖さが際立つ一編。

」、「密室遊戯」は何とも隠微な味わい。

」。夫の浮気を知った依子は、年の近い叔父の結婚式で知った、叔母のつよさに惹かれ、叔母の住む町へと向かう。以前、人形作りをしていたという叔母の元には、既に先客があった。それは、睡眠薬で眠らされた二人の若い男性。叔母は、眠る若い男性に化粧を施す。美しく、艶かしく、汗ばんだ無骨なTシャツとジーンズの上に、男とも女ともつかぬ艶やかな顔が眠る。依子もまた、その魅力に酔うが・・・。

密室遊戯」。「わたし」が住む部屋は、肉屋の二階を三間に仕切ったもの。ある日、「わたし」は隣の部屋から明かりが漏れていることに気付く。隣の部屋の女の生活を覗き見る喜びを知った「わたし」は、女に教えられた甘美な遊びに酔う。隣の女もまた、覗かれる事を知って、「わたし」に遊びを教えたのかもしれない。

のほほんと生きているので、こんな怖い経験はないのだけど、一つのパラレルワールドとして、自分の現実の他に、こんな世界が実は成立しているのかも、と思うと、更に怖い本。うーむ、暑い夏にちょうどいいか? ちょっとぞぞぞ。

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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つな がる

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つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
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2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

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