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「借金取りの王子」/君たちに明日はない2

 2010-03-04-22:14
借金取りの王子借金取りの王子
(2007/09)
垣根 涼介

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内容(「BOOK」データベースより)
デキる女ほど、なぜ辞めたがる??リストラ請負人・村上真介の悩みは今日も深い。デパート、生保、金融、ホテル…次の標的は、あなたかも!?恋と仕事の傑作エンタテインメント、ますますパワーアップ。

結局、NHKのドラマの方は、一回しか見られなかったんですが、本の方は順調に読み進んでいます。「君たちに明日はない」(感想)の続編です。

今回も真介の口上は滑らか。
「これを機会に、新しい外の世界にチャレンジされるのも一考かと思われますが、いかがでしょう」。
この辺りは嫌になるほど、リアリティがあるような気がしてしまいます。

今、この男のデカいアタマのなかには、大金が転がり込み、転職活動もうまくいって、新たな職場で活躍している自分のイメージが浮かんでいる。希望的観測に沿った未来。
最近になって分かってきた。
人間は、受け入れがたい現実は受け入れない。不本意な将来には目を塞ぎ、代わりに自分に都合のいい未来だけを信じる。(p23より引用)

このあたりも、ね。

真介は彼らの錯覚を利用して、辞職勧告を受け入れるよう”落とす”。もちろん、それは錯覚にしか過ぎないのだから、それは鬼のやること、自分はろくでなしだとの自覚はあるのだけれど…。それでも、それが真介のオシゴト。今回も4件の面接が描かれます。

真介とて、何も考えていないわけではなくて、File5は彼の会社が新規に立ち上げた人材派遣業のお話。派遣業の言い出しっぺの真介は、この新規部門のチーフとして、恋人陽子の事務局にスタッフを派遣します。

今回、じーんと来たのは、表題作でもある「借金取りの王子」。消費者金融業の恐ろしさとともに、印象深かったのが「王子」の純情。対になる「姫」の男っぷりも良かったです。ある意味、夢のようなお話でもありましたが、いいんだなぁ。ごっつい結婚宣言、かっこいいです。

今後が気になる展開としては、真介の会社「日本ヒューマンリアクト㈱」の社長、高橋がぐいぐいと出てきたこと。年のころは、真介の恋人、陽子とぴったりなんですよねーー。次作では、このトライアングルには何か進展があるのかしらん。うーん、陽子はどちらと付き合っても良いのではないのかなぁ。真介にはまだまだ独りが似合いそう。とかいって、次作では結婚話とかが出ているのかもしれませんが…。

目次
File1. 二億円の女
File2. 女難の相
File3. 借金取りの王子
File4. 山里の娘
File5. 人にやさしく
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「君たちに明日はない」/大人のオシゴト小説

 2010-02-14-00:48
君たちに明日はない (新潮文庫)君たちに明日はない (新潮文庫)
(2007/09/28)
垣根 涼介

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「私はもう用済みってことですか!?」リストラ請負会社に勤める村上真介の仕事はクビ切り面接官。どんなに恨まれ、なじられ、泣かれても、なぜかこの仕事にはやりがいを感じている。建材メーカーの課長代理、陽子の面接を担当した真介は、気の強い八つ年上の彼女に好意をおぼえるのだが…。恋に仕事に奮闘するすべての社会人に捧げる、勇気沸きたつ人間ドラマ。山本周五郎賞受賞作。


File1. 怒り狂う女
File2. オモチャの男
File3. 旧友
File4. 八方ふさがりの女
File5. 去り行く者
 解説 篠田節子
たまたま一回だけドラマを見て、気になったので図書館で借りてきちゃいました。私が見たのは、ちょうどFile3.の「旧友」のところだったみたい。でも、次回予告は「オモチャの男」だったし、順番は適当にいじってあるんだな、きっと。ドラマはなかなか良くって、主人公の真介がすっかり坂口憲二にしか見えませんー! 続巻も予約を入れようと思ったら、同じように予約を入れた人がいたみたいで、続きを読むのはちょっと先になっちゃいそうです。

ドラマを見た時に、不思議だった田中美佐子の立ち位置は、原作を読んで理解は出来たんだけど、別に映像化するときに、なくても良いキャラだったのかも…。だって、真介、ただの年上好きにしか見えないよー。しかも、あんな純情キャラでもないしなぁ。実際、大人の娯楽小説として、小説の中ではアンナコトもコンナコトもしちゃう仲なんですけど。オヤジ小説に若い女性の恋人が彩りをそえるように、若い男性主人公に年上の女性の恋人がいるんですね、きっと。ま、実際はそこまで単純な話ではなく、真介もまだ色々と何物かを隠し持ってそうな面白そうな男性だとは思うのですが。

ほんとにこんな会社があるのかは知りませんが、アウトソーシング流行りかつ、終身雇用が崩壊しつつあるこの現代に、ちょうど良いリアリティのあるお話でした。しかし、この真介がクビにする人たちの年齢が結構若くってですねえ。なんだか、身に詰まされてしまうんだなぁ。会社が自分に掛けているお金を正確に把握出来てる人って、一体どのくらいいるのでしょうか。その辺をきちんと考えたり、自分が何をしたいのか、何を出来るのか、そのためにもし足りないものがあるのなら、そこをどう埋めていくか(自力で?それとも会社を利用して?)、などなど、常に考えてかないと、これからは会社人生が続けられないような気がします。

「新世界より」/人間の業

 2010-01-31-22:41
新世界より 上新世界より 上
(2008/01/24)
貴志 祐介

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新世界より 下新世界より 下
(2008/01/24)
貴志 祐介

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内容(「BOOK」データベースより)

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは―。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。
八丁標の外に出てはいけない―悪鬼と業魔から町を守るために、大人たちが作った忌まわしい伝説。いま伝説が、「実体」となって町に迫る。新しい秩序とは、おびただしい流血でしか生まれないのか。少女は、決死の冒険に身を投じる。

貴志 祐介さんって、ホラーの人だと思ってたんですが、これは日本SF大賞の受賞作なんですね。

語り手が自分たちとはそう違わない人間だろうと目算して読んでいると、現れてくる世界はなんだか異様。どうも未来の世界であるようなのに、生活は質素で電力の使用も超限定的。町をつなぐのは道路ではなく運河。さらには、彼らには「呪力」というものが存在して…。

異常に重視される教育。どうも全てが注意深く管理されているかのような社会。奇妙な伝説。これらは一体何を示すのか。

色々気味悪ーい(そういう意味ではやっぱりホラーなのかもしれない)場面も、造形も色々あるんですが、その先を知りたくてとりあえず読んでしまいます。しかし、この世界はあまり好きではないので、たぶんこの著者の本はもう読まないとは思うんだけど…。これは代表的なものを読んだと思って良いのかしら。

