スポンサーサイト

 -----------:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリ :スポンサー広告 トラックバック(-) コメント(-)

「お狂言師歌吉うきよ暦」

 2010-03-04-23:01
お狂言師歌吉うきよ暦 (講談社文庫)お狂言師歌吉うきよ暦 (講談社文庫)
(2008/12/12)
杉本 章子

商品詳細を見る

内容紹介
路考(ろこう)お粂(くめ)と謳(うた)われた水木歌仙の下で踊りの稽古に励むお吉。十三で「歌吉」の名をいただいて5年、ようやく大名家の奥向きで踊りを披露するお狂言師の一座に加えてもらえることになった矢先、嫉妬した相弟子に小鋸(このこ)で頬に一生消えない傷をつけられる。そんな折、公儀の隠密より姉弟子を探れという密命が……。

目次
鋸の小町
藤娘の夜
出合茶屋
その夜の客
お糸の祝言

仕掛け花火
消し幕
解説 縄田一男
若干流し読んじゃったんですが、”お狂言師”という踊りを披露する一座の世界が面白かったです。旅の一座と混合してたんですが、お吉はきちんとした所の娘(駕籠屋なので、もちろん武家の娘というわけにはいかないけれど)。町娘のお稽古事の延長に、お狂言師の世界があったんですね。

顔に一生消えない傷を付けられた彼女は、踊りで生きていくことを覚悟するのだけれど、隠密の日向とは何やら良い雰囲気なのだし、どうにかならないのかなぁ。続きもあるようなので、さっくり予約してしまいました。しかし、良く考えると、ただの町娘に隠密もどきの働きをさせるなんてひどいな。次作でもお吉は働かされているのかしら。時代はちょうど水野忠邦の天保の改革あたり。時代物を読んでいると、水野忠邦、いつもあんまり恨まれていて、ちょっとかわいそうになってしまいます。

杉本章子さんという方、全然知らなかったんですが、直木賞作家なんですねえ(89年に受賞)。さすがの手堅さでありました。
スポンサーサイト

「寒椿ゆれる」/猿若町捕物帳4

 2009-08-10-22:35
寒椿ゆれる寒椿ゆれる
(2008/11/21)
近藤史恵

商品詳細を見る

目次
猪鍋
清姫
寒椿
千蔭の父、千次郎の妻、お駒に子が出来、つわりがひどくて物が食べられなくなったり、巴之丞が猫のような大きな目をした娘に刺されたりと、色々あるのですが、三つの短篇を貫いているのは、奥右筆組頭、前田重友の息女おろくと千蔭とのお見合い話。

その家柄にも関わらず、二十八になるまで縁づいていないおろく。姿かたちはごく普通ながらも、算術の好きな女子というのは、やはり変わり者。見合いを断られ、断りして、ここまできてしまったというわけ。

「わたくしが今まで見合いをした数でございます。二十九回相手方から断られ、こちらからは十三回断りました。玉島様から断られたら、これで三十人目になります」

変わり者ではあるものの、良い目をした(これは文字通りの“良い目”であり、同心である千蔭が気付かなかった事にも、気づいていたりする)おろくと千蔭の見合い話は、格の差を越えて、とんとん拍子に進んでいくのだが…。

「寒椿」がいいんだなぁ。口の悪い、北町奉行所の同心、大石新三郎の純情。それを意図していたわけではなかった、「思いを堰き止めてしまうのは悲しいこと」というおろくの言葉。そしてそして、千蔭のおっとこまえー! 見た目も男前らしいんですが、千蔭は心も男前だったのでした。年季が明けるまで、あと二年だという青柳屋の梅が枝。遊女は武家の奥方にはなれぬ定めというけれども、起請文もあることですし、なんとかどうにかならないものなのかしらん。

一作目の「巴之丞鹿の子」に比べ、キャラが定まっているからか、事件自体がそう血なまぐさくもなく、短編で軽やかな感じが良かったです。でも、またしても、「にわか大根」「ほおずき地獄」という、二作目、三作目を飛ばして読んじゃいました…。ああ、間を埋めなくては~。
・玉島千蔭は、南町奉行所。小者は八十吉。
・大石新三郎は北町奉行所の同心。小者は喜八。
・西川は北町の与力。

「一の富」/並木拍子郎種取帳1

 2009-08-03-14:14
一の富―並木拍子郎種取帳 (時代小説文庫)一の富―並木拍子郎種取帳 (時代小説文庫)
(2004/06)
松井 今朝子

商品詳細を見る

内容(「BOOK」データベースより)
「ちと、面白いことがござりました」―人気狂言作者・並木五瓶の弟子・拍子郎は、“町のうわさ”を集め、師匠のうちに報告にくるのが日課だ。大店の不義密通事件、出合茶屋の幽霊騒動、金貸し老婆の首括り事件…拍子郎は、遭遇する事件の真相を、五瓶とその妻の小でん、料理茶屋のおあさ、拍子郎の兄で北町奉行所に勤めている惣一郎などを巻き込んで、次々と明らかにしていく―。江戸の四季と人の心の機微が織りなす、粋でいなせな捕物帳の傑作シリーズ第一弾。

松井さんの歌舞伎ミステリーを何冊か読んでいたので、その勢いでこちらも。しかし昨今は、近藤史恵さんの「巴之丞鹿の子」とか、所謂捕物帳とは若干違った歌舞伎ミステリーというジャンルが確立されてるみたいですねえ。
目次
阿吽
出会い茶屋
烏金
急用札の男
一の富
 解説  細谷正充
拍子郎だなんてちょっと変な名前ですが、これは師匠の狂言作者、並木五瓶に貰った名前。本名は筧兵四郎という、れっきとした武士の若者なのです。この拍子郎の兄、筧惣一郎が北町奉行所に勤めている関係で、捕物帳としても機能しちゃうわけ。これに化粧もせず、料理が大好きなバラガキ娘、料理茶屋のおあさが加わって…。おあさ坊の作る料理がまた旨そうで。捕物とは関係ないところでも、楽しみがあるのです。

最後の「一の富」では、拍子郎にはある迷いが生じます。この先、彼はどうなるんだろうなぁ。続巻も読もうと思いますー♪ 「一の富」はね、人との縁を語る、五瓶の言葉も良いのです。

「家、家にあらず」/自分の道を掴め

 2009-04-13-23:21
家、家にあらず家、家にあらず
(2005/04)
松井 今朝子

商品詳細を見る

「非道、行ずべからず」(感想)の美しき化け物(女形)、沢之丞の若き日が出てくるとのことで、借りて来た一冊です。

とはいえ、バリバリの芝居物である「非道、行ずべからず」とは異なり、こちら「家、家にあらず」が舞台とするのは、大名屋敷の奥。主人公瑞江は、北町奉行所の同心を父に持つ娘。母亡きあと、御殿女中として出世を遂げた「おば様」を頼って、砥部家に勤めることになったのだが・・・。

瑞江という名も奪われ、「うめ。切米五石。金五両」として、楽な部屋子ではなく、三之間勤めとなった瑞江。日々の勤めに追われ、良縁を用意される気配もない。おば、浦尾が瑞江を砥部家に招き入れたのはなぜなのか? 

