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「アブダラと空飛ぶ絨毯」/D.W.J.版アラビアンナイト

 2005-10-31-08:33
ダイアナ・ウィン ジョーンズ作、西村 醇子訳
 「アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉」

ハウル2とあるけれど、今度の主人公は、ラシュプート国のバザールの若き絨毯商人アブダラ。アラビアンナイトの世界を下敷きにした、「魔法使いハウルと火の悪魔」の姉妹編となる物語。

ダイアナ・ウィン ジョーンズ, Diana Wynne Jones, 西村 醇子
アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉

表紙の絵がとても綺麗なので、大きな画像を載せました。真ん中の空飛ぶ絨毯に乗る寝巻き姿のアブダラ、右下のイカを咥えたイヌ、更にその下の青い瓶、月の光、夜の庭園、空中の城。この美しい絵そのままの世界が展開される。

アブダラは、インガリー(ハウルソフィーが住む)からはるか南に下った地、スルタンが治めているラシュプート国のザンジブ市のバザールに住む、若き絨毯商。バザールの隣人は、揚物屋のジャマールとその飼い犬

ある日、アブダラがいつものように、店内で空想の翼を広げていた所、「空飛ぶ絨毯」を売りたいというお客がやって来る。「空飛ぶ絨毯」を手に入れたアブダラは、絨毯のお陰で美しい箱入りの姫、<夜咲姫>と知り合うが、<夜咲姫>は彼の目の前で魔神(ジン)・ハスラエルに攫われてしまう。アブダラは怒ったスルタンの追跡を受けながら、魔神(ジン)から<夜咲姫>を助けるために、旅に出ることになる。

アブダラの旅のお供は、瓶の口から出る紫色の煙、気難しい精霊のジンニー。一日一回は願いを叶えてくれるというのだけれど、彼の叶え方はいつだって強引。かえって状況が悪くなったりもする。

「この瓶の持ち主となった者は、毎日ひとつずつ願い事が許され、ぼくはいやでもそれをかなえてやらなければならない」

さらに、ジンニーに引き合わされた、ストランジア人の兵士、なぜか彼らにくっ付いて来た<真夜中><はねっかえり>という二匹の猫を連れて、旅は続く。

全ては、その時そこに見えているものだけであるとは限らない。

ザンジブのならわしにより、美辞麗句を連ねる事が出来るアブダラ。お世辞が大好きな「空飛ぶ絨毯」も面白いし、ほとんど何にだって逆毛をたて、気に入らない時には大きくなる猫の<真夜中>も不思議。かつてはいい魔神(ジン)だったハスラエル、その弟で甘ったれのダルゼル、臆病でへそ曲がりのジンニー

全ては隠されているけれど、「悪いやつでいるのも楽しかったんだよ」というのも分かる。自分の型に囚われることなく、乱暴でも好き勝手が出来るのだもの。最後は大団円でめでたし、めでたし。全ては収まるべきところに収まるのだ。

実は、「魔法使いハウルと火の悪魔 」はあまり好みではなかったのだけれど、こちらの「アブダラと空飛ぶ絨毯」は、とても楽しく読むことが出来た。本当のアラビアンナイトをきちんと読んだ事がないので、その世界とはまた違うのかもしれないけれど、魅力的なアラビア風の世界にうっとり。ま、私はソフィーに同族嫌悪を感じていたので(長女で自意識過剰で頑固者)、ぎゃんぎゃん騒ぐソフィーの出番が、表面上だけでも少なかったのが、大きかったのかもしれないのですが。
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「ラヴァーズ・キス」/キス

 2005-10-30-19:32
吉田 秋生
ラヴァーズ・キス
小学館文庫

vol ? 悪い噂
vol ? 冷たい月
vol ? Je te veux
vol ? 好きやねん
vol ? 彼女の嫌いな彼女
vol ? TEMPEST
?エッセイ 有吉玉青

色々なキスの形。

時系列は同じだけれど、それぞれの立場から描かれる。彼らの想いは、?、?を除けば全てが哀しい片思い。でも決して暗くはない。「もう出会ってしまった」のだから、仕方がない。想いをごまかすことはしない。好きになったその気持ちを大切にする、高校生の物語。舞台は海が身近な鎌倉。

?・・・里伽子と藤井朋章の出会い
?・・・里伽子と藤井朋章の恋
?・・・鷺沢高尾の藤井朋章への想い
?・・・緒方篤志の鷺沢高尾への想い
?・・・依里子の美樹への想い
?・・・美樹の里伽子への想い