なんというか、人間性というものへの絶望が身に染みるお話でした。最後の反転がまた辛かった…。どっちに転んでも、またこの歴史は繰り返されるのではないかしら。

「ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて」

 2009-12-06-23:37
ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべてジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて
(2009/02/20)
海堂 尊

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あの「ジュネラル・ルージュの凱旋」でちらりと語られた、東城デパート火災における新人外科医、速水の伝説を描く、表題作「ジェネラル・ルージュの伝説」に、自作解説や作家、海堂尊の来し方を書いたをプラスした、ファン・ブックであります。

最初の最初、「はじめてのご挨拶」から、下記の言葉でほほーっと思ったんです。

人生は誰にとっても自分が主役の群像劇。舞台はひとつ、主役の御仁が別の物語では冴えない脇役に早変わりする回り舞台。みんなひとりひとりに過去と未来があって、脇役人生なんてありえない、ならばそれは虚数空間でも同じこと。

だから、海堂ワールドはあんなに繋がっているのねえ、としょっぱなから納得してしまいました。海堂ワールドの繋がりについては、更に「自作解説」にて詳しく書かれています。

作品に対する海堂先生の自己評価と、自分の評価が合わないところもありますが(先生、私にはやっぱり「夢見る黄金地球儀」はちょっとあのノリが辛いです…)、ファンですから楽しく読みました。海堂さんの小説には今のところ、それぞれペアが存在し、それぞれの作品において、物語の主成分である「物語性」と「医療性」の二つの成分の総和は常に一定であるそうな。私はどうも「医療性」が低い作品が苦手なようです。それって、物語の構成力にケチを付けているように聞こえるかもしれないけど、「医療性」があってこそ、海堂さんだからこそかける世界があると思うんだよね。

ちなみに作品のペアは下記のもの。

「チーム・バチスタの栄光」   ―  「螺鈿迷宮」
「ジェネラル・ルージュの凱旋」 ―  「ナイチンゲールの沈黙」
「ひかりの剣」         ―  「ブラックペアン1988」
「医学のたまご」        ―  「ジーン・ワルツ」
「夢見る黄金地球儀」      ―  「死因不明社会」
「イノセント・ゲリラの祝祭」  ―  「極北クレイマー」
 (左が陽電子だそうであります)

登場人物に特にモデルはいないそうなんですが、自分の性質は“既存のパラダイムの破壊者”であると宣言されておられる姿には、「イノセント・ゲリラの祝祭」の彦根が被り、執筆のスピードの早さには速水が被るのでありました。この本からはそんなに感じられないけれど、魑魅魍魎のような学会の世界を渡り歩いておられるのだから、田口のようなしたたかさ、慎重さもあるのでしょうね。

しかし、先生、「ジェネラル・ルージュの伝説」におけるあの名場面での、猫田看護婦の血も涙もない人の操り方。とても恐ろしいです…。マコリン藤原看護師を継ぐのは、間違いなく猫田なんだろうなぁ…。

今日、テレビでちらりと見たんですが、東京慈恵会医大の鈴木直樹教授という方が、仮想空間による新しい医療システムを開発されており、手術をナビゲーションしたり、犯罪捜査に使われた例もあるのだとか。それってまさに、電子猟犬、加納刑事だよね。海堂さんご自身も、現実がフィクションを追い越していくと書いておられたけれど、時代はどんどん進んでいるんだなぁ。民主党に政権交代し、更にはあの事業仕分けで、医療にはどんな影響があったのでしょうか。バチスタシリーズの新作はどんな世界を見せてくれるのかしらん。「イノセント・ゲリラの祝祭」もあれはあれで面白かったし、確かにあのタイミングで必要な物語だったとは思うのだけれど、願わくば今度は会議室ではなく現場の世界が見たいなぁ。

「ジーン・ワルツ」/産婦人科医療の逆襲

 2009-10-12-11:47
ジーン・ワルツジーン・ワルツ
(2008/03)
海堂 尊

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内容(「BOOK」データベースより)
桜宮市・東城大学医学部を卒業、東京・帝華大学に入局した32歳の美貌の産婦人科医、曾根崎理恵―人呼んで冷徹な魔女(クール・ウィッチ)。顕微鏡下人工授精のエキスパートである彼女のもとに、事情を抱えた五人の妊婦がおとずれる。一方、先輩の清川医師は理恵が代理母出産に手を染めたとの噂を聞きつけ、真相を追うが…。

「ひかりの剣」(感想)にて、速水のライバルだった、帝華大学の清川が准教授となって登場です。海堂さんはこういう描き方がお好きなのかなぁ、と思うんだけれど、奇数章は帝華大学を、偶数章は同じ時期のマリアクリニックを舞台としています。

今回のテーマは、ずばり生殖。しかし、ここにある記述を読むほどに、妊娠・出産ってすごいことなんだなぁ、と思います。お産で死ぬ人は少なくなったとはいえ、百パーセント安全だとは限らない。希望の光であるお産から、闇に突き落とされる時、確かにそこにいる医師に責めを負わせたくなってしまうのかも。

「ひかりの剣」では飄々としていた清川が、一転、クール・ウィッチ(しかし、海堂さんはコードネーム好きだな)、曽根崎理恵に翻弄されてます。この理恵の性格にはかなり無理があるような気がするんだけど、まぁ、それでも読まされてしまうんだなぁ。

もし今後、「医学のたまご」を読む予定がある方は、「ジーン・ワルツ」の前に「医学のたまご」を読んでおくことをオススメいたします。広がっていく海堂ワールド。セント・マリア・クリニックのその後も知りたいなぁ。
【メモ】

三枝院長は首を傾げる。
東京の医家の名門、城崎家の美人姉妹の一人として、世の男性の心を奪った深窓の令嬢の若かりし頃の美貌が蘇る。 p113から引用

うわ、ここも繋がってるよ! 城崎だってー。
目次
序章 遺伝子のワルツ
一章 減数分裂
二章 受胎告知
三章 エンブリオ
四章 心音覚知
五章 托卵の技術
六章 双角の魔女
七章 借り腹の論理
八章 妊娠の現実と蹉跌
九章 魔女VS.アルマジロ
十章 啓示
十一章 出産の奇跡
十二章 悲母観音
十三章 メディア・スター
最終章 セント・マリアクリニック