そして、お屋敷に落ちる影。安全なはずの屋敷の奥で人が死ぬ。町奉行の同心である父は、本来、大名家のことに首を突っ込んではならないのだけれど…。町中でおきた人気役者と水茶屋の娘の心中事件もまた、砥部家の事件と関わっているようで…。父は娘を心配して内情を探るのです。ここに絡んでくるのが、若き日の沢之丞なんですね。あ、あと、薗部理市郎の父、薗部理右衛門も出てきます。

全ての種明かしがなされた後の(実はこの瑞江自身が、ある意味、信頼出来ない語り手だったりするんだけど)、瑞江の語りがいいのです。女は道を選ぶことが出来ないと思っていたけれど、屋敷の奥で様々な女の道を見て、更に自分で道を選ぶだけの力をいつしか得ていた瑞江。瑞江はどんな道を選んだのでしょう。「非道、行ずべからず」の笹岡平左衛門の妻は、同心の妻らしくないとか言われてましたが、瑞江関連でお嫁に来たのでしょうか。「非道、行ずべからず」で、瑞江の話って出てきましたっけ?? 出てこなかったように思うんだけどなぁ。

タイトル、「家、家にあらず」というのは、「女三界に家なし」というのもそうなんだけど、町奉行所に勤める同心にもかけてあるんですね。町方の同心は譜代の臣ではなく、その身一代限りのお抱えなんだそうです。大晦日の夜に、支配役の与力の家を訪問し、「此度もまた重年を申し付くる」といい渡されて、やっと翌年のお勤めが許される。みながみな、黙って受け継ぐことが出来る家を持っているわけではない。

そういえば、「非道、行ずべからず」では、芝居という継ぐべきものが出てきましたが、どうなんでしょうね、継ぐべきものを持っている方が幸せなのか、好きな道を選べる方が幸せなのか。どちらにもそれぞれの幸せがあるとは思うのですが・・・。「非道、行ずべからず」の歌舞伎の話も面白かったですが、「家、家にあらず」の大名屋敷の奥の世界も面白かったです。浦尾のように御年寄まで出世した場合、それまでの功績ゆえに女だてらに家を興すことも可能なのだとか。

↓文庫も。
家、家にあらず (集英社文庫)家、家にあらず (集英社文庫)
(2007/09/20)
松井 今朝子

商品詳細を見る

「非道、行ずべからず」/非道とは何か

 2009-04-02-23:10
非道、行ずべからず非道、行ずべからず
(2002/04)
松井 今朝子

商品詳細を見る

火事に遭った中村座の楽屋裏から出て来たのは、見知らぬ老人の死体だった。老人は火事で亡くなったわけではなく、首を絞められ、行李に入れられていた。

場合によっては中村座自体が取り潰しにあうことだってある。太夫元である十一代目・中村勘三郎は、北町奉行所同心・笹岡平左衛門と、同心見習の薗部理市郎の取り調べに応じるのだが・・・。

老人は、楽屋に出入りする、担ぎの小間物屋の忠七であった。楽屋に出入りする者を知らないはずのない、楽屋頭取の七郎兵衛はなぜ知らぬ存ぜぬを通したのか。この殺人は、三年前の火事で亡くなった、幼い姉妹に関係するのか。

更に殺人は続く。同心の命を受け、事件を探っていた座敷番の右平次が殺され、また、頭取の七郎兵衛は自害を装って殺される。おぼろげに見えてくるのは、中村座の立女形、三代目荻野沢之丞の襲名を巡る、荻野家の争い。名跡、沢之丞は、長男市之介のものとなるのか、また生意気な弟、宇源次のものとなるのか。

忠七、七郎兵衛、右平次に共通するものとは何か。連綿と続く芝居者の世界。一つの嶮しい道を行くならば、一筋にその道を歩む者を大事にすると同時に、芸の道を外れて非道を行うことを堅く忌む。「非道」を行ったものとは誰なのか。

勘三郎が語る芸の道もわかるけれど、三日月の旦那、笹岡の言葉もまた沁みるのです。

「狭い一本道を大切に思うあまり、人は往々にしてまちがいを犯す。狭い道にこだわって、人間(ひと)としての大きな道を踏みはずすんだ。俺にいわせりゃ、それこそが、非道を行ずってェもんだぜ」  (p343より引用)

さて、犯人なんですがー。わたくし、ほとんど最後になるまで分かりませんでした。後で考えると、とってもフェアに書いてあるんですけど。ミステリー部分もしっかりしてるんですが、そこはそれ、黙ってついていけば、きちんと犯人の元に辿りつくわけですし(しかも、松井さんの語りはとっても巧みだし)、むしろ芝居の世界や、芸の道の話なんかが面白かったです。

還暦を過ぎた女形、沢之丞のとんでもない迫力が、とっても印象的でした。二人の息子に舞の稽古をつけるところなんか、圧巻でしたわー。もう一人、忘れてはならないのが、こちらは「出たな、化け物」の、沢之丞の弟子、虎魚(おこぜ)の荻野沢蔵。女形としては、頂けない御面相のようですが、立役としてはいけるのでは、との師、沢之丞の見立て。右平次亡きあと、沢蔵が笹岡たちの手先となるんですが(右平次とは違って、すっごい嫌々なんだけど)、いつもつるんでいる、瀬川菊江、岩井乙女などの同じくいまいちな女形たちとの話なども楽しいんです。

ラストの笹岡のセリフでん?、と思って探してみたら、微妙にリンクした「家、家にあらず」という、沢之丞の若き日のお話があるんですね。沢蔵が華麗に立役に転身して、売れっ子となって事件を解く、なんて話も読みたいなー、と思いました。松井さん、書いてくれないもんでしょうか。私、沢蔵が気に入っちゃったんです。

↓文庫も
非道、行ずべからず (集英社文庫)非道、行ずべからず (集英社文庫)
(2005/04)
松井 今朝子

商品詳細を見る

「実さえ花さえ」/今生限りの命にあらば

 2009-03-18-23:27
実さえ花さえ実さえ花さえ
(2008/10/21)
朝井 まかて

商品詳細を見る

全然、知らない作家さんだったんだけど、これは良かったー! これが初めて書き上げた作品で、初応募での受賞(第三回小説現代長編新人賞奨励賞)、デビューとなったのだとか。他にも読みたい!、と思ったんだけど、そんなわけで出版されているのは、まだこの一作だけみたい。
舞台は向嶋の小体なお店、なずな屋。夫婦二人+αで切り盛りする小さなお店だけれど、種苗の質の良さ、花つきの良さには定評がある。それは、江戸城お出入りの植木商、霧島屋で育種の腕を磨いた花師の新次の力量によるもの。また、なずな屋では売った種苗の手入れについても抜かりがない。手習いの先生をしていた妻、おりんの手による、一つ一つの鉢につけた「お手入れ指南」も、いつしか評判となっていた。

ある日、なずな屋に持ち込まれたのは、日本橋駿河町の太物問屋、上総屋の隠居、六兵衛による桜草のまとまった注文。こうして、六兵衛の知己を得た新次とおりん夫婦。第一章で登場した六兵衛は、実力者だけあって、この後にも何かと新次とおりんの夫婦の前に現れるのです。

その他、彼らに絡んでくるのは、新次の昔馴染みの留吉とお袖一家。新次が若き日に共に修業した霧島屋の一人娘で、女だてらに才能ある花師である理世。六兵衛の孫で、上総屋の跡取り、辰之助。ひょんな事から、新次とおりんがあずかることになった、少年、しゅん吉。このキャラクターがみんな良くてねえ。シリーズ化だって出来そうなのに、途中から時の流れはぐんぐんと早くなってしまって、完全に終わってしまうのが勿体ないです。ま、デビュー作からシリーズ化などは考えないものなのかもしれませんが・・・。

 育種とは樹木や草花の栽培のことで、種から育てる実生はもちろん、挿し芽や挿し木、接ぎ木で数を増やしたり、性質を強くする品種改良や様々な種類を交配して新種の作出まで行なう。
 徳川の時代に本草学が盛んになったことから江戸の植木職人の育種技術は飛躍的に高まり、それを専業とする者が分かれて話を名乗るようになった。梅や椿、菖蒲などは、後世に残る品種のほとんどがこの時代に誕生し尽くしている。   (p7より引用)