 鷺沢高尾:藤井朋章の後輩の男子生徒
 緒方篤志:鷺沢高尾の後輩の男子生徒
 依里子:里伽子の妹。緒方篤志とは親友
 美樹:里伽子の親友

それぞれのベクトルが少し変われば、幸せなカップルになれるかもしれないけれど、彼らはそんなことはしない。

東宝
LOVERS' KISS ラヴァーズ・キス

以前、ケーブルでやっていた、これの映画版を見たことがあるのだけれど、何の気なしに見始めたまま、ついつい全部を見てしまった。映画はこの漫画の空気を、上手くあらわしていたように思う。吉田秋生さんが描く人物の方が少し大人っぽいし、キャラクターの性格は一部異なっているけれど、漫画の重要な要素はきちんと抽出されていたように思う。依里子役の宮崎あおいちゃんが、キュートだった。
***************************
ブックオフで、これが105円で売っていて、更にその他「前略・ミルクハウス」「ソルジャー・ボーイ」も105円になっていたので、嬉しくなって購入してしまった。でも、「前略・ミルクハウス」は文庫の3巻だけが抜けているので、どこかで補充をしなくてはなりません。
コミックスで後生大事に持っているものの文庫版が、105円で売っていたりすると、スペース的にも魅力的ですね、しかし。コミックス20巻分が、文庫では10冊になって、しかも大きさもすっきり収まるのだものなぁ。ちょっと考えてしまう。

「カルチェ・ラタン」/神は存在なりや?

 2005-10-28-08:58
佐藤賢一「カルチェ・ラタン」

時は16世紀、舞台は学問の都、パリのカルチェ・ラタン。主人公は、今ひとつ世慣れない、童貞のパリ夜警隊長ドニ・クルパン。ドニは親の威光で夜警隊長に就任した、裕福な商人の次男坊。

この物語は「ドニ・クルパン回想記」という体裁をとっていて、巻頭と巻末には、ドニ・クルパンの子孫による序文や、「ドニ・クルパンとその時代」と題する佐藤賢一氏の解説文が載せられている。巻頭と巻末はちょっと堅苦しくもあるのだけれど、始まってしまえば、中世のフランスが生き生きと描かれる。

ドニ・クルパンは親の七光りで隊長になっただけあって、部下である隊員たちにもなめられてばかり。もともと彼はあまり優秀な方ではなく、学生時代の家庭教師、マギステル・ミシェルには「泣き虫ドニ」などという不名誉な渾名を進呈されている。

夜警隊長であるドニは、彼の管轄内で起こった事件を解決しなくてはならない。ドニは名探偵ばりの頭脳を持つ、マギステル・ミシェルに助けを求め、彼を職務に引っ張り出す。ミシェルは、眉目秀麗、頭も切れるが、女たらしの破戒僧。ドニがミシェルに泣きついた日も、彼は印刷屋の美貌の未亡人、マルトさんの所にしけこんでいると思われた。

ドニとミシェルはコンビを組んで事件を解決していくが、一つ一つは関係がないように見えた事件は、実はパリを揺るがす大きな一つの事件に収束していく。

これは「泣き虫」ドニの成長物語でもあるし、この時代の神学の砦であるカルチェ・ラタンを舞台としているだけに、カトリックとプロテスタントの対立が描かれ、宗教改革の嵐が吹き荒れる、この時代の学僧たちの青春群像であるとも読める。神の時代ではなく、人間の時代が来たときに、マギステル・ミシェルは、ジョン・カルヴァンは、フランシスコ・ザビエルは、イグナチウス・デ・ロヨラはどう行動したか?

最初は女たらしで、ドニに皮肉めいた警句を繰り返し、傍若無人に振舞うマギステル・ミシェルを、ドニの身になってちょっと恨めしく思いながら読んでいた。しかし物語が進むにつれ、ミシェルの本質が、研ぎ澄まされるように浮かび上がってくる。ミシェルの真実は、強く哀しく清廉であるように思う。

「エッセ・エスト・デウス(神は存在なりや)」

佐藤氏の本はこれでようやく二冊目なのだけれど、現実に生き、包容力があって強く、しかしながら弱い女性、悪ぶっているけれど、純粋な心、真っ直ぐな精神を持ち続けている男性がいいと思う。