「死因不明社会」/海堂尊さんブルーバックス

 2009-09-26-03:04
死因不明社会 (ブルーバックス 1578)死因不明社会 (ブルーバックス 1578)
(2007/11/21)
海堂 尊

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目次
 プロローグ 「死因不明社会」の出現とその処方箋
第1章 そして誰も「解剖」されなくなった
  厚生労働省・白鳥圭輔室長、独占インタビュー①
第2章 現代日本の解剖事情
第3章 死体のゆくえ
  厚生労働省・白鳥圭輔室長、独占インタビュー②
第4章 解剖崩壊
第5章 医療事故調査委員会における厚生労働省の謀略
  厚生労働省・白鳥圭輔室長、独占インタビュー③
第6章 Aiは医療事故問題解決の処方箋となりうるのか?
第7章 Aiの病院死症例における威力
  厚生労働省・白鳥圭輔室長、独占インタビュー④
第8章 「死亡時医学検索」の再建のための処方箋「Ai」
第9章 犯罪監視システムとしてのAi
  厚生労働省・白鳥圭輔室長、独占インタビュー⑤
第10章 死をめぐる医療と司法の相克
第11章 Aiの医学的考察
  厚生労働省・白鳥圭輔室長、独占インタビュー⑥
第12章 「死因不明社会」の処方箋と明るい未来
  Aiセンターが医療と社会を再建する
「厚生労働省・白鳥圭輔室長、独占インタビュー」なんて、あの架空の「チーム・バチスタ」シリーズの登場人物が出てきちゃいますが、基本的には真面目な作りです。かつ、これは「イノセント・ゲリラの祝祭」の参考書になるのではないか、と。この辺の基礎知識がないと、「イノセント・ゲリラ」はちょっと厳しい気がします。あれ、ほぼ事件が会議室で起こってるんだ!、って感じですしね。

真面目な本なので、「病理解剖」の写真(白黒で小さいけど、あ、これ、腸だよね~、などとばっちり分かる)なんかも出てきて、若干吃驚しましたが、総じて読んで良かったと思います。

解剖というと、私などは「検屍官」のケイさんの、内臓の重さなどを記録する場面などを思い出すのですが、良く考えてみれば、破壊検査である「解剖」の前に、非破壊検査で問題個所に当たりをつけるのは、ものっすごく妥当な話だよねえ。

あと、知らなかったのが、「監察医制度」が敷かれている場所とそうでない場所があるということ。昭和二十四年の政令で、東京二十三区内、横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市、福岡市並びに京都市の七都市に監察医制度を設置するとあるそうなんだけど、昭和六十年の政令一部改正で、福岡市と京都市は除外されて、現在はたった五都市に置かれているのみなんだって。また、監察医制度のない地域では、行政解剖は病理解剖と同様、遺族の承諾が必要になるけれど、監察医制度の下では遺族の同意が必要とされないんだそうです。つまり、虐待などを見逃し難い。

五都市に敷かれているこの「監察医制度」ですが、行政解剖の数を見れば地域偏重性が一目瞭然。住んでる場所で、死んだ後の処遇が変わってしまうなんて、ちょっとショックでした。監察医が置かれている五都市のうち、唯一実質的にその機能を完遂している専門施設が東京都監察医務院で、ここには院長、副院長に加えて、常勤の監察医や非常勤医を有しているんだそうな(これが横浜市だと、監察業務を行っているのが、辞令を持つ個人医だったり、たとえば大阪市だと所長、監察医とも非常勤になってしまう)。

「ひかりの剣」/剣士、速水

 2009-09-26-02:36
ひかりの剣ひかりの剣
(2008/08/07)
海堂 尊

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内容(「BOOK」データベースより)
バブル景気真っ盛りの1988年、東城大医学部剣道部の猛虎、速水晃一、帝華大医学部剣道部の伏龍、清川吾郎、剣の才能を持つふたりの男が、全存在をかけて戦う。そしてその戦いの陰には、帝華大から東城大佐伯外科に招聘された阿修羅、高階顧問の姿があった。医療ミステリーの旗手が放つ、初の青春小説。

あの将軍(ジェネラル)こと救命救急センター部長の速水晃一の医学生時代。そうしてこれは、「ブラック・ペアン1988」(感想)の裏の物語でもあります。

何が恐ろしいって、阿修羅・高階。その指導も恐ろしいことこの上ありませんが、さすが阿修羅。あの裏でこんなことまでやっていたとは…、とその八面六臂ぶりにすっかりビビってしまうのでした。
目次
第一章  明鏡止水  桜宮・東城大学   冬
第二章  クラウディ  東京・帝華大学   冬
第三章  春風駘蕩  桜宮・東城大学   春
第四章  マリオネット 東京・帝華大学  春
第五章  剣心一如  桜宮・東城大学  初夏
第六章  ミラージュ  東京・帝華大学  初夏
第七章  獅胆鷹目  桜宮・東城大学  夏
第八章  セキレイ   東京・帝華大学  夏
第九章  サブマリン  第三十七回医鷲旗大会 夏
第十章  マリンスノー
第十一章 寒月牙斬  桜宮・東城大学  晩秋
第十二章 エゴイスト  東京・帝華大学  冬
第十三章 竿頭一歩  桜宮・東城大学  春
第十四章 遠雷驟雨  桜宮・東城大学  夏
第十五章 ヒーロー   東京・帝華大学  夏
第十六章 栄光     第三十八回医鷲旗大会 夏
目次が、な、長い! 字面でも分かると思いますが、四文字熟語の堅い雰囲気が、硬派・速水。カタカナが帝華大学の軟派な清川視点のお話です。

まぁ、とにかく速水がかっこいいので、「ジェネラル・ルージュの凱旋」でかっこいい速水に惚れた私などには、まだ若い速水がたまらんです。まだ、泥沼の救命救急の世界で疲れ切ってはいないので、なんか目もキラキラしてそうだし…。

速水のライバル・清川吾郎は、「ジーン・ワルツ」にも登場します。しかし、もともとの軟派な性格がなせる業な気もするけど、清川には女難の相がある気がする…。

ここでも印象的なのは、これが医療費削減、医師数の削減へと舵を切られた時代であるということ。「チーム・バチスタの栄光」も、最初は「チーム・バチスタの崩壊」というタイトルだったそうだし、やはり海堂さんは、医療の崩壊を描いているんだなぁ。

「イノセント・ゲリラの祝祭」の帯には、「厚生労働省をブッつぶせ!」とあるんですが、政権交代が果たされた今、医療についてはどう舵が斬られるのでしょうか。無駄な官僚仕事にお金を取られることなく、Aiが導入されたり、色々進歩があるといいんだけど。そもそも警察や消防に誰も利益なんて言わないのに、医療だけが利益を求められるのでしょう。特に救急なんて、利益が上がるわけないよねえ。警察だって、科学捜査が進歩した今、捜査に掛かる費用は増えていると思うんだけど、I/O費とか、どっかで出してんでしょうか。