「花師」というあまり知らない世界を、分かり易く面白く描き出してくれるところには、諸田玲子さんのお鳥見女房シリーズを思い出します。巻数を重ねているお鳥見女房シリーズとは異なり、こちらは一旦、綺麗に終わってはしまったんだけど、もう少し長くこの世界を楽しみたかったなぁ、と思いました。若干ね、妻おりんの方に感情移入して読むと、「えええ!」と思うところなんかもあったりして、後半は誰を頼りに読んだらいいのさ、と思ったりもするんですが・・・。でも、純粋に花師の世界が面白かったし、また、それぞれに矜持ある人々の生が良かったです。

【メモ】
・松平定信 (Wikipediaにリンク
・染井吉野 (Wikipediaにリンク:これを読むと作中のあの記述は、創作なのかなー。ま、確かにそうだとしたら、ちと出来過ぎですな)
目次
第一章 春の見つけかた
第二章 空の青で染めよ
第三章 実さえ花さえ、その葉さえ
第四章 いつか、野となれ山となれ
終章   語り草の、のち

「巣立ち」/お鳥見女房第五弾

 2009-03-04-22:59
巣立ち お鳥見女房巣立ち お鳥見女房
(2008/11)
諸田 玲子

商品詳細を見る

「狐狸の恋」(感想)に続く、おなじみお鳥見女房シリーズです。タイトルは、「巣立ち」。子供たちの珠世母さんからの巣立ち、そしてまたある人物の巣立ちが描かれます。
目次
第一話 ぎぎゅう
第二話 巣立ち
第三話 佳き日
第四話 お犬騒ぎ
第五話 蛹のままで
第六話 安産祈願
第七話 剛の者

他人を思いやる心さえあれば、まぎれもない、矢島家の一員である。

えくぼの珠世母さんワールドは健在です。珠世さんに任せておけば、なんだって収まるところにきちんと収まるのだもの。

珍しくも据わりの悪いのは、「蛹のままで」かなぁ。天下一品の厚かましさを持つ源太夫に、いつものように頼みごとをされた矢島家の面々。源太夫の昔の恩人の息子を泊めてくれと言うのだが…。藩命を受け、遠く長崎に学業の旅に出る前に、気がかりだった人捜しをしたいという、小田原藩医の息子、賢次郎。生みの親探しを手伝う内に、珠世さんも何だか絆され、二人で遠出をすることにも、珍しくも迷いが出るのだが…。本当に母親代わりに見おくって欲しかったのか、それとも…というのは微妙な所だけれど、二人ともきちんと大人だったのが良かったのですね。殻を破って飛び出さなかった、蛹のままの心…。据わりが悪いとは言ったけど、結局は母は強しということで、源太夫の妻、多津の話にも繋がるところはお見事でした。

「吉原手引草」/手練の時代小説

 2008-04-03-23:05
吉原手引草吉原手引草
(2007/03)
松井 今朝子

商品詳細を見る

第137回直木賞受賞作です。ええと、図書館というところは、直木賞をとった作品なんかだと、やたらと冊数を仕入れているのですよね。で、とった直後は予約がいっぱいでなかなか借りられないのだけれど、ほとぼりが冷めるとこれが存外すっと借りられるようになっている。というわけで、ちょうど良い頃合いとなった本書を借りてまいりました。
目次
引手茶屋 桔梗屋内儀 お延の弁
舞鶴屋見世番 虎吉の弁
舞鶴屋番頭 源六の弁
舞鶴屋抱え番頭新造 袖菊の弁
伊丹屋 繁斎の弁
信濃屋茂兵衛の弁
舞鶴屋遣手 お辰の弁
仙禽楼 舞鶴屋庄右衛門の弁
舞鶴屋床廻し 定七の弁
幇間 桜川阿善の弁
女芸者 大黒屋鶴次の弁
柳橋船宿 鶴清抱え船頭 富五郎の弁
指切り屋 お種の弁
女衒 地蔵の伝蔵の弁
小千谷縮問屋 西之屋甚四郎の弁
蔵前札差 田之倉屋平十郎の弁
詭弁 弄弁 嘘も方便
どうやら、見目の良い若い男らしい、ある人物のインタビューにより浮かび上がってくるその姿とは…。うわー、これは実にうまい、手練の小説ですねえ。

吉原の妓楼、舞鶴屋の呼出しの花魁、葛城なる人物が、忽然と姿を消したようなのだが…。花魁の周囲の人々の弁により、徐々に浮かび上がってくる、葛城その人の人となりも魅力的だし、ラストの「詭弁 弄弁 嘘も方便」で一気に明かされる花魁の事情は、ミステリーとして読んでも、十分に面白い(途中で底が割れちゃう、という向きもあるかもしれないけれど。まぁ、ここは語りを楽しもうということで)。

吉原に生きる様々な役を持った人物それぞれから聞き取りを行うことで、吉原の事情について特に詳しくなくとも、するりと読めてしまうという親切さ。私は安野モヨコさんの「さくらん」や杉浦日向子さんの本を思い出しながら読みました。

いやー、松井さんのこの本って、今度こそ北村さんが直木賞だろ!!、と思ってた時の、直木賞受賞作だったので、何となく悔しいような心持ちがしていて、実は微妙な感情を持っていたのだけれど、ちゃんと面白い本でした。凛と立つ一人の女と、町人の意地とでもいいましょうか、覚悟が潔い、すっきりとした一冊でした。時代物で安心して読むことの出来る作家さんに、また一人出会えたような気がします。
□著者松井今朝子さんのHPにリンク
□次に読みたいのはこの辺。ずっと前から、店頭でこの表紙が気になっていたのよ。
一の富―並木拍子郎種取帳 (時代小説文庫)一の富―並木拍子郎種取帳 (時代小説文庫)
(2004/06)
松井 今朝子

商品詳細を見る

読みながら、脳内でこの絵に変換されてしまいました。これ、話もそうだったけれど、絵もなかなか強烈だよね。
さくらんさくらん
(2003/11)
安野 モヨコ

商品詳細を見る

「生きている江戸ことば」/せめて浮世をおかしみましょう

 2007-10-25-21:03

林 えり子

生きている江戸ことば (集英社新書)


目次
はじめに
江戸川柳と江戸ことば
あ~わ
おわりに


私、それすら知らなかったんですが、「川柳」とはある人物の雅号だったのですね。
本名、柄井八右衛門正通。享保三年(1718)年生まれ、寛政二年(1970)年に他界。

門前町の管理人、「門前名主」の家に生まれた柄井八右衛門正通だけれど、父がなかなか家督を譲らなかったために、齢三十八にしてようやく「門前名主」になれたのだとか。著者林えりこさんは、このあたりに、「川柳」誕生の由縁をみる。

戦争のない平和な時代だったからこそ、当時の江戸には文芸や学術、美術など、様々な文化が花開いた。それらのサロンでは、武家、町人、職人など、あらゆる階層の人たちが、楽しみを分かち合ったのだとか。このサロンにおいては、身分制度などは払拭され、それぞれ思い思いのサロンに参加出来たらしいのです。

そんな中、俳諧は投句料を必要とするくらいの、比較的、お金のかからないサロンであり、そこが脛かじり状態であった川柳にはちょうど良かったのではないか、とみる。俳諧から始まった川柳の句は、「前句附句」(略して「前句附」)→「一句立」ときて、川柳となる。低俗な傾向に走りがちな「前句附」に、俳諧的な格調をつけ、町人層だけでなく、武家たちをも誘い込んだのが、新しいところ。人情の機微、物事の深層を穿ち、人間の愚かさをわらうおかしみが、「川柳点」のねらい。