「マギステル・ミシェルの鉄則、その一、女は何度でも生まれ変われる」

男に殺してもらえるから、男にその辛い過去を清算してもらえるから、女は何度でも生まれ変われる。そして、その時、男はその女の「小さな神」となる。ラストは、「ドニ!よくやった!」と声を掛けてあげたい気分になる。

 ← 私が読んだのはこちら
佐藤 賢一
カルチェ・ラタン
 ← 既に文庫化されているようです

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

☆関連過去記事
「王妃の離婚」/結婚とは、人生とは

中世の異端の話としては、こちらも面白かった。
ゴシック歴史ロマン/「グノーシスの薔薇」
十五世紀末から十六世紀初頭のルネサンス爛熟期に、教皇レオ十世(ジョヴァンニ・デ・メディチ)に仕えた小人、ジュゼッペ・アマドネッリ(ペッペ)の手記という形をとった物語。

「倉橋由美子の怪奇掌篇」/幻想的な

 2005-10-27-09:07
倉橋由美子「倉橋由美子の怪奇掌篇」

目次
ヴァンピールの会
革命
首の飛ぶ女
事故
獣の夢
幽霊屋敷
アポロンの首
発狂
オーグル国渡航記
鬼女の面
聖家族
生還
交換
瓶の中の恋人たち
月の都
カニバリスト夫妻
夕顔
無鬼論
カボチャ奇譚
イフリートの復讐

どれもごく短い幻想的なストーリー。目次を見ても、なかなかに妖しげなタイトルが並んでいる。秋の夜長に如何でしょうか。

私が好きなのは、「首の飛ぶ女」「事故」

「首の飛ぶ女」は、夜毎、恋しい人の下へ首を飛ばす美少女の物語。語り手である「私」の父の友人Kは、戦地から引き揚げる際に、中国人の女の子を連れ帰ってきた。美しく成長した彼女は、実は飛頭蛮と呼ばれる種族の一員であった。この種族は、夜中に頭が胴を離れて飛びまわるという、変わった習性を持つ。Kと彼女との関わり、また生前の「私」の父との関わりとは。

首を飛ばすって随分野蛮な話に聞こえるけれど、そこは倉橋由美子さん。美しいです。美少女の首が窓の外にやって来たら、やっぱり家の中に入れてあげて、お話したくなるのだろうか。

「事故」は、突発性溶肉症にかかってしまった小学生、山口勉君のお話。ある秋の夜長、つい湯槽の中でうとうとしてしまった勉君は、すっかり骨だけの姿になってしまう。

起きたら虫になっているのも困るけれど、骸骨になってしまうのも困るよね。でも、すかすかして、気持ち良いのかも(冬は寒いか?)。


そういえば、「読書感情文 」のぐたさんの所で紹介されていた、「おとぎ話占い」自分の診断結果、「かぐや姫」の記述に違和感を覚えたのは、この本の中の「月の都」の荒涼としたイメージが頭にあったからかもしれない。確か、倉橋由美子さんのその他の短編でも、「かぐや姫」は結構冷たい性格に描かれていたように思う。

その他、「アポロンの首」は、別の物語「ポポイ」 (美少年の首を飼うというお話)の元になっている。

倉橋 由美子
倉橋由美子の怪奇掌篇

■おとぎ話占いはこちら
■ついでに、「かぐや姫」の性格分析。
 
かぐや姫のあなたは、心の優しい穏やかな人。人との調和を大切にし、良くも悪くもとびぬけることが好きではありません。人には親切で、けんかや言い争いは嫌い。少々気に入らないことがあっても、騒ぎ立てずにがまんしてしまいがち。とはいっても、意志が弱いわけではなく、本当はとても頑固。人のアドバイスを聞くことは聞きますが、それで自分の考えを変えることはありません。凝り性のところがあり、自分の仕事が好きな分野にはまると、思う存分力を発揮できます。

「とても頑固」しか合ってない所が、悲しいなぁ。

☆関連過去記事「夢の通い路」/ 異世界との交歓

「きよしこ」/伝えるということ

 2005-10-26-08:58
重松清「きよしこ」

主人公は吃音の少年。カ行とタ行、濁音で始まる言葉は、殆どの場合どもってしまい、上手く発音することが出来ない。「カ行」で始まる友達になれそうな少年の名前も呼べないし、授業で答えが分かっても手を挙げられない。面白いことを思いついても、言葉に出すことが出来ない。呑み込んだ言葉や思いを、常にその身に抱えて生きる。