メモメモ。

「誤解するなよ、糸田教授はボトム20をバカにしてはいない。外科とか救急とか、修羅場で頭角を現すのは、たいていボトム20出身者なんだそうだ。糸田教授は、表層的な改革に走る厚生省路線を心配している。この調子では二十年後、救急や外科が崩壊することにならんか、とね」(p26から引用)

「私は毎日、手術室という命を削る闘いの場に身を置いている。メスという刃は竹刀より小さいが、その下で繰り広げられる世界は、一歩間違えば相手の命を奪う真剣勝負。剣道場で行われている勝負よりもはるかに厳しい。そこで毎日メスを振るっていれば、剣筋はおのずと磨かれる」
高階顧問は窓から外を見やって、ぽつりと言う。
「まだまだ、青二才には負けません」(p103より引用)

「だがその正しさも実践できなければ、ただのクズだ。悔しかったら一人前の医者になり、自分の信じる医療を俺に見せてみろ」
田口に向けられたその言葉は、速水の心に突き刺さる。(p129より引用)

「なぜ最後まで闘おうとしないんだ。ひとりで勝手に退場するな」
部員一同は、激した高階顧問を呆然と見守る。高階顧問が叱責している相手は、目の前の前園でも、ふがいない剣道部員でもなさそうだ、ということを全員が肌で感じ取っていた。(p218より引用)

「これからだって、ずっとずっとそうなんだ。それは誰にも止められない。だから胸を張って前だけを見続けていて下さい」(p308より引用)

速水の言葉に、清川はへらりと笑う。
「もちろん。勝ち逃げだけが人生だもの」(p317より引用)

あと、美味しいのは、田口、速水、島津のあのベッドサイド・ラーニング(病院実習)の様子が彼らの側から見られることや、雀荘すずめでの彦根を交えた四人の姿が見られることですかね。ああ、海堂ワールドにどっぷりはまっている~。

「ブラックペアン1988」/1988年の東城大

 2009-09-06-14:05
ブラックペアン1988ブラックペアン1988
(2007/09/21)
海堂 尊

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内容(「BOOK」データベースより)
外科研修医世良が飛び込んだのは君臨する“神の手”教授に新兵器導入の講師、技術偏重の医局員ら、策謀渦巻く大学病院…大出血の手術現場で世良が見た医師たちの凄絶で高貴な覚悟。

「バチスタ」以前。バブルの頂点を極めた、1988年の東城大が舞台となります。
目次
序章 昭和の残照
1章 糸結び 一九八八年(昭和六三年)五月
2章 『スナイプAZ1988』 一九八八年(昭和六三年)五月
3章 出血―神を騙る悪魔 一九八八年(昭和六三年)七月
4章 誤作動 一九八八年(昭和六三年)十月
5章 ブラックペアン 一九八八年(昭和六三年)十一月
今回の語りは、新人の外科研修医世良。世良の目を通して描かれるのは、戦場のような外科医の世界と、命を預かったものとしての覚悟。そして、現在に繋がる医療問題の萌芽。

「必要なら規則(ルール)は変えろ。規則に囚われて、命を失うことがあってはならない」

この言葉は、この頃からのあのお人の信念だったんですね。

そして、外科医は強くなければならない。

「君には君が外科医として経験したことを自分の中で消化し、君に続く後輩たちに、その事実を伝えていく義務がある」

患者に対するものの他に、更に多くの責任を負う彼ら。そうして、一度途切れてしまった経験を、伝承を構築し直すのはとても難しいこと。しばらく前に、外科医を志す医学生が減っているとのネットニュースを見ました。ほんとにその酬いはどこにあるのかしら、と思ってしまうのだけれど、その能力のある人には是非なって欲しいと思うし、医療に儲けを求めることのナンセンスさを感じてしまいます。目先の利益でもって、医療界を適当に振り回してはいけないんだろうなぁ。医療に儲けを求め、医者余りだと言って医学部の定員を減らす。そうしてその施策は、私たちのところに戻ってきたのだと思うのです。

1988年といえば、「バチスタ」メンバーの彼らも、まだ学生。田口、速水、島津の三名は、世良に指導される、総合外科学教室のベッドサイド・ラーニングのグループFの学生として出てきます。これによって、ある意味、田口の未来が決まっちゃったんですね。

手術室の清潔、器械出しの緊張感も印象的でした。患者からすると、同じ手術室に入っているお医者さん、と思ってしまうのだけれど、役割によって見える景色が全く違うというところもリアルでした(術野を作るために内臓を押さえているだけの助手だと、当然術野はよく見えない)。そういえば、「バチスタ」では田口講師が、手術ほど見ているものにとって退屈なものはない、って言ってたっけ。

ところで、佐伯教授が、「極北救命救急センターのヘッド、桃倉は私の弟子だ」って言ってるんですが、この桃倉の息子が「医学のたまご」の桃倉なんでしょうか? どっかで出てきた名前なんだよなー、と思っていたのです。

「医学のたまご」「夢見る黄金地球儀」では、ん?、と思ったんですが、東城大本筋のシリーズは、やっぱり面白かったです。

華麗なテクニックの佐伯教授型でいくか、ある程度の経験を積んだ外科医であれば誰でも出来るという器械を使用していくか。「スナイプ」を引っ提げた高階には、確固たるテクニックがありましたが、確かにリカバリ出来る技術もなく、器械に頼るのは危険。誰でも出来るという利点と、そうなってしまったときに、リカバリの技術をどこで学ぶのかというこの矛盾。にしても、外科医としてバリバリ働ける期間って、この過酷さを考えると短いものなんだろうなぁ。一人の神の手は素晴らしいけれど、それだけでは処理できる件数だって限られているし、伝承という問題もある。私には層を厚くするくらいしか対策が思いつかないけど、外科医志望者も減っているというこの現状。外科の未来は大丈夫なんでしょうか…。

「夢見る黄金地球儀」/桜宮市の未来その一

 2009-09-06-12:48
夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)
(2007/10)
海堂 尊

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出版社 / 著者からの内容紹介
首都圏の端っこに位置する桜宮市に突如舞い込んだ1億円。その名も「ふるさと創生基金」。だがその金は黄金をはめ込んだ地球儀に姿を変え、今では寂れた水族館にひっそり置かれているだけとなった――はずだった。が、ある日を境にトラブル招聘体質の男・平沼平介の日常を一変させる厄介の種へと変貌する。
8年ぶりに現れた悪友が言い放つ。「久しぶり。ところでお前、1億円欲しくない?」
かくして黄金地球儀奪取作戦が始動する。二転三転四転する計画、知らぬ間に迫りくる危機。平介は相次ぐ難局を乗り越え、黄金を手にすることが出来るのか。『チーム・バチスタの栄光』の俊英が放つ、驚愕のジェットコースター・ノベル!