さて、どうして、「はじめに」で川柳について長々と語られるかと言えば、この「江戸川柳」自体がその時代の「江戸ことば」を駆使して作られたものであるから。日常を楽しみ、浮世をおかしんだ江戸っ子の江戸ことば、江戸川柳を紐解いてみましょう、という本です。

あ~わまで、五十音順に沿った江戸ことばと、そのことばが入った川柳の解説が載せられています。

<猫なで・鼠舞い>では、

 猫なでの姑に嫁鼠舞い

という句が紹介され、「鼠舞い」という言葉は、恐れてためらうさま、こそこそと逃げる事にも使われるそう。猫と鼠は江戸市井に欠かせない存在だったため、川柳にもよく登場したのだとか。

 
夜伽とはねっこりとしたうそをつき
 
 ふてる嫁ねっこり持て来たのなり


の二句で使われる<ねっこり>も面白い。現在では使われなくなった言葉だけれど、これ、たんまり、という意味だそう。

あと、知らなかったのが、<のろま>が野呂松人形の略だったということ。これは江戸の泉太夫座で、野呂松勘兵衛が使い始めた操り人形で、扁平な頭に青黒く塗りたくられた顔面を持つ道化人形なんだとか。このため、「野呂松」が愚かものの異称になったんだって。

解説があっても、ちょっとわからないところもあったけれど、概ね楽しく読みました。特に数が多かったのが、吉原がらみの句で、随分とまた江戸の生活に溶け込んでいたんだなぁ、とちょっとびっくり。もともと、江戸の人口は男性の方が多かったのだろうけれど、更に川柳を作るのは男性が多かったのかなぁ。

「烏金」/お江戸庶民の暮らし

 2007-10-05-23:11
烏金烏金
(2007/07)
西條 奈加

商品詳細を見る

烏金とは、明烏のカァで借り、夕方のカァで返す事からこう呼ばれる、日銭貸しのこと。高利ではあるのだけれど、証文要らずの手軽さもあって、借りに来る貧乏人には事欠かない。

さて、金貸しのお吟を見張る、「おれ」の語りから始まるこの物語が描くのは、お江戸に暮らす庶民の暮らし。

変形お江戸シリーズとも言うべき「金春屋ゴメスシリーズ 」の西條奈加さんが、普通の時代小説を書いてくれましたよー、ぱちぱち、な本です。

「おれ」こと浅吉は、ある事情があって、近所でも強突く婆として評判のお吟の元へと転がり込む。数字に明るく、骨身を惜しまぬ働きぶりで、浅吉は金を取り立てるだけでなく、借主の借金を整理してやったり、彼らの自立の道を探ってもやる。それは既に投資でもある。

こうして日々を過ごすうち、浅吉はお吟の心にも深く入り込むようになるのだが…。

彼の算術の師匠や、タイトルのダブルミーニングでもあり、彼の相棒でもある烏の勘左、吉原に入ったお妙を彩りに、徐々に語られるのは「浅吉」側の事情。オープニングは不穏な感じなのだけれど、そこは西條奈加さん、実際は結構明るい仕上がり。

この浅吉が提案する、それぞれの商売が面白くてですねえ。今で言うベンチャーというか、ニッチ産業というか、実際この時代にあったら、なかなかに繁盛するのではないのかしら。札差に関しては、山本一力さんの「損料屋喜八郎始末控え 」を思い出すけど、あちらはタイトルに同じような貧乏人相手の商売である「損料屋」が入っているとはいえ、喜八郎は実際にはただの損料屋ではないわけで。こちら、烏金」の方が、庶民の暮らしにより近いかな~。

さらっと読めて、ほんのり温かい物語でした。こういう手軽に読める本も好き♪

「お神酒徳利」/「深川駕籠」続編、でもちょっとトーンダウン?

 2007-09-25-23:12
山本 一力
お神酒徳利―深川駕篭 (深川駕篭)

深川駕籠 」の元臥煙の新太郎、元力士の尚平の駕篭舁きコンビが、再びお目見え。相も変わらず、尚平とおゆきの仲は新太郎に遠慮してか遅々として進展せず、新太郎も新太郎できれいさっぱり女っ気もなく。そんなわけで、今日も木兵衛長屋では、甲斐甲斐しく新太郎と自分の分の朝飯の支度をする尚平の姿が見られるのでありました…。

目次
紅蓮退治
紺がすり
お神酒徳利


紅蓮退治」は、江戸の住人が最も恐れた火事の話。半鐘を打つのは、各町に構えられた火の見櫓の役目。けれど、屋敷内に櫓を構えた大名は町場の火の見櫓に先駆けて、自家の半鐘を鳴らすこともある。そして、滑った時、つまり煙を見間違えて半鐘を打った時は、すぐさま一点鐘(いってんしょう)を打って鎮火を知らせるのが定め。ところが、「でえみょう屋敷の連中は、滑りのケツを拭かねえ」のだ。しかも、今度の半鐘は「滑り」どころか、遊び半分の「カラ半鐘」のようで…。尚平とおゆきのために、深川不動尊に怒り断ちの願掛けをしていた短気な新太郎なのだけれど、そこは勿論…、という話。

新太郎の実家の両替商の話も出てくるし(蔵の目塗りの話などは興味深い)、番太郎(=木戸番)の話なんかも面白いのだけれど、出てくるエピソードが、きちんと全部生かされている感じがしないんだよねえ。カラ打ちを繰り返していた武家は、なぜそんなことをしていたのかしらん、という疑問が残る。

紺がすり」は、タイトルは因業親父、木兵衛の別の顔を助けるさくらの着物から来ているように思うけれど、実際はタイトルには関係のないお話。新太郎と尚平が煮売り屋で聞き込んだ話と、彼らが助けた母子の話から導かれたのは…。それは、江戸でも屈指の『檜屋』(材木商の中でも、檜の元の値が高いだけに、檜を扱う業者は『檜屋』と別称された)である丸木屋への脅し。

このお話では、江戸の夜の暗さが印象深い。江戸の町人が多く暮らすのが、棟割長屋。明かりといえば、よくて行灯、並の暮らしで魚油を燃やす瓦灯(がとう)。上物の行灯でも部屋をぼんやり照らすくらいで、瓦灯にいたっては、手元の明かりでしかなかったのだとか。こういうの、杉浦日向子さんの次くらいに、分かり易く表現してくれるのが、山本一力さんだなぁ、と思います。

お神酒徳利」では、なんと尚平の想い人、おゆきが攫われる。それは、おゆきのお軽の技を狙ったもの(お軽とは、花札賭博のとき、相手に配る札を一瞬のうちに見定める技)。尚平と新太郎は、今戸の貸元、芳三郎の手を借りて、おゆきを助け出す。

尚平とおゆきの仲が、これで少しは進展するのかな、とも思うのだけれど、これがちょっと尻切れトンボ。おゆきを攫った弥之助は、芳三郎の名を聞いて早々に逃げ出してしまうし、弥之助を雇っていた薬種問屋の息子の徳次郎もまた、てんで腰が据わってないし(そして、助太刀のお武家のことも、あれじゃ丸わかりだしさ)。

深川黄表紙掛取り帖 」と、その続編、「牡丹酒 」でもちょっと思ったのだけれど、山本一力さんは、シリーズの一作目では、色々なエピソードをきっちり落とし込んでくるんだけれど、二作目ともなると、どうもエピソードを端折って、葵の御紋のように豪商とか、一目置かれる貸元などを使ってくるような気がします。ちょっと惜しい! 細部をきっちり語ることのできる作家さんなだけに、紋切り型は嫌だよう。

損料屋喜八郎始末控え 」の続編、「赤絵の桜」は大丈夫なのかなぁ。でも、「赤絵の桜」を読む前には、深川の老舗料亭「江戸屋」を舞台とした、「梅咲きぬ」をぜひ読みたいところ。山本一力作品は、同じ年代の江戸の話を多く書いておられるせいか、あちこちで登場人物がリンクしているんだよなぁ(また、色々見逃してそう~)。