そんな彼の名前は、何の因果か、彼が必ずどもってしまうカ行の「きよし」。父親の仕事の都合で、転校続き、苦手な自己紹介を繰り返す少年時代を過ごす。これは「きよし」少年が、その少年時代に出会った人たち、出来事を綴った物語。

「きよし」少年は、重松清さん自身の分身。これは重松さんが個人的に手紙を貰った、同じように「うまくしゃべれない子どもである、「君」に向けた「個人的なお話」でもある。

目次
きよしこ
乗り換え案内
どんぐりのココロ
北風ぴゅう太
ゲルマ
交差点
東京

■きよしこ
小学校一年生のクリスマスの思い出。少年の想像上の友達、「きよしこ」との対話がいい。欲しいゲームの名前を言えない辛さ、「ごめんなさい」の「ゴ」が言えない辛さ。

■乗り換え案内
三年生になった少年は、「吃音矯正プログラム」である「おしゃべりサマーセミナー」に、夏休みの半分をつぶして通うことになる。そこで出会った「加藤君」は、少年に何かとちょっかいをかけてくる。

■どんぐりのココロ
小学校五年生になった少年は、転校にはすっかり慣れっこになったはずなのに、今度の学校ではクラスに馴染むのに失敗してしまう。親に心配を掛けないよう、近所の神社で放課後の時間をつぶす内に、出会った「おっちゃん」とのお話。

■北風ぴゅう太
少年は、小学校生活最後の思い出になるお芝居の脚本を任される。担任の石橋先生から出された条件は、次の二つだけ。「クラス全員に台詞を与えること」と、「悲しい終わり方の話にしないこと」。「小学校生活の思い出」といっても、転校を繰り返した少年には、みんなと一緒に積み重ねた思い出はない。

■ゲルマ
中学校二年生の一学期に出会った、ちょっと迷惑な友達、「ゲルマ」の話。ゲルマと、ゲルマの友達ギンショウと、少年との話。どうしようもなく弱いギンショウと、鈍感で無神経で、「友情」を取り違えているゲルマが哀しい。
「ゲルマ」は、ゲルマニウム・ラジオで銅賞をとったことから、自分で渾名をそう変えた。ゲルマの友情は間違っているし、鈍感で無神経だけれど、彼は少年が読書感想文コンクールで書いた、「泣いた赤鬼」に出てくるような少年だった。

「青鬼になるのは難しい。ぼくの友達は、青鬼になりたかったのになれなかった」

■交差点
中学校三年の最後の野球の試合。これまで頑張ってきたレギュラーメンバーの中に、ぽつんと転校生の大野がやって来る。彼が入部したことで、仲間の一人は試合のメンバーから外れてしまう。少年は、小学校では都合五回の転校を繰り返したけれど、中学では父の犠牲により動かずにすんだ。ようやく少年が思い出を積み重ねることが出来た、野球部の仲間の気持ちも分かるし、転校生・大野の気持ちも良く分かる。

「転校生って怪獣みたいなものだと思うんだよな。俺が野球部の平和を乱したようなものじゃん。白石はそういうこと、考えたことない?」

■東京
少年のことをとても好きになってくれた地元の女子大生、ワッチとの話。少年が家族と過ごした最後の日々の話。ワッチは吃音が重くなった少年の「通訳」になるというが、少年は地元のY大ではなく、東京のW大を志望する。少年は、もう、どもらずにすむ替わりの言葉を探すことはしない。欲しいものは、やりたいことは、自分で伝えるしかない。

もう誰も助けてくれない。知らない町で、知らないひとたちと、これから生きていく。


どもってしまうという形でなくとも、子どもの頃って何かの理由で、伝えられないことが沢山あったように思う。子どもは無力だからなのかなぁ。今思えば大した理由でもないし、そんなことで伝えられないのだとしたら、馬鹿げた話なんだけれど。そんな誰の胸にもあるだろう、子ども時代を思い出す、断片のような物語。

今もあまり伝えることは得意ではないし、時に頓珍漢なことを言ってしまったりもするけれど、「きよしこ」の言葉のように、「それがほんとうに伝えたいことだったら・・・・・・伝わるよ、きっと」だといいな、と思う。

 ←私が読んだのはこちら
重松 清
きよしこ
 ?←既に文庫化されています

文庫を買おうと思っていたら、図書館で単行本を見つけてしまいました・・・。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「ザバーン」/野生動物たち

