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「翻訳文学ブックカフェ」/翻訳者は黒子なのか?

 2009-03-14-22:23
翻訳文学ブックカフェ翻訳文学ブックカフェ
(2004/09)
新元 良一

商品詳細を見る

珍しくも手持ち。といっても、古屋で偶然見つけたんですが。図書館に押されて、ついつい後回しになっちゃったんだけど、これ、すっごい楽しかったーーー! 最近、自分が読むのも、翻訳モノの比率が増えているしね。

帯から引きます。
翻訳の心
  ×
文学の愉しみ

若島正/柴田元幸/岸本佐知子/鴻巣友季子
    青山南/上岡伸雄/小川高義
中川五郎/越川芳明/土屋政雄/村上春樹
錚々たるメンツでしょ? 元々知っている人も知らない人も、訳したを見て分かる人も、それでも分からない人もいたけれど…。

対談って基的に苦手なんだけど、これは楽しく読めたなぁ。対談というよりもインタビューで、これ、インタビュアーである新元さんがきっと巧いんでしょうねえ。取り上げられたトークのほとんどは、ジュンク堂書店池袋店にて収録されたものなのだとか。

翻訳というとテクニカルな話になるのかなぁ、と思ったんだけど、テクニカルな話で面白い部分もあったけど、みなさん、すごくハートで訳されてる感じがして面白かったです。やっぱり、つるっとした訳がいいわけじゃなくって、原文の癖であるとか、ひっかかりを大切に訳されているのは共通していました。原文に対峙しうる日本語を探すことが大切なんですね。

手がける本の見つけ方も、それぞれ面白かったです。海外ならいざ知らず、日本の書店で見つけて、なんてことも実際にはあるんですねえ。どこまで本当のことかは分かりませんが、青山南さんなんかは、翻訳する作家を、写真で決めるのだとか。

翻訳家は黒子なのか、というと決してそんなことはなくて、今ではこの人が訳しているから読もうとか、自身の言葉で書かれた翻訳家のエッセイも楽しんだり出来るし、更には新訳だって色々出ている。幸せな時代ですよねえ。版権の問題とか色々あるだろうけど、色々な人の訳で読むのも楽しいのかも。

とはいえ、この作家はこの翻訳家じゃなくっちゃ!、というのもあって、小川高義さんの項で言えば、その扉にも書いてあるんですが、「ラヒリは俺の女だ!」発言なども飛び出ています。笑 勿論、冗談ではあるのだけれど、ちょっとドッキリする発言ですよね。でも、作家と翻訳家の名コンビ。素敵ですよね。

全てに色々気になるところはあったけれど、一番びっくりしたのは、土屋政雄さんの項。「日の名残り」の端正な世界が印象深い土屋さんですが、実は文学作品以外にも、コンピュータのマニュアルを訳されることもあるのだとか。意外だなぁ。

同じく土屋さんのところで言うと、その作品の世界を作るため、文体を掴むまでに、小説の推敲作業にかける姿勢に心を打たれました。みなさん、それぞれ色々なやり方があるのだとは思うのですが・・・。

手順としては、ある程度いくまでは、作品の初めから昨日までに訳した部分を全部読み直す。これを必ず毎日やります。原文に対してこれで必要十分な日本語か。違和感があったら、どんな小さな部分でも直す。それを直すことで、ほかにも直す必要のあるところが出てきますから、それもどんどん直す。それを終えて、まだ時間が残っていれば、初めて今日やるべき未訳の部分を訳します。次の日、また同じことを繰り返す。こうやって、もう句読点の位置まで変えるところがない、というところまできっちり決めていきます。

この本、一回読んだだけでは、この情報量をとてもこなせない感じ。いいところは、「これから訳してみたい本」についても、インタビューしてるところなんですよね。その後を考えると、実際に出ているものもあったりとか。ジェフリー・ユージェニデスについて、柴田さんがヘンな作家だ!、って仰ってるところも、何だか嬉しかったなー(既読本:「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」、「ミドル・セックス」)。私もヘンだと思うけど、何だか惹きつけられる作家なんです。とにかく本の、作家の話題がいっぱいで、にんまりしてしまう一冊なのでした。楽しかったー! 本の雑誌社、素敵です。

【追記】
そうそう、これについてメモっとこうと思ってたのに、すっかり忘れていたのでした。

青山南さんの項で、創作科の話が出てたんです。あのアーヴィングやレイモンド・カーヴァー(こっちは読んだことないけど)も、先生をしていたことがあるのだとか。

創作科というのは、最初は文学なんて教わるもんじゃないと、バカにされてきたそうだけれど、今アメリカで活躍している作家はほとんど創作科の出身なんだって。創作科を出ると創作科の先生になる。すると、生活が安定して一年に一冊本が書ける。そして、そこの生徒が…、というように再生産のような広がりがあるのだとか。で、アメリカ中の大学にそういう創作科があるから、層の厚さはすごいものになるわけですね。波及効果でイギリスも同じ状況で、カズオ・イシグロとかイアン・マキューアン(こっちも読んだことないけど)も創作科の出身なんだって。

日本では、こういう取組みはないのかしら。アーヴィングの授業なんて、「昨日こんなものを書いたんで、今日の授業はこれを読む!」と、自分の小説を読み、「どうだ、いいだろう」と言っておしまいだったんだそうな。ま、これは創作科の創成期の話らしいんですが、創作科って面白そうな場所だよなぁ、と思ったのでした。そうやって、生活が安定するのもいいことだしね(って、本をあまり買わずに、図書館でばかり借りている私の言う台詞ではないかもしれませんが)。
目次
Day1
若島正
Day2
柴田元幸
Day3
岸本佐知子
Day4
鴻巣友季子
Day5
青山南
Day6
柴田元幸
Day7
上岡伸雄
Day8
小川高義
Day9
中川五郎
Day10
越川芳明
Day11
土屋政雄
Day12
村上春樹
 あとがき