■お神酒徳利とは?■
「菊正宗」のページにリンク

「慶応わっふる日記」/幕末の典医の娘に生まれて

 2007-09-20-21:54

村田 喜代子

慶応わっふる日記
潮出版社


それは、大政奉還がなされる少し前、典医であった父、桂川甫周の鉄砲洲の屋敷に住まう甫周の娘、「ひいさま」、みね子の暮らす日々。

元治元年の夏から始まるこの物語は、慶応三年の大政奉還を少し過ぎたあたりで、その幕を下ろす。ほとんどを屋敷の中で過ごし、外出は駕籠に乗って。そんな「ひいさま」な暮らしにも、時代の流れは影を落とす。

祖父母が暮らし、かつては公方様が鷹狩りをなされたという御浜御殿も、物語の後半では静けさを失い、陸軍歩兵の騒々しい駐屯所に変わる。また、寛大な父の元、山程いた書生たちも、必要とされて、みな、国元に帰って行く…。

特に起伏という起伏はないのだけれど、これは良かったです。きゃらきゃらしたところも、浮ついたところもないのだけれど、これもまた、間違いなく「少女の」物語。

先ほど、起伏はない、と書いたけれど、物語が始まって早々、桂川家はみね子のおじ、藤沢志摩守の不興の余波を受け、約一年にわたる「閉門」を経験する。築地から鉄砲洲に転居し、新しい本屋や父の友人が暮らす西洋館など、屋敷の様々を建てている最中であった桂川家の全ての普請は滞ってしまう。「閉門」においては、すべての窓が板で塞がれ、原則的に人の出入りも許されない。そんな中でも、少女、みね子の目は曇ることはない…。

典医である桂川の娘として生まれた覚悟、武家のあれこれ、使用人たちのこと、舶来物のはなし(わっふる、ミシン)、「究理学」を学ぶ父の友人の硝石づくりのこと、父の技、蘭法医学のこと…。語られる日々の様々は、決して派手ではないのだけれど、しみじみと興味深く、味わい深い。

こういうのを読むと、情報量だけが、知識の量だけが、物事を決める全てではないと思うのだよね。習い事に熱心でない父を持ち、早くに母を亡くしたみね子は、自分には取り柄がないというのだけれど、この聡明さはすでに一つの武器でもある。

冒頭、築地から鉄砲洲に移ってきたみねは、毎朝波の音で目が覚めるようになったと語るのだけれど、この波は波といっても海の波ではなく、大川の岸辺に打ち返す波音。どぼん、どぼんと、ゆっくりと打つ波音を聞きながら、みねは海のことを考える。この冒頭からすっかり引き込まれて、ほのぼのと味わって読みました。桂川家の女中は、つるじ、かめじ、まつじ。どんな名前の娘が来ても、それは何代目かの「○○じ」(つるorかめorまつ)になるのだよね。そういうところも、旧家だよねえ。

これ、私が借りてきた図書館の本では、カバーが剥がされちゃっていたので、どんな表紙なのか知りたかったのだけれど、表紙絵は出ないようです。残念~。
図書館の本では、薄いベージュの地に、この時代の地図がそのまま描かれている。この時代の屋敷の大きいこと!(そして、松平なんとかさんが、たくさん~)

■桂川甫周(wikipediaにリンク )■
四代目と七代目、二名いる甫周のうち、七代目甫周の次女である今泉みねの日記が、この小説の元となっている。


村田喜代子さんは、以前「雲南の妻」を読んだとき、いまひとつピンとこず、そのままだったのだけれど、もう少しいろいろ読んでみたいな~、と思ったのでした。

「退屈姫君 恋に燃える」/みたびの、すてきすてき!

 2007-09-18-22:06

米村 圭伍

退屈姫君 恋に燃える (新潮文庫)


えーと、前作にあたる「退屈姫君 海を渡る」は、覚書をしたためる前に図書館に返してしまったのだけれど、そこは米村さん、心配はいりませぬ。ちゃーんとちゃんと、「これまでの流れをざっとご説明」してくださいます。

そんなこんなで、おさらいを終えて。さて、こたび、またしても退屈で死にそうになっていためだか姫を助けてくれたのは、風見藩の藩士にして、将棋家元である伊藤家の門人、榊原拓磨の身分違いの恋。榊原拓磨は、藩命を掛けた将軍家との賭将棋を控え、この江戸で将棋に打ち込む日々を送っていたのだけれど、何の因果か横隅藩の末姫、萌姫に出会ってしまった!

めだか姫は、この若い二人に手を貸すのだけれど、たかが色恋沙汰というなかれ、そこはあのめだか姫の目を輝かせただけのことはあり、やはりこの恋はまたしても天下の一大事へと発展する。さて、若い二人への横やりを首尾よく抑えて、めだか姫は二人を幸せに出来るでしょうか? お馴染みの面子を巻き込んで、めだか姫の策略はこたびも冴える!

このシリーズを読んだ時に、この姫君は誰かに似ている、と思っていたのだけれど、今回は特に『姫若天眼通』(各大名家の姫君若君の出来栄えを記した細見。ちなみに、めだか姫の番付は極々大凶の褌担ぎもしくは天眼鏡(むしめがね))なるものが出てきたり(これは流石に眉唾だけど。笑)、和歌を贈り合ったり、実家の陸奥磐内藩の姉姫の名を騙ったりするところ、時は平安の琉璃姫(@「なんて素敵にジャパネスク)を思い出すのでした。

あと、お仙の兄、幇間の一八といえば、「本多髷」の一八と「本多髷」が良く枕につくのだけれど、杉浦日向子さんの「一日江戸人 」のおかげで「本多髷」が分かりましたー。つーんと細い本多髷、ずいぶん傾いた髪型だったのですねえ。

そしてそして、米村さんといえば、男を押し倒すたくましき女性たち(笑)。めだか姫お付きの諏訪にはまぁ慣れたけれど、めだか姫の姉姫たち、猪鹿蝶三姉妹(シスターズ)は、しかししかし、怖すぎですよ。

■過去関連記事■
風流冷飯伝 」/風見藩が冷飯ども ←本シリーズ
退屈姫君伝 」/めだかの姫さま、活躍す ←本シリーズ

錦絵双花伝 」/虚と実とそして・・・ ←繋がってるけど異色
影法師夢幻 」/それは大いなるゆめまぼろし? ←微かに繋がってます

目次
 みたびはじまる
第一回 諫鼓鶏(かんこどり)告ぐは天下の一大事
第二回 秋空に舞いし扇は恋の花
第三回 煩うて恋する姫は雪兎
第四回 歌会は珍歌下歌(ばれうた)乱れ飛び
第五回 姫ならで妖魔に夜這う菊月夜
第六回 忠臣の血潮が守る命駒
第七回 道行の闇に揺れるは白き足袋
第八回 信長は二色の石を握り込み
第九回 大汗の家元負かす泣き黒子
 これにて幕間

「一日江戸人」/お江戸の町で、暮らしてみれば

 2007-09-12-22:37

杉浦 日向子

一日江戸人 (新潮文庫)

周期的に読みたくなるのが、杉浦日向子さんの江戸の本。また、そういう時って、図書館でぱっと目に入ってきたりもするのです。

杉浦さんが愛おしんで語り、時に図説する、江戸の生活の数々。今回もたっぷり楽しみました。

「宵越しの金は持たない」ではないけれど、江戸の町人はどうもかなり適当な感じでも生きていけたよう。お金が無くなったら働き(それも適当な大道芸だったり、近所の手伝いだったり)、お金が入ればのんびり。太平の世だから、こういうことも出来たのかなぁ。備えなくともこれだけ気楽に過ごせる楽天性は、現代人には失われたものだよね。その証拠に、江戸で名のある商人や職人は、ほとんどが地方出身者だったのだとか。