これ、ちょうど「医学のたまご」と同時期と思ってもいいのかなー。主人公、平沼平介(っつか、ヘイヘイヘイ介?)は、「医学のたまご」のカオルくんの同級生、ヘラ沼のお父さんなんです。ヘラ沼もたいがいな性格でしたが、平介もまた…。

で、これまた、「ナイチンゲールの沈黙」の彼らのその後が出てきたり(にしても、小夜ちゃん、あの生活でいいのかい?)、碧翠院の跡地について言及があったり(でんでん虫の後に出来たってのは、たぶんAIセンターでそれもまた…、ってことなのかなぁ)、など「バチスタ」の世界ともしっかり繋がっています。

でも、読まなくても大勢に影響はないかと思います。主人公に文句ばっかり言ってますが、主人公・平沼平介にも、相棒のガラスのジョーにも(唯一良いキャラなのは、平介のオヤジくらい?)いまひとつピンと来ず。だって、「ジハード・ダイハード」って言われてもなぁ。「バチスタ」の東城大の主要メンバーはキャラも大好きなのに、キャラが愛せず残念でした。

「医学のたまご」/桜宮市の未来その二

 2009-09-06-12:32
医学のたまご (ミステリーYA!)医学のたまご (ミステリーYA!)
(2008/01/17)
海堂 尊

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内容(「BOOK」データベースより)
僕は曾根崎薫、14歳。歴史はオタクの域に達してるけど、英語は苦手。愛読書はコミック『ドンドコ』。ちょっと要領のいい、ごくフツーの中学生だ。そんな僕が、ひょんなことから「日本一の天才少年」となり、東城大学の医学部で医学の研究をすることに。でも、中学校にも通わなくっちゃいけないなんて、そりゃないよ…。医学生としての生活は、冷や汗と緊張の連続だ。なのに、しょっぱなからなにやらすごい発見をしてしまった(らしい)。教授は大興奮。研究室は大騒ぎ。しかし、それがすべての始まりだった…。ひょうひょうとした中学生医学生の奮闘ぶりを描く、コミカルで爽やかな医学ミステリー。

「チーム・バチスタ」の読者として重要なのが、まずはこの物語の時代設定。”沼田教授が10年近く、倫理問題をきちんとしようとして”とあることから、「ジェネラル・ルージュの凱旋」から、すくなくとも10年が経過していることが分かります。そんなわけで、これを単独で読めば、本筋には関係ないという意味で大したことがない部分でも、この世界を追ってきた読者としては、えええ!と思うところも多いんです。

お話としては、主人公カオルくんのあまりにも軽すぎる性格に、いまひとつ馴染めない部分も多かったんですが…。物語の幕の引き方も、「リスクマネジメント委員会」(彼は出世したようだし、10年間委員長の座にい続けているわけでもないんでしょうが)が間に入っててあれはないだろうとか、自ら罪を被った彼にしても、その方法は本当に正しかったのかなぁ、と思ってしまいます。上に立つあのお人は、そんな小手先じゃない解決をしてくれたと思うのだけどなぁ。ただ、上に行くということで、情報はいかなくなってしまうし、予算の関係でスタンドプレーに走る教授を作り易い状態になっているのかもしれません。研究の能力、臨床の能力、金を分捕ってくる能力、政治的能力、教育をする能力。全部違うものだものね。

そして、ここにも出てきた白鳥技官の学生時代の確研メンバー、文部科学省の事務官、小原。「イノセント・ゲリラ」で名前だけは出てきたんだけど、「イノセント・ゲリラ」の次にも出てきそうだし、その御姿を拝見したいところであります。

あ、あとこの本は、左開きの横書きです。カオルくんの実験レポートっぽい感じを出す意味があるんだと思うんですが、そこもちょっと読み難かったかも。
第1章 「世界は呪文と魔法陣からできている」とパパは言った。
第2章 「扉を開けた時には、勝負がついている」とパパは言った。
第3章 「初めての場所でまず捜すべきは身を隠す場所だ」とパパは言った。
第4章 「エラーは気づいた瞬間に直すのが、最速で最良だ」とパパは言った。
第5章 「ムダにはムダの意味がある」とパパは言った。
第6章 「閉じた世界は必ず腐っていく」とパパは言った。
第7章 「名前が立派なものほど中身は空っぽ」と藤田教授は言った。
第8章 「悪意と無能は区別がつかないし、つける必要もない」とパパは言った。
第9章 「一度できた流れは簡単には変わらない」とパパは言った。
第10章 「世の中で一番大変なのはゴールの見えない我慢だ」とパパは言った。
第11章 「心に飼っているサソリを解き放て」とパパは言った。
第12章 「道は自分の目の前に広がっている」と僕は言った。

「何も持たず存在するということ」/角田さんエッセイ集

 2009-08-11-09:52
何も持たず存在するということ何も持たず存在するということ
(2008/06)
角田 光代

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「人生ベストテン」(感想)「空中庭園」(感想)の虚無っぷりにビビりつつも、「対岸の彼女」(感想)がとても好きな角田さん。あ、「八日目の蝉」(感想)も良かったなー。

ぼちぼちエッセイにも手を出してるんですが、今度は「恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。」(感想)の解説で気になったこちらを。

角田さんの選ぶ言葉は、決して煌びやかなものではなくて、むしろ平凡な言葉なんだけど、すっごくグッとくるんだよねえ。「対岸の彼女」の直木賞受賞関連から二箇所引用します。

かなしいときに黒い服で駆けつけてくれた人々が、うれしいときに色とりどりの服で駆けつけてくれている。こないだいっしょに泣いてくれた人々が、今日はいっしょに笑ってくれている。なんかすごい。すごいことである。ありがたいという気持ちをはるかに超えてうれしかった。
 「黒と色彩―『対岸の彼女』直木賞受賞のことば」より引用

受賞のちょうど一ヵ月半前にお母さまを亡くされた角田さん。父もなく身内のほとんどもまた亡くなっていたので、喪主をつとめたのは角田さんだったのだとか。

わかることはただひとつ、喜びはかなしみを消去はしないし、かなしみが喜びをおびやかすことはない、ということだ。うれしくてかなしい、相反するそれらは混じり合わずにぽっかりと私の内にある。
 「たぶん、書くことでわかる―直木賞受賞のことば」より引用


はじめて恋愛を題材に小説を書いたという、「あしたはうんと遠くへいこう」、豊かさと便利さを享受するものの、生み出すこと、作り出すことを知らない、信じきることのできない夫婦を描いたという、「庭の桜、隣の犬」も読みたいな。ここの部分も身につまされるのです。同じように考える同世代、多いんじゃないかなぁ。

生み出す、作る、ということに対する圧倒的な疑惧が、私にはある。何かを生み出すことはできる。作り上げることはできる。けれど果たしてその中身は?真の意味は?と、もはや学生でもないのに、未だに立ち止まり、傲慢にも考えてしまう。
 「彼らの結婚の内訳」より引用


ところで、お酒を飲む人は、ご飯とおみそ汁とおかずを全部並べたりはせず、長々と食事をする。三十分もかからず食事を終えるのは、ひどく損した気分になる、という「父とアカエボシの食卓」におけるお話。私はお酒は飲むけど、普段の食事は全体量を分からずに食べるのは辛いので、まさに全部並べて三十分で御馳走さま!、になっちゃうんですが、だらだら食べてると食べ過ぎはしませんかね?