 2005-10-25-10:28
オンライン書店ビーケーワン:ザバーン
朝日新聞北海道支社報道部編
「ザバーン 北海道野生博物館」中西出版

「本書は朝日新聞北海道版に連載された「北海道野生博物館」の写真とエッセイに、クリエーターの手によるイラストレーションを加え、見て、感じて、読んで楽しめる一冊にまとめたものです」とのこと。

プランナーの山本公紀氏によると、「写真とイラストレーションの、はじめてコラボ。」コラボレーションって、昨今では何となく胡散臭く感じてしまったりもするのだけれど、このコラボはいいですよ。元となる写真に音を感じたから、素直にその印象をイラストレーションにし、そこに感じた音を添えてみたのだそうだ。

たとえば、表紙になっている「ザバーン」というイラスト(表表紙から、裏表紙へと繋がっている)は、ジャンプする「夢みるクジラ。ミンククジラ」の写真とのコラボレーション。

青の中、黄色い文字が「ヒラーリ」と飛んでいるエゾモモンガ
(写真のタイトルは、夜をゆく、森のグライダー。」グレーの中、黒の棒が二本たち、その上に「ホオ」という白い文字が浮かぶ、コミズク(写真のタイトルは、「まあるい顔には、理由がある。」)、水色のバックの中、頭に四本の毛を立てた、数字の2が波間を進む、カワアイサ(タイトルは、「よいしょ、よいしょ。ママ、待って。」)など、写真もイラストも楽しめるつくり。

トロトロと眠そうなエゾフクロウ、ユーモラスな表情のアザラシ、つぶらな瞳でこちらを見つめるエゾクロテン、ギロっとこちらを睨むヒグマ、などなど野生動物の写真、そこに添えられた文章もいい。写真と文章は、連載時から、朝日新聞の石毛良明記者が担当されたとのこと。

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「ローズガーデン」/混沌の中にあるもの

 2005-10-24-09:13
桐野夏生「ローズガーデン」

村野ミロシリーズの、何だか気だるい短編集。
ミロの前半のシリーズ、「顔に降りかかる雨」などに見られるハードボイルド色よりも、混沌として妖しい気配に満ち溢れた「ダーク」よりの物語。

目次
ローズガーデン
漂う魂
独りにしないで
愛のトンネル

■「ローズガーデン」
ミロの夫、博夫はインドネシアで、僻地への営業を勤めながら、高校時代のミロと自分を思う。年上の女とばかり付き合っていた博夫は、ミロの持つアンバランスな気配に気付く。

ミロが俺の目をじっと見つめた。冷めていて熱い。そこに見え隠れする関心と無関心。ああ、こいつもやはりあの手の女だ。間違いない。

誘われて訪れた、ミロが父親と二人で暮らす家には、荒れ放題の庭のそこかしこに薔薇が咲き乱れていた。ミロの言葉に背徳を覚え、そのインモラルさに興奮する博夫。
ミロと結婚することで、博夫はミロの昼も夜も手に入れるが、愛した混沌を永遠に失ってしまった博夫は、それを求めて彷徨う事になる。

ここで高校時代のミロが話すことが真実なのかどうか、それはどちらにもとることが出来るように思う。村野ミロのデビュー作、「顔に降りかかる雨」では既に自死を選んでいる博夫
「ローズガーデン」はミロシリーズに更に妖しい奥行きを与える物語。
混沌としたジャカルタの描写もいい。

■「漂う魂」
ミロの住むマンションに幽霊騒ぎが持ち上がる。探偵業を営むミロは、管理会社から幽霊騒ぎの調査を正式に依頼される。

人の悪意の怖さを感じるお話。

■「独りにしないで」
ある夜ミロは、あまりにも不釣合いなカップルに出会う。女は類稀れな程美しく、男は平凡で地味で冴えない。びっくりするほど美しい女は、中国人のホステスだった。偶然、冴えない平凡な男・宮下に再会したミロは、美しい女「有美」の気持ちを確かめて欲しいと依頼される。他人の気持ちを計るのは不可能だと、依頼を断ったミロだが、一週間後宮下は殺されてしまう。宮下は一体何に触れてしまったのか?