江戸の色男、美人の解説も面白い。
江戸人が選ぶ「男の中の男」、すなわち「江戸の三男」とは火消の頭、力士、与力の三職のことをいう。職業柄、男気があってかっこいいこれらの男たちとは別に、一般の町人の内では、ムキムキの肉体美ではなく、色白のやさ男が希少価値として持て囃されたのだとか。なんてったって、江戸の暮らしはほとんど人力。普通に暮らしていても、それなりに筋肉はついてしまうし、褌一つで働いている人も多いので、肉体美にはさほど関心がなかったみたい。

江戸の美人は、鈴木晴信が描く笠森お仙のような七頭身のあどけない様から、二十年後にはきりりとした濃い眉の十頭身美女、更にその三十年後にはちょっと凄みのある六頭身美女と、そんな風に移り変わったそう。「美人」は時代で変わるものとはいえ、時代が新しい方が、むしろプロポーションが悪いのが面白い。しかし、七頭身はともかく、十頭身なんて、現代でもほとんどいないよねえ。 

町人の気楽さに対して、将軍の生活の窮屈なこと! 年中無休の将軍職は、かなり厳しいスケジュールに縛られていて、この規範的な将軍の日課を実践したと伝えられる十四代家茂は、即位の八年後、二十一歳で病没しているのだとか(原因は心身の過労だといわれている)。他の将軍はどうも適当にさぼっていたようだけれど、それにしても大変なスケジュール。お江戸に生きるのであれば、武家、将軍ではなく、町人として生きるのが幸せなようです…。

目次
第一章 入門編
 大道芸
 生涯アルバイター
 義賊列伝
 江戸の奇人変人
 How to ナンパ
 江戸の色男
 美女列伝
 ザ・大奥
 将軍の一日
第二章 初級編
 長屋の生活
 浮世風呂
 夏の過ごし方
 ホビー
 お江戸動物物語
 師走風景
 結婚
 正月縁起づくし
 決定版マジナイ集
第三章 中級編
 江戸見物(硬派編)
 江戸見物(軟派編)
 酒の話
 食 PART?
 食 PART?
 食 PART?
 江戸の屋台
 相撲 PART?
 相撲 PART?
 ギョーカイ通信
 おバケづくし
第四章 上級編
 How to 旅 PART?
 How to 旅 PART?
 春画考 PART?
 春画考 PART?
 意匠(デザイン)
 傾く
 未来世紀EDO
 シャレ
 これが江戸ッ子だ!


■関連過去記事■
江戸アルキ帖 」/江戸の町を歩いてみれば
呑々草子 」/旅行かば・・・
大江戸美味草(むまそう)紙 」/花のお江戸のうまいもの!
ごくらくちんみ 」/酒飲み必読??

「前巷説百物語」/又市、如何にして僧形の御行となりにしか

 2007-05-27-21:31
前巷説百物語 (怪BOOKS)前巷説百物語 (怪BOOKS)
(2007/04)
京極 夏彦

商品詳細を見る
下手を打った仲間を庇ったせいで上方にいられなくなり、江戸へと落ち延びたまだ若き日の又市。この頃の又市の生業は双六売りであり、あのお馴染みの御行姿ではない。

これは、又市、如何にして僧形の御行となりにしか、の物語。

目次
寝肥(ねぶとり)
周防大蟆(すおうのおおがま)
二口女(ふたくちおんな)
かみなり
山地乳(やまちち)
旧鼠(きゅうそ)


まだ若く、少々青臭くもある又市が、縁を得て助けることになったのは、損料商いゑんま屋の仕事。蒲団から何から生活に必要な細々とした小物を貸し出し、その損料を取る、表向きはごく普通の損料屋としての顔を持つゑんま屋には、もう一つの顔があった。

それは依頼人が受けた損を、見合った銭で買い取るというもの。人を貸し、知恵を貸し、依頼人の損を丸ごと肩代わりして、穴埋めしてやる。ゑんま屋主人のお甲が言うには、ゑんま屋の商売は堅気相手の商売、裏の渡世のもの達とは、切れた商いだというのだが・・・。

そう、この時点では又市は半端者の無宿人ではあれど、まだまだ堅気。ゑんま屋主人のお甲や仲間たちには、時にその青臭さをからかわれたりもするけれど、お甲は又市のその青臭さに一つの救いを見る。口は達者だけれど、腕っ節は滅法弱く、暴力沙汰を嫌い、人死にが出るのを何より嫌がる。騙り、賺し、何でも御座れ、この頃から小股潜りを名乗る又市、そんなに言うなら、己が上手く纏めてみせよ、というわけ。

堅気相手の損料仕事だとは言うけれど、やはりどこか危うくもあるこのゑんま屋の裏の稼業。それとは気付かず、裏の渡世のものどもの邪魔をしてしまった事から、又市ら、ゑんま屋所縁の者たちにも、一気に危険が迫ることになる。一つの損を見合った大きさで埋める、ところが、彼らはやり過ぎてしまったのだ。損を上回る損は、また次の損を呼び・・・。それは形をつけずには、終わることがない。そうして、又市は僧形の御行となる。「御行奉為―」。

又市の姿、又市の鳴らす鈴にはちゃんと意味があったんだねえ。誰よりも人死にが出ることを嫌っていた又市だというのに、又市はあまりにも多くの死を見なくてはならなかった・・・。辛いなぁ。「巷説百物語」シリーズは、やはり哀しい物語。

巷説百物語シリーズ解説書なるものが付けられていて、年表や地図、巷説相関図があるのは、嬉しいのだけれど、ああ、まだ情報量が足りない!、と思ってしまうのです。普通の本だったら十分だと思うけど、何せ京極さんの本だからねえ。

お馴染みの名前から、この物語のみに出てくる名前まで。後の物語である、その他の物語に名前が出てこないことから、それとは知れるけれど、飄々とした元・侍の山崎寅之助なんかは、如何にも惜しかったなぁ。後の山岡百介を思わせる、本草学者の久瀬棠庵なんかも、どこかに落ちて生延びていないのかしらん。

元々は、「巷説百物語」のみを読んでいて、必殺仕事人のようなシリーズだよね、と一冊読んで見切った気になっていたのだけれど、又市が仕掛ける仕掛けのように、この巷説シリーズ自体が、京極さんの大きな一つの仕掛け。全部読まないと、絶対勿体無いシリーズです。そして、文庫になったら、絶対全巻揃えるんだーーー!!

「前巷説百物語」、まだまだ青臭い又市を満喫しつつ、でも、やっぱり、哀しい、切ない物語でありました。この時代に実際あった、非人という枠についてもきっちり描いてあるところもいい。人の世はまっこと哀しいもの、だけどね。

☆関連過去記事☆
・「続巷説百物語
・「後巷説百物語

「こんなに面白い江戸の旅」/もしも江戸時代にガイドブックがあったなら?