↓文庫より単行本の方がデザインが好きだなぁ。
あしたはうんと遠くへいこうあしたはうんと遠くへいこう
(2001/09)
角田 光代

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庭の桜、隣の犬庭の桜、隣の犬
(2004/09/29)
角田 光代

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「寒椿ゆれる」/猿若町捕物帳4

 2009-08-10-22:35
寒椿ゆれる寒椿ゆれる
(2008/11/21)
近藤史恵

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目次
猪鍋
清姫
寒椿
千蔭の父、千次郎の妻、お駒に子が出来、つわりがひどくて物が食べられなくなったり、巴之丞が猫のような大きな目をした娘に刺されたりと、色々あるのですが、三つの短篇を貫いているのは、奥右筆組頭、前田重友の息女おろくと千蔭とのお見合い話。

その家柄にも関わらず、二十八になるまで縁づいていないおろく。姿かたちはごく普通ながらも、算術の好きな女子というのは、やはり変わり者。見合いを断られ、断りして、ここまできてしまったというわけ。

「わたくしが今まで見合いをした数でございます。二十九回相手方から断られ、こちらからは十三回断りました。玉島様から断られたら、これで三十人目になります」

変わり者ではあるものの、良い目をした(これは文字通りの“良い目”であり、同心である千蔭が気付かなかった事にも、気づいていたりする)おろくと千蔭の見合い話は、格の差を越えて、とんとん拍子に進んでいくのだが…。

「寒椿」がいいんだなぁ。口の悪い、北町奉行所の同心、大石新三郎の純情。それを意図していたわけではなかった、「思いを堰き止めてしまうのは悲しいこと」というおろくの言葉。そしてそして、千蔭のおっとこまえー! 見た目も男前らしいんですが、千蔭は心も男前だったのでした。年季が明けるまで、あと二年だという青柳屋の梅が枝。遊女は武家の奥方にはなれぬ定めというけれども、起請文もあることですし、なんとかどうにかならないものなのかしらん。

一作目の「巴之丞鹿の子」に比べ、キャラが定まっているからか、事件自体がそう血なまぐさくもなく、短編で軽やかな感じが良かったです。でも、またしても、「にわか大根」「ほおずき地獄」という、二作目、三作目を飛ばして読んじゃいました…。ああ、間を埋めなくては~。
・玉島千蔭は、南町奉行所。小者は八十吉。
・大石新三郎は北町奉行所の同心。小者は喜八。
・西川は北町の与力。

「さらしなにっき」/リリカルSF

 2009-07-27-10:21
さらしなにっき (ハヤカワ文庫JA)さらしなにっき (ハヤカワ文庫JA)
(1994/08)
栗本 薫

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内容(「BOOK」データベースより)
「小さかった頃にはまだ町ん中に原っぱがあって…」先輩の原口さんが、呑み屋で知り合った男と思い出話に意気投合しているのを、ぼくはぼんやりと聞いていた。中年男二人の他愛ない話と思っていたのだが、その日から原口さんはおかしくなっていった―少年時代の記憶に潜む恐怖を描いた表現作他、130年ぶりに地球に戻った宇宙飛行士の過酷な運命を物語る「ウラシマの帰還」等、美しくも哀しい8篇を収録したSF作品集。

かの有名なグイン・サーガも読んだことがないんですが、ブログをやるようになったら、みなさん、グイン・サーガは当然押さえているべきもの、な感じで読んでらっしゃるのですよね。そんなわけで気になっていた栗本さんの短編集です。今後、自分がグイン・サーガを読むことはないだろうけど、ちょうど時期的にも栗本さんが気になっていたしね…。
目次
さらしなにっき
忘れないで
峠の茶屋
ウラシマの帰還
走馬灯
最後の夏
パソコン日記
隣の宇宙人
 著者解説
一つの特徴としては、各短編ごとに、「著者解説」がついていることかな。栗本さんご自身が、「栗本なかなか短編もお上手」なんて書いてらっしゃるんですが、確かに短編には壮大な長編にはない良さがありますよね。どことなく淋しい、切ない雰囲気や、奇抜なワンアイデアはやっぱり短編ならではのもの。栗本さんが、初期に書いたSFはほとんど影響を受けているという、小松左京さんの本も、私はこれまでほとんど読んだことがないので、そういう意味でも新鮮で面白かったのかな~。

抒情的なものも良いんだけど(ノスタルジーあふれる「さらしなにっき」とか)、ギャグっぽいお話(というか、タコ型宇宙人が隣に越してくる「隣の宇宙人」なんかまんまギャグだな)も面白かったです。同性愛の二人の女性の生活が描かれる「最後の夏」も、漂っている滅びの空気が美しい。

■関連過去記事■
・「メディア9」/十七歳は大人になるとき
SF

「魔法飛行」/魔法を信じるかい?