ミロが受けていた他の依頼の話も絡め、「愛」の難しさを描く。

■「愛のトンネル」
ホームの巻き添え転落事故で、娘、恵を亡くしたばかりの男性が、ミロの事務所にやって来た。平凡に暮らしているものとばかり思っていた娘が、なんと「女王」業で貯めた二千五百万円で、SMクラブの経営権を購入していたのだ。ミロは男の妻と末の娘が恵のアパートを片付ける前に、「その手の物」を取り除いておくよう依頼される。
ごく簡単な仕事のはずだったのに、後手に回ってしまったミロは、荒らされた恵の部屋と対面することになる。父親から見ると、天使のように優しく、おとなしくいい子だった恵。

「天使のような」彼女の優しさは、何に向けられていたのか。
彼女の周囲の人々は、その「優しさ」をどう受け止めていたのか。
*******************************************
どれもこれも、人の心の複雑怪奇さに迫るような物語。
すっきりするような話ではないのだけれど、たまにはこんな心の中を覗いてみるのも悪くはないかもしれない。ただし、一編一編は短いけれども、どれもこれも結構ずーんと来ます。

桐野 夏生
ローズガーデン

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「キッチン」 /明るい、光る

 2005-10-23-16:11
吉本ばなな「キッチン」

目次
キッチン
満月―キッチン2
ムーンライト・シャドウ

唯一の身寄りだった祖母をなくし、天涯孤独の身となったみかげ。
「キッチン」は、彼女が身を寄せた田辺えり子と雄一親子との交わりの話。
「満月―キッチン2」では、さらに雄一が天涯孤独の身となってしまう。
みかげと雄一の周囲には、常に死が付き纏う。

私はこの中の「満月」が、すごく好き。
言葉にしなくても、ただ寄り添っていた、ただ明るい思い出を共に持てたということだけで、浮上出来る事も沢山あるのだと思う。

ただ、こういうとても明るいあたたかい場所で、向かい合って熱いおいしいお茶を飲んだ、その記憶の光る印象がわずかでも彼を救うといいと願う。言葉はいつでもあからさますぎて、そういうかすかな光の大切さをすべて消してしまう。

ばななさん得意のスーパーナチュラルな感覚がバンバン出てくるのだけれど、みかげのカツ丼の出前シーンがすごく好き。面倒臭いことばかりかもしれないけれど、ふわふわしたところではなく、もっと大変で、もっと明るいところへ、2人で行くのだ。

人はみんな、道はたくさんあって、自分で選ぶことができると思っている。選ぶ瞬間を夢見ている、と言ったほうが近いのかもしれない。私も、そうだった。しかし今、知った。はっきりと言葉にして知ったのだ。決して運命論的な意味ではなくて、道はいつも決まっている。毎日の呼吸が、まなざしが、くりかえす日々が自然と決めてしまうのだ。そして人によってはこうやって、気づくとまるで当然のことのように見知らぬ土地の屋根の水たまりの中で真冬に、カツ丼と共に夜空を見上げて寝ころがざるをえなくなる。

「ムーンライト・シャドウ」は百年に一度の見もののお話。
これもまた、喪失と再生の物語。ひとつの旅が終わって、また次が始まる。生者の時は流れて行くけれど…。

あの幼い私の面影だけが、いつもあなたのそばにいることを、切に祈る。

ばななさんの小説は、喪失と再生がテーマだし、その明るさは決して太陽のような陽性の明るさではない。月のように冴えた冷たい光の印象もあるけれど、美味しそうな食事の風景、取り戻せない時間を悼むところなどなど、決して冷たいわけではないのだよね。この透明な空気が好きだ。

吉本 ばなな
キッチン
*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

☆関連過去記事

「哀しい予感」/ 喪失と再生と発見


「ビッグ・アップル・ミステリー」/ニューヨークとミステリー

 2005-10-21-17:19
アシモフ他編、常盤新平訳「ビッグ・アップル・ミステリー」

「いぬはミステリー」 と同様のつくり(「いぬはミステリー」の方が、刊行はかなり後ですが)。マンハッタンを舞台とした、12のミステリー。

ニューヨークはみんなの、あなたや私の街である。
(アシモフによる、「はじめに」より)

ニューヨークというのは、たとえ行った事がなくても、誰もが小説や映画で馴染みがある、不思議な街。
ニューヨークとミステリーの組み合わせが、魅力的なアンソロジー。

目次
はじめに
5番街の殺人
春爛漫のママ・・・・・・ジェイムズ・ヤッフェ
57丁目の殺人
緑の氷・・・・・・スチュアート・パーマー
グリニッチ・ヴィレッジの殺人
ジェリコとアトリエの殺人・・・・・・ヒュー・ペンティコースト
リヴァサイドの殺人
あの世から・・・・・・クレイトン・ロースン
西12丁目の殺人
殺人の“かたち”・・・・・・フランセス&リチャード・ロックリッジ
49丁目の盗難
一ペニー黒切手の冒険・・・・・・エラリー・クイーン
ニューヨーク港の事件
世紀の犯罪・・・・・・R・L・スティーヴンズ
西35丁目の殺人
殺人は笑いごとじゃない・・・・・・レックス・スタウト
パーク・アヴェニューの殺人
一場の殺人・・・・・・Q・パトリック
ブロードウェイの殺人
地下鉄の怪盗・・・・・・コーネル・ウールリッチ
5番街のコン・ゲーム
スペード4の盗難・・・・・・エドワード・D・ホック
ミドタウンの災難
よきサマリアびと・・・・・・アイザック・アシモフ