 2007-05-16-21:52
菅井 靖雄
こんなに面白い江戸の旅―東海道五十三次ガイドブック ?
東京美術

日本橋から始まって、三条大橋に至る東海道五十三次の旅。江戸から京都までは、通常、徒歩で15日。この15日間の旅には、さまざまな難所がある。そういった街道情報や、宿近くの名所・名物、また歴史・伝説・事件などを紹介する本書は、まさに江戸時代のガイドブックとも言えるのかも。

宿賃や川渡しのお代も出ておりまして、その物価の換算は、幕末に近い19世紀前半の米相場と現代の米価比を基準にしたとのこと(その換算によると、宿場の宿賃、200文は約4400円に相当する)。

目次
はじめに
かしこい旅の用心集
カラー特集
 早泊まりの早立ち
 旅は道連れ世は情け
 旅は憂いもの辛いもの
 備えあれば憂いなし
◎日本橋
1品川宿~53大津宿
◎三条大橋
特集1 宿・立場・間の宿
特集2 関所通行の心得
特集3 宿と飯盛り女
特集4 駕籠、馬、船渡し、徒歩渡し
特集5 覚えておきたい鳥居の種類
特集6 官製地図「五街道分間延絵図」を手に入れよう
旅の参考図書あれこれ
索引


見開き二頁を使って説明される宿のあれこれ。
箱根の宿の記述には、山本一力さんの「
牡丹酒 」における関所の描写を思い出した。

自分に身近な土地から読み始めても良いのかも。
近くにこんな伝説や事件があったとは、などと新たな発見があるやもしれません。
(ま、わたくし、大分すっ飛ばして読んじゃった感はありますが・・・)

「狐狸の恋」/お鳥見女房第四弾

 2007-03-10-23:52
 
諸田 玲子
狐狸の恋 お鳥見女房 

目次
第一話 この母にして
第二話 悪たれ矢之吉
第三話 狐狸の恋
第四話 日盛りの道
第五話 今ひとたび
第六話 別の顔
第七話 末黒(すぐろ)の薄
第八話 菖蒲刀


この巻で特筆すべきは、矢島家の当主、伴之助に密偵役を命じた張本人であると思われる、水野越前守忠邦が失脚したこと。この事は、矢島家の皆にとって大きな影を落とす・・・。

お鳥見女房 」から始まったこのシリーズ。珠世のまろやかな肝っ玉母さんぶりは、シリーズを通して変わらないけれど、登場人物たちは段々と成長しています。

前作「鷹姫さま」においては、矢島家次男の久之助が、父伴之助を救うために活躍。それは家を継ぐ事の出来ない、冷飯食いの次男である事の鬱屈とも無縁ではなかったが・・・。嫡男というだけで、苦もなく役を貰える跡継ぎである事を引け目に感じていた久太郎も、鷹匠の横暴に苦しむ村人を救う事で、自らもまた救われる。見習い役から本役を命ぜられた久太郎、既に以前感じていたお鳥見役への嫌悪感は微塵もなく、そこで生きていく事に迷いはない。

「悪たれ矢之吉」において描かれるのも、源太夫の一家の次男、源次郎の鬱屈。長男、源太郎が嫡男として扱われ、自らもまた自覚を持っていくのに、取り残されたように感じてしまうのだよね。彼らにも以前の悪戯小僧の面影はない。

さて、表題にもなっている「狐狸の恋」に見られるように、本作では様々な恋が語られる。「末黒(すぐろ)の薄」に登場するのは、逃れられない役目を追いながら、女と睦み合ってしまう浪人もの。それが上意であるならば、愛した女にあってでも、お役目を語ることは出来ないのだ。そしてお役目を果たした後は、そっと姿を消す他はない・・・。タイトルの末黒の薄とは、野焼きをした後に生えて来る薄を言うのだという。役目の中で、図らずも女と睦み合ってしまうのは、実はこの浪人だけではなく、珠世の父、久右衛門の過去でもあった・・・。女を助けた久右衛門の心の中には、勿論、過去、役目のために捨てるような形になってしまった、母子がいたのだろう。野焼きの後に生えて来る薄。久右衛門と、綾の間にあった確執も解かれることになる・・・。


そして矢島家の恋模様。久右衛門と綾との確執が薄れたことで、久之助と綾との間の障害もなくなったし、和知家の娘、鷹姫さまこと恵以を久太郎に嫁がせるウルトラCは、珠世母さんのアイディアの賜物。この先も楽しみです。

・第二弾「
蛍の行方

 ← お、文庫化されているのですね。
・第三弾「鷹姫さま」

 ← 記事にし損ねました・・・。でも、シリーズものは、書いておかないと忘れてしまうのでキーケーンー。

「牡丹酒」/広めてみせましょ、土佐の酒

 2007-03-05-23:57
山本 一力
牡丹酒

江戸で請負仕事をこなす、四人の若者を描いた、「深川黄表紙掛取り帖 」の続篇。
短篇が連なっていくのが前作のスタイルだったけれど、今作で流れるのは一つの大きなお話。南国土佐の酒、「司牡丹」を江戸に広めるという、広目(広告宣伝)の請負仕事の話。

目次
ひねりもち
ながいきの、ます
酒盗
酒甫手
仏手柑
黄赤の珊瑚
油照り
六つ参り
痩せ我慢
土佐堀の返し
土佐の酒、江戸へ
大輪の牡丹
もみじ酒
終章


前作では広目の仕事もあれば、少々怪しげな仕事もありといった感じだったのが、本作では蔵秀らの背後にずらり控える、紀文(紀伊国屋文左衛門)や、幕府側用人、柳沢吉保などの実力者の力を得て、横槍が入る事もなく、メンバーが広目の仕事に専念します、という感じ。前作の因縁のある大田屋親子が、ちょろりと邪魔をしないでもないのだけれど、ま、彼らは如何にも小物だしね。その分、とんとん拍子に物事が進み過ぎて、前作に比べ少々呆気なくもあるのだけれど・・・。

蔵秀の父、山師の雄之助が、土佐は佐川村の酒蔵、黒鉄屋と知己を得、その美味さに驚いた事から、江戸でこの酒を広める事を考えた。となれば、蔵秀たちの出番である。「一筋縄ではいかない」この仕事、さぁて、どのようにして広めましょうか? 蔵秀たちは、広目の仕事のために、土佐まで赴く事になる。

本作の魅力の一つは、南国土佐の生き生きとした描写。土佐の方言、情に篤い人々・・・。佐川村の、ひな、金太母子と親交を結んだ、江戸では少々気難し屋であった宗佑。この三人はどうなるのかな。ま、そこまで書いてはやり過ぎだとは思うのだけれど、蔵秀に雅乃の二人は、前作にそして、さくら湯」という章があったけれど、今作では無事にさくら湯が飲めそうですよ。

「損料屋喜八郎始末控え」/江戸の男は仁義にゃ篤い

 2007-02-18-17:55
山本 一力
損料屋喜八郎始末控え

夏の蚊帳、冬場の炬燵から鍋、釜、布団までをも賃貸しするのが、「損料屋」の商い。つまり、所帯道具にも事欠く連中相手の小商いということで、年寄りの生業というのが通り相場。ところが、喜八郎は年の頃は二十八とまだ年若く、眼にも掠れ声にも力がある。

実は喜八郎は武士の出身であり、かつて一代限りの末席同心を務め、与力の秋山の祐筆まで務めた男。詰め腹を切らされる形で同心職を失ったけれど、そこを助けたのが札差を営む米屋の先代。喜八郎は米屋が仲町に調えた損料屋の主となった。

さて、生活に汲々とする御家人達に、米を担保に金を貸し出すのが札差の仕事。先代は、両替相場や米相場の動きにも明るかったけれど、二代目は胆力、器量共に、札差には不向きな男であった。先代・米屋のたった一つの喜八郎への願いは、店を畳む事になったら二代目を助けて欲しいという事。金では返しきれぬ恩を受けたと感じた喜八郎は、先代にいつか報いる事が出来るように、配下の者たちを育て、米屋の周りにそれとなく置く・・・。

目次
万両駕籠
騙り御前
いわし祝言
吹かずとも

物語は、この米屋の二代目が、にっちもさっちもいかずに店を畳む決心をする所から。しかし、先代に大恩を受けた喜八郎。そう簡単には米屋を潰させはしない。与力、秋山と協力し合って、巨利を貪り、贅を極める札差たちに一泡吹かせることに。