 2009-07-12-13:23
魔法飛行 (創元推理文庫)魔法飛行 (創元推理文庫)
(2000/02)
加納 朋子

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以前、「ささらさや」(感想)を読んで、面白いんだけど、続けて読むほどではないなぁ、とそれから何となく読んでなかった加納朋子さん。でも、これは純粋に面白かったよ! しかし、これは「ななつのこ」の続編なのでした…。ちょっと失敗しちゃったなぁ。

なんとなーくね、北村さんの「円紫さんとわたし」シリーズを思い出させるところもあるんだけど、こちらは少し凝ったつくり。主人公である短大生の入江駒子(イリゴマと呼ばれることも)は、“瀬尾さん”に向けて近況報告のような物語を書いています。それは、彼女の身近であった、ちょっと不思議な出来事を題材にしたもの。手紙を受け取った”瀬尾さん”は、返信でもって彼女の物語の中の謎に、一つの答えを見せますが…。ここに更に絡んでくるのが、”誰か”から届く手紙。そうして、この”誰か”についての謎は、連作の謎を貫いて、鮮やかに解かれるのです。

可愛らしいイリゴマちゃん(そして、図書館大好き!)、周囲の友人、安楽椅子探偵の”瀬尾さん”。この辺が、「円紫さんとわたし」シリーズを思い出させるのだと思いますが(解説の有栖川有栖さんも関連を指摘されてます)、こちらにはこちらの、また違った魅力がありました。しかし、いまどき電話も引いていないという”瀬尾さん”。不思議なお人ですねえ…。

「ななつのこ」は、「生まれて初めて書いた小説」で、デビュー作なんだとか。こちらのイリゴマにも会いたい!
目次
一 秋、りん・りん・りん
 誰かから届いた最初の手紙
二 クロス・ロード
 誰かから届いた二番目の手紙
三 魔法飛行
 誰かから届いた最後の手紙
四 ハロー、エンデバー
 ”論理(ロジック)じゃない、魔法(マジック)だ”  有栖川有栖
 あとがき
ななつのこ (創元推理文庫)ななつのこ (創元推理文庫)
(1999/08)
加納 朋子

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「恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。」/角田さん、エッセイ集

 2009-07-12-12:57
恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。 (角川文庫)恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。 (角川文庫)
(2009/02/25)
角田 光代

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もうねー、角田さんのことはお姉さんのように思えてしまいますよ。そして、いきなり解説の話をするのも反則か?、と思いつつも、この本の解説は書評家の藤田香織さん(右にリンクも貼ってますが、「だらしな」シリーズ(?)の藤田さんです)。私にとって二度美味しい本でした。

本当にゆるゆるした、気の置けない友だちとの酒飲み話(もしくは茶飲み話)のような話が続くのだけれど、「解説」で藤田さんによって明かされる角田さんのその頃の生活は、”ゆるゆる”なんてのとは、まったく対極にあったのです。あの「対岸の彼女」の直木賞受賞により、激動の日々に放り込まれ、プライベートでは、お母さまの病気、死に立ち会い…。そうした背景があってのこのゆるゆるとした語り。ますます、じーんとしてしまうのでした。藤田さんの解説が、完全ファン目線な気がしますが(笑)、でもステキです。「何も持たず存在するということ」も、是非読みたいです。こちらには、本書と同じ時期に新聞や雑誌に寄せた文章が多数収められているとのこと。

いい年なんだけど、私なんて会社を離れてしまえば、大人コドモみたいなもんで…。ちょうどそういう頃の角田さんが書かれた文章だから、余計ぐっときちゃうのかなぁ。「社交辞令は得意ですか?」の章が良かったー。”社交辞令というのは、気持ちを流しこめる「型」みたいなもの。「型があるから伝わることもあるのではないか。親しい人、好きだと思える人たちのあいだにこそ社交辞令は存在すべきだ。”(一部抜粋、意訳)。”なんにも言わなくても気持ちは通じるはずだと昔の私は信じていたけれど、そんなこと、絶対あり得ない。”

笑っちゃったのは、「おばさんに思うことありますか?」の章。どこか他の場所で出会ったら、大好きになったかもしれないおばさん。でも、確かにおばさんの美徳が美徳にならない場所ってあるよねえ(ここで例に出ているのは、忙しい買い物客としての角田さんと、彼女の近所のスーパーのレジ打ちのおばさん、お昼に入ったお店で出会ったおばさん)。む!と思っても、こう思えれば、うまくやり過ごせるかな?
何も持たず存在するということ何も持たず存在するということ
(2008/06)
角田 光代

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「昔のミセス」/金井美恵子さんエッセイ集

 2009-02-07-13:16
昔のミセス昔のミセス
(2008/08)
金井 美恵子

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二部構成でできていて、Ⅰ部は雑誌「ミセス」の昔の写真、記事を元に金井美恵子さんが語るというもの。Ⅱ部の方は他の作家の話、映画、飼っている猫の話など、さまざまな話題に関するエッセイ

深くは知らないし、小説を読んだこともないんだけど、金井美恵子さんといえば、「独特の美意識」という言葉が頭に浮かぶ。古風な感じの「ミセス」の記事と、金井さんの文章がぴったり合って、面白くはあったんだけど、これ、寝る前にぼちぼち読むには全く向かない本でした~。

なぜかというと、金井さん自身の文が、シンプルな構造になっていないというか、「というのは、~だからなのだけれど」とか妙に長い文章が続くせいで、読みながらぐるぐるループしちゃうのです。好きな雰囲気の世界ではあるんだけど、そんなわけで割と挫折して、全部は読めませんでした(図書館時間切れ)。作りも綺麗なんだけどね…。

語られる「考え」の部分に関しても、共感する部分は別にふんふんと読めるんだけど、違う意見を持つ場合などは、なんだろう、あまりに「こういうもんだ」という前提で書かれるもんだから、ちょっとストレスに感じました…。それが「独特の美意識」に通じるのかもしれませんが・・・。論理的というか、そういう考えのもとに、こういう考えになったのだという筋道があれば、そういう違った考えたかも楽しめるんだけどなーーー。

「倉橋由美子 夢幻の毒想」

 2009-02-07-12:59
倉橋由美子 (KAWADE道の手帖) (KAWADE道の手帖)倉橋由美子 (KAWADE道の手帖) (KAWADE道の手帖)
(2008/11/06)
不明

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倉橋由美子特集みたいなもんなんですが(単行未収録作品が掲載されていたり)、お目当てだったのは川上弘美さんと桜庭一樹さんの対談だったり、古谷美登里さんの対談だったりします。意外に楽しかったのが、倉橋さんのエッセイ・コレクションの中の「倉橋由美子の人生相談」だったかなー。

私は倉橋由美子さんの作品を、前期とか後期とか、一連の流れとして捉えたことがなかったので、そういう捉え方をしている川上さんと桜庭さんの対談には、いま一つ共感出来ないままでした。私はどうも、ここで言ってる、硬質でタガを作ってるような前期作品の方が好きで、お二人が良いといっている、タガをゆるめてきたような(表現ちょっと違うけど)後期作品はいま一つと思っていたしなぁ。

と、思っていたら、歌人、穂村弘さんによる「思春期の薬」の章にはなんか納得。これは決して、倉橋由美子作品を褒めている文章ではないと思うんだけど、倉橋作品は「時代を問わずに或る種の若い読者を強烈に惹きつける作品世界。」を持っていると…。そして、それは自意識が肥大した思春期の薬であったと…。