■「春爛漫のママ」
デーヴとシャーリー夫妻は、未亡人の「ママ」に、独り者のミルナー警部を引き合わせようと考えた。デーヴは、ニューヨーク市警に勤務しており、ミルナー警部は彼の上司にあたる
食事の話題は、いつしか二人が目下担当中の殺人事件へ。
アームチェア・ディテクティヴの「ママ」の推理が冴える。

■「一ペニー黒切手の冒険」
探偵エラリー・クイーンは、ある日、ユネカー老人の書店で、ハズリットという男性から、奇妙な盗難の話を聞く。取立てて珍しい本でもない、「混迷のヨーロッパ」が、盗まれたのだ。その後も「混迷のヨーロッパ」の盗難は続く。
時同じくして、切手商会を営むウルム兄弟の元から、この世にたった二枚しかない高価な「一ペニー黒切手」の内、一枚が盗まれてしまう。二つの事件の関連は?

■「殺人は笑いごとじゃない」
ある朝、ネロ・ウルフの事務所に、フローラ・ギャランドという中年女性がやって来た。彼女は高名なドレスメーカーであるアレック・ギャラントの姉で、弟に取り入るビアンカ・ヴォスという女性について、調査を行って欲しいというのだ。ところが、ビアンカ・ヴォスは、ウルフとの電話中に殺害されてしまう。
利用されたと感じたウルフは、自分のために調査を始める。

■「地下鉄の怪盗」
主人公は、地下鉄の車掌ディレニー。彼が乗車する地下鉄に、街を騒がせていた「怪盗」の戦利品である、五十万ドル入りのスーツケースが乗せられた。
日常に退屈するディレニーは、犯人のスーツケースだと見破ったものの、「怪盗」の顔見たさに、スーツケースをそのままにしておく。「怪盗」はどこかで、このスーツケースを回収するはずなのだ。
ラストのディレニーのぼやきがいい。退屈に倦んでいたはずのディレニー。この事件の後の生活は、それでも、「楽をしているときって、本人にはわからない」のだ。

■「よきサマリアびと」
アシモフによる「黒後家蜘蛛の会」シリーズの内の一作。
伝統ある、女人禁制の「黒後家蜘蛛の会」。
その月例の会食に、なんと女性がやって来た。
彼女、ミセス・リンドマンは、西海岸からニューヨークへやって来た品の良い老齢の未亡人。彼女はニューヨークの夜の散歩で、ハンドバッグを奪い取られてしまう。呆然自失の彼女を助けてくれたのは、感じの良い若い男性だった。彼は彼女を自室に連れて行き、親切に介抱し、帰りのタクシー代まで出してくれる。
最初は嫌な思いをした老婦人だったけれど、よきサマリア人のような若者に出会い、いい経験をしたと考える。ところが、なんと言うこと!ショックのためか、彼女は部分的なことを覚えているものの、青年の名前も住所も忘れてしまったのだ。
「黒後家蜘蛛の会」の面々が、記憶の断片から青年の住所と名前を推理する。頑なだった「黒後家蜘蛛の会」の面々の気持ちが、この心優しく清らかな老婦人によって、ほぐれていく所がいい。

I・アシモフ, 常盤 新平
ビッグ・アップル・ミステリー―マンハッタン12の事件

「いぬはミステリー」/ワンワン!