田沼バブルがはじけ、何かと悪評の「棄捐令」が出された前後のお話なんだけど、痛手を被った札差たちが、御家人達に金を貸さなくなった事で、江戸の町中が金詰りに陥ったり、この辺りは経済小説の趣きもあり。ただし、そこは時代小説なので、悪いやつらに一泡吹かせる、喜八郎や手下の活躍には胸がすく。また、山本さんの小説なので、悪いやつらも一面的に描かれるのではなく、意外な面も併せ持つというように、多面的に描かれるので飽きがこない。

そして、特筆すべきは、人々の義理堅さ。借りが出来たら、それをお金で返すのではなく、次の行動で返すんだよね(場合によっては、動くお金も何百両とか凄い単位になるので、商売人の胆力にも吃驚するんだけど)。私は「いわし祝言」が好きだったんだけれど、これもまた、その前の仕掛けで世話を掛けた、江戸屋に報いるためのもの。米屋のために作った仕掛けを、江戸屋のために使ってもいいのだろうかと、喜八郎は悩むのだけれど、配下のものたちも喜八郎がやろう!、というのを待っているのだ。大規模資本主義にはない考えかもしれないけど、見事な循環型社会だよなぁ、と思った。「いわし祝言」は身の丈、身の程を考えるものでもあり、この辺もお江戸はいいねえ。いわしで祝う結婚。ちょっと煙そうだけれど、みっしりと実質があるんじゃないかな。

「棄捐令」に深く関わった与力・秋山は、これで良かったのかと自問自答し、最初は棄捐令に喜んだ御家人達も、札差の根強い貸し渋りに合って、秋山に対して冷たく当たるようになる。辞職を決意するも、逃げるなと諌められる秋山もいい。己は己の仕事をきっちりやるしか、道はないものね。

山本さんの物語の一つの特徴として、互いに憎からず思う男女が、程よい大人の距離で出てくるんだけれど、今回は料理屋・江戸屋の女将、秀弥がそれに当たる。くっ付いちゃえばいいのにー、とも思うけれど、この距離が潤いになりつつも話の邪魔にならない感じなのかな。「目元がゆるむ」など、の描写も好き。

深川駕籠 」、「深川黄表紙掛取り帖 」は若干やんちゃ寄り、この「損料屋喜八郎始末控え」は、国の行く末に関わる仕事が絡んでくるだけに、抑制がきいた少々大人な感じですかね。amazonを見て驚いたけれど、これがデビュー作なんだそうです。凄い完成度!

 ← 文庫も

 ← おお、そして続編も!

「深川黄表紙掛取り帖」/よろず相談、承ります

 2007-01-24-23:02
山本 一力
深川黄表紙掛取り帖

深川駕籠 」以来の、山本一力さん。

時代物って色々あるけれど、作家さんによってそれこそ色々なカラーがある。山本さんが描き出す世界は、ゴツゴツとほとんど無骨とも言えるし、最近の時代物のように懇切丁寧な説明があるわけでもない。でも、ぶっきら棒な良さというか、すっぱりきっぱりとした潔さがある。更に言えば、山本さんが描き出す世界の特徴は、出てくる職人や肉体労働者がとても鮮やかで素敵だということ。体を使う事や、培った経験に対する無条件の尊敬があるように思うのだ。

さて、ここに四人の知恵者達がいる。暑気あたりの薬、定斎を夏場に売って歩く事から「定斎売り」として知られる蔵秀(表紙の一番右)。紅一点、尾張町の小間物問屋の一人娘、短髪に黄八丈の作務衣を纏った絵師の雅乃(表紙の一番左)。細工物を作らせたら天下一品、飾り行灯師の宗佑(表紙中央)。算盤勘定にも明るい、文師の辰次郎(表紙右上)。特に宣伝はしていないのだけれど、助けた商家からの評判によって、彼らの元には様々な相談事が持ち込まれる。ぱっと見には不可能だと思われることを、どうやって可能にするかが、彼らの腕の見せ所。で、この請け負い仕事を、蔵秀は黄表紙の帳面に書き付けるのだ。

目次
端午のとうふ
水晴れの渡し
夏負け大尽
あとの祭り
そして、さくら湯

「端午のとうふ」
毎年五十俵の大豆仕入れが、今年に限って五百になってしまった。豆問屋の丹後屋に頼まれたのは、抱えてしまった豆を上手く捌くこと。蔵秀たちは、首尾よく豆を捌くけれども、話はそれだけでは終わらなかった。
更なる問題を片付ける首尾が「端午のとうふ」。同業の穀物問屋と豆腐屋、紙屋や刷り屋を潤す、見事な仕掛け。

「水晴れの渡し」
雅乃が虚仮にされたと知っては、蔵秀たち三人は黙ってはいられない。芝の田舎者、大田屋精六・由之助親子は、尾張町進出への足がかりを狙っているようである。別口で請けた仕事に、この大田屋親子が関わっていたとあっては、これは逆に好都合? 猪之吉親分から仕入れた情報をもとに、ここはきっちりはめさせて頂きます。

「夏負け大尽」
此度持ち込まれたのは、蔵秀の父、名うての山師、雄之助を名指ししての、紀伊国屋文左衛門からの依頼。紀伊国屋の材木置場の檜と杉を、雄之助の目利きで買い取って欲しいというのだ。首尾よく事は運ぶけれども(そして、成り上がりの紀伊国屋に対する支払いの粋な事!)、紀伊国屋はなぜ虎の子の材木を手放したのか? なぜ小判での支払いに拘ったのか? 蔵秀の胸にわだかまりが残る・・・。

「あとの祭り」
再び、深川の堀をちょろちょろするのは、例の田舎者、芝の大田屋親子。大田屋が買った大川橋の舟株は、大川に永大橋が架かる故に、三年後には反故同然となる。鮫洲の実直な船大工、六之助を、大田屋の巻き添えにしないために、大田屋に知られる事なく、六之助に手を引かせる事は出来るのか? 
断りもなく仕掛けに組み入れられた紀文だけれど、流石は若くして財を成した人物。なかなかやるねえ。

「そして、さくら湯」
いつまでも残暑が引かない秋、紀文の隠れ家にやって来たのは、今を時めく側用人、柳沢吉保であった。互いに権力者に気に入られ、若くして成り上がった点で似ているこの二人は、時に本音を漏らす事も出来る仲である。市井の様子を紀文から聞いた吉保は、蔵秀たち四人に興味を持つ。

渡世人の猪之吉との間合いもいいし、蔵秀の母、おひで、蔵秀の父、雄之助も年輪を感じさせていい。雅乃が手早く作るあても美味しそう。いや、ご飯が美味しそうというのは、重要だよな。
神輿も粋、木場の川並たちも粋。

ところで、山師っていかさま師のことだと思ってたんだけど、「諸国の山林を目利きし、樹木の良し悪し判断に加え、伐採後の運び出しの段取りを見極めて値を決める」という凄い技を持った人たちのことを言うのですね。知らなかったなー。

【メモ】
◆定斎売り◆
「くすりの博物館」の該当ページにリンク
◆川並◆
東京新聞の記事 、「ミツカン水の文化センター」の該当ページにリンク
◆柳沢吉保(Wikipedia )?
 ← 続編もあるようで、これは読まねば
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫ 次ページへ ≫
プロフィール

つな がる

Author:つな がる
つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
興味を持った記事があったり、あなたが読み終えた本について語っていたら、是非あなたの感想を教えて下さい。お待ちしています。

2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

掲示板その他リンク

ユーザータグ
最近の記事
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

RSSフィード
カウンター

月別アーカイブ
検索エンジン情報
Googleボットチェッカー Yahoo!ボットチェッカー MSNボットチェッカー

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。