あとは、倉橋由美子と綿矢りさを比較して論じた、陣野俊史氏の「精神の王族とその系譜」が面白かったです。それぞれ、ある種の少女小説とも読める、デビュー作を終わらせ、次なる新しい進化を目指した作品がある、と(倉橋由美子は「パルタイ」でデビュー、「聖少女」がデビュー作を終わらせた作品、綿矢りさの場合、それは「夢を与える」。「夢を与える」を読んで、なんだかモヤモヤしていたものが、少し掴めたような?)。「小説家はデビューを終わらせなければならない」。完全には意味が分からなくても、どこか心に残る言葉でした。

「マタニティ・ドラゴン」/日常+ほんのちょっと不思議

 2009-01-27-21:10
マタニティドラゴンマタニティドラゴン
(2008/08)
川本 晶子

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「ことり心中」と表題作「マタニティ・ドラゴン」の二本立て。

女性の日常もの、ですねー。
「ことり心中」は弁当屋で働く女性の日常。弁当屋の常連と、いつしかそういう関係になるのだが…。その男性はあだ名を「クツシタ」という。けったいな名前だけれど、彼女の冷たい足先を、いつもそのまん丸のお腹で温めていてくれたのだ。「クツシタ」のお腹は、どれだけ冷たい足をあてようとも、いつも温かかった。

のほほんとして、年齢的にも、害のないように見える二人のお付き合いだけれども、実は「クツシタ」には奥さんがいた。

子供のいない夫婦でそれは裏切りじゃないのー、とか、そうはいっても不倫ってさー、とか色々あるわけですが、ドラマチックでも美しくもないこの二人の恋愛(わきの下のジャリジャリを、見つけられちゃったりもするし、舞台だって弁当屋だ)。なんというか、冷たい青空を仰ぎみたくなる、そんな読後感なのでした。
「マタニティ・ドラゴン」は、タウン誌の編集部に勤める女性の日常。主人公は、ふとしたことから、女彫師、「彫芋」さんのことを知る。タウン誌のネタとして取材に訪れるのだが・・・。

彫芋さんは、ひたすらに龍を描き散らす、龍にしか興味のない人だった。彫芋さんの手足、彼女の手が届く範囲には、彼女が練習で入れた龍が踊る。

こちらも女の友情がどうとか、声高に言うわけでもなんでもないんだけど、二人(プラス一人)の周りを、わきゃわきゃと楽しげに小さな龍達が踊っているかのような楽しい読後感。
このちょっと不思議で、微妙にずれ、人を食ったような感じには、川上弘美さんを思わせるところもあるような気がします。他のものも読んでみようかな。

「ことば汁」/欲望のかたち

 2008-12-06-23:45
ことば汁ことば汁
(2008/09)
小池 昌代

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目次
女房
つの
すずめ
花火
野うさぎ
りぼん
どちらかといえば地味な人物が、それまで思いもしなかった自分の欲望に形を与えられて、狂う様に少々気圧されるような短編集でした。好みでいえば、以前に読んだ「裁縫師」(感想)の方なんだけど、ところどころ繋がりのあるお話もあったりして、面白く読みました。

翻訳物よりは日本語で書かれたものの方が、やっぱりするする時間もかからず読めるんだけど、最近の読書傾向として、翻訳物には物語としてのダイナミズムを、日本のものには、同じ言語を共にするものだからこその心象風景の表現を求めているような気がします。

おもしろかったのは、「つの」、「すずめ」、「野うさぎ」。「つの」の主人公である女性は、「すずめ」の主人公の女性の姉なのです。

「つの」
 研究者としての道を諦め、詩人である「先生」に身を尽くして仕えてきたわたし。その間、先生の傍を通りすぎる女たちを幾人も見送ってきた。先生とわたしはある意味、共犯者の関係にあり、その女たちの誰にも嫉妬してこなかったというのが、わたしの一つの自慢であったのだが…。

「すずめ」
 カーテンの専門店を経営するわたし。わたし一人で切り盛りする、文字通り個人経営のお店だけれど、三十から始めた店も既に二十年近く。規則正しい毎日が続いていたのだが…。ある日、ある邸宅のカーテンを頼まれたことにより、決まった日常が零れ落ちていく。滝沢邸に集まる美しい人たち、滝沢氏が語る、残酷な昔話「すずめのお宿」、媚を含んだすずめたち。わたしのこれまでの日常は、完全に過去のものとなる…。

「野うさぎ」
 ある日突然、もう書くことが出来なくなってしまったことに気づいた、作家のわたし。近くの森を散歩していたわたしは、そこで老婆に出会う。老婆に教えられたわたしの生きる術とは…。森はわたしたちの隠れたふるさとであり、魂が寝にいくところ。そうして、魂は森の中で再生を果たす。

「古道具ほんなら堂~ちょっと不思議あり~」/あなたの街の古道具屋さん?

 2008-11-22-10:37
古道具 ほんなら堂古道具 ほんなら堂
(2008/05/24)
楠 章子

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もくじ
プロローグ
1話 まめだのせっけん
2話 ガラスビンのしずく
3話 にじ色のこな
4話 かけた茶わん
エピローグ
表紙ではおばあさんが浮きながらこちらをじっと見てはいますが、この人は普通の人間。ほんなら堂の店主、白髪のおかっぱ頭の橙花さんなのです。

すっごく不思議なわけではなく、「ちょっと」不思議。そうですねえ、異界のものたちも出てくるけど、重点は普通の人の生活におかれています。悲しいけれど、惚けてきてしまっているおばあさんを持つ小学生の女の子、優子、お母さん亡き後、お父さんに厳しく躾けられ、それが嫌になっている明美、知らない男の子に影を踏まれてしまった波乃、友だちがいじめられているのを止められなかったさやか…。

一見おっかない橙花さんが(きちんと名乗らないと怒られたりするけど)、彼女たちを助けてくれるのです。おお、今書いてて気づいたけど、これって見事に女の子ばっかり出てくるお話なんだなぁ。

好みでいえば、私はもっと不思議な方に舵を切ってくれる方が好きで、街の不思議でいえば、村山早紀さんの書かれるものの方が好きでした。もっと怪異メインなのかなぁと思っていたので、ちょっとあてが外れてしまいました。優しい物語ではあるのですけれど、ね。

というわけで、以下過去記事へのリンクです。
・「カフェ・かもめ亭 ささやかな魔法の物語」/こんなお店があったらいいな
・「 コンビニたそがれ堂―街かどの魔法の時間 」/探しものはなんですか?
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プロフィール

つな がる

Author:つな がる
つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
興味を持った記事があったり、あなたが読み終えた本について語っていたら、是非あなたの感想を教えて下さい。お待ちしています。

2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

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