 2005-10-21-17:04

アシモフ他編、小梨直訳「いぬはミステリー」

アイザック・アシモフといえば、本来はSF界の巨匠なのだろうけれど、私にはアンソロジーの編者としてのイメージが強い。アシモフ編のアンソロジーには、どれも外れがないように思う(ま、そんなに沢山読んだわけでもありませんが)。

これは「いぬ」をテーマとしたミステリー。

目次
まえがき……アイザック・アシモフ
眠れる犬……ロス・マクドナルド
敵……シャーロット・アームストロング
ジャズの嫌いな犬……ウィリアム・バンキア
闇の中を……ポール・W・フェアマン
非常口……マイケル・ギルバード
なぜうちの犬は吼えないか……ロン・グーラード
ブーツィーをあの世へ……ジョイス・ハリントン
レオポルド警部、犬レースへ行く……エドワード・D・ホック
リンカーンのかかりつけの医者の息子の犬
                        ……ワーナー・ロウ
こちら殺犬課……フランシス・M・ネヴィンズJr.
ポピーにまつわる謎……Q・パトリック
シャンブラン氏への伝言……ヒュー・ペンティコースト
ラッフルズ、バスカヴィル家の犬を追う……バリー・ペローン
コヨーテとクォータームーン
     ……ビル・プロンジーニ&ジェフリー・ウォールマン
薪売り……ジョン・ルーディン
真昼の犬……レックス・スタウト

作者についての予備知識がなくても、大丈夫。
短編の扉に、詳しい著者のプロフィールが載せられている。

「闇の中を」
手違いで誘拐された少女ティナ。彼女は両親と共に、過去ブダペストで<恐怖>に襲われた経験がある。<恐怖>は両親を、彼女の元から永遠に連れ去ってしまった。ティナは過去に、<恐怖>と対決した時の教訓、「あきらめてはいけない」を胸に、ただ一人、誘拐犯のアジトから脱出する。森を抜けて、安全な叔父フーゴーの元へ。

今回の「いぬ」は、ドーベルマンのプリンス。ティナとプリンスは、ブダペストの家のベランダの下で、<恐怖>から身を隠している時に初めて出会い、その後はいつも一緒に生きてきた。

でも本当はそんなことはない。海をひとつ越えたくらいで<恐怖>から逃れられるわけはないのだ。そんな簡単なものではない。<恐怖>はいろいろな顔を持っていて、またいつか舞い戻ってくるに決まっている。これまでもそうだった。
だからぜったいに気を許してはいけない。
常に用心して、どんなことがあっても、くじけたりあきらめたりしてはいけないのだ。

ハンガリーからオーストリアの国境を抜けて、アメリカにやって来たフーゴーとティナとプリンス。
ティナの固い決意と、脱出行が息詰まるような作品。

「ラッフルズ、バスカヴィル家の犬を追う」
コナン・ドイル博士に罠が仕掛けられた。
それを知った、ラッフルズとバニーは…。

この「ラッフルズ」という人物自体も「E・W・ホーナングの作で人気を博した怪盗ラッフルズの使用権を得て」書かれたものとのこと。勿論、タイトルにある、「バスカヴィル家の犬」とも関連した作品。

■「コヨーテとクォータームーン」
純粋なユマティラ・インディアンである、ジル・クォータームーンは美しい二十六歳。動物管理局に勤める彼女は、高級住宅地のガレージに閉じ込められたドーベルマンを救出する。住人の名は、エドワード・ベナム。しかし、登録書類上は、ベナムが飼っているのは、ドーベルマンではなく、雌のハスキー犬のはず。不審な点が多いこの住人を、ジルは上司の命令を振り切って調べ始める。

■「真昼の犬」
褐色砂岩造りの家に住む、巨漢の探偵、ネロ・ウルフ!
私はアンソロジーでしか、この探偵を読んだことがないのだけれど、ネロ・ウルフ物は結構好み。

ネロの助手、アーチーが殺人事件の現場で出会った“ハット・ハウンド”(アーチーの帽子を救ったのだ!)のラブラドル・リトリバー。かのリトリバーは、勝手に彼の家である事務所までついて来てしまう。いつもうるさいウルフを慌てさせるつもりが、意外にもウルフは文句を付けながらも、リトリバーを飼うという魅力に取り付かれた模様。彼らは成り行き上、殺人事件にも首を突っ込むことになる。
**************************************
猫をテーマにしたものとは違って、ここに出てくる犬は、人間と一緒に事件を解決してくれるだけではない。なんといっても、人間よりも強い体と力を持っている犬種もあるわけで。でも、「いぬ」と「ミステリー」が好きな人には、楽しめるアンソロジーだと思う。

アイザック アシモフ, Isaac Asimov, 小梨 直
いぬはミステリー
(赤い表紙も可愛いのだけれど、残念ながら表紙画像が出ませんでした)

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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つな がる

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つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
興味を持った記事があったり、あなたが読み終えた本について語っていたら、是非あなたの感想を教えて下さい。お待ちしています。

2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

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