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「変愛小説集」/岸本佐知子さん、編

 2008-11-17-23:43
変愛小説集変愛小説集
(2008/05/07)
不明

商品詳細を見る

目次
五月   アリ・スミス
僕らが天王星に着くころ   レイ・ヴクサヴィッチ
セーター   レイ・ヴクサヴィッチ
まる呑み   ジュリア・スラヴィン
最後の夜   ジェームズ・ソルター
お母さん攻略法   イアン・フレイジャー
リアル・ドール   A・M・ホームズ
獣   モーリーン・F・マクヒュー
ブルー・ヨーデル   スコット・スナイダー
柿右衛門の器   ニコルソン・ベイカー
母たちの島   ジュディ・バドニッツ
 編訳者あとがき
愛にまつわる物語、十一篇。恋愛至上主義への意趣返しのはずが、編訳者、岸本さんも書かれているように、これが意外とピュアな愛の物語になっているのです。

私が好きだったのは、「五月」、「まる呑み」、「リアル・ドール」、「柿右衛門の器」、「母たちの島」。

突然、近所の家の庭にある木に恋してしまったわたし。「わたし」視点と、わたしが共に暮らす「私」視点がいいんだー(「五月」)。

近所の素敵な男の子、クリスをまる呑みしてしまった私。私の中に入ってしまったクリスとの、エロティックな日々が始まるが…(「まる呑み」)。

妹が持つバービー人形と付き合っている僕。妹の目を盗んでの逢瀬。妹の酷い扱いにも関わらず、バービーは妹のことをすっごくいい子というのだが…(「リアル・ドール」)。

本物の磁器とは、牛を感じるものでなくては。ルーシーの大伯母、パーチ夫人はそう言うのだった。子供のころから絵の巧かったルーシーは、長じて陶芸も嗜むようになった。「牛を感じる」磁器を作り上げた後に、彼女が作ったのは…(「柿右衛門の器」)。

この島は母たちの島。戦争により島を出て行った男たちは、とうとう戻ってくることはなかった。しかし、ある日違う男たちがやって来る。私たちの父親となった彼らは、再び島を去り、島はまた母たちの島となった(「母たちの島」)。

岸本さんの訳はどこか品があるんだよねえ、と書こうと思ったんだけど、この筋を書いていると、お話としては品とかそういう問題じゃないのもありますね。愛情がねじ曲がって、ちょっとホラーなところに着地しちゃったものもあるしなぁ。

突然、体が宇宙服に覆われ、最終的には宇宙へと旅立って行ってしまう、「僕らが天王星に着くころ」もその発想が面白かったし、ごく短い「セーター」、「獣」も当たり前の世界に、ぽーんと怖いものを持ってくるところが面白かったです。「お母さん攻略法」はこりゃまた随分とブラックだし(考えてもみてください。成熟した、経験豊かな、愛情深い女性がすぐ目の前にいるのです)、不治の病により自死を選ぶ妻とその夫を描いた「最後の夜」もまた、美しかった愛情が無残に壊れる様が残酷でした。崇高な愛のはずが、凡庸な愛に思いっきり邪魔されて白茶けています。

「ブルー・ヨーデル」はお話としては良く分かんなかったんだけど、小道具が面白かったです。蝋人形に交じってポーズをとり、急に動いて客を驚かせるなんて職業、実際にはないよねえ。その彼女の恋人の「僕」の仕事は、ナイアガラの滝で、誰かが樽の中に入って滝下りをやらないように監視することなのです。この二人のへんてこな職業が面白いし、どうしてそうなっちゃったんだかはまったく分からないのだけれど、クレアが飛び去ってしまうのが飛行船であること、国境など物ともせずひたすら飛行船を追うさまなど、なかなかに美しいのです。

時間切れ本メモ

 2008-10-26-13:00
まずは、どちらも饒舌な文章に、挫折してしまった二冊の本。

マザーレス・ブルックリン (ミステリアス・プレス文庫)マザーレス・ブルックリン (ミステリアス・プレス文庫)
(2000/09)
ジョナサン レセム

商品詳細を見る

こちらは、図書館の新刊案内を見ていて、「孤独の要塞」が気になった作家、ジョナサン・レセムの作品。ちょっと変わった探偵ものらしいという前情報で借りてきたんだけど、事件の背景とかミステリ的要素にいま一つのれないままに挫折。

孤児院育ちで、トゥーレット症候群のライオネル・エスログが、脳の命ずるままに語り倒すお話なんだけれど、ライオネルの一人称「自分」にも慣れなかったし、探偵なのかどうなのか、の微妙なラインのまま読んでたから(たぶん、便利屋的仕事をしていた無免許探偵?)、謎に対しての動き方にも戸惑ってしまうというか…。

孤児院育ちのライオネルたち四人の仲間は、十代の頃に兄貴のようなフランク・ミナに拾われる。長じた彼らは、ミナ一家を名乗り、多少に怪しげな仕事に精を出す。ところが、ライオネルとギルバートの二人が見張りをする中、ミナは連れ去られ、ごみ箱の中で血にまみれ、運び込んだ病院で息を引き取る。ライオネルはミナの死の真相を知ろうと動き出す。

この語りにはまれば面白く読めるのかなぁ。トゥーレット症候群に関しては、オリヴァー・サックスの「火星の人類学者」(感想)で読んだ時から、興味があったのです。異色のハードボイルドものではあるのかな。

ノリーのおわらない物語ノリーのおわらない物語
(2004/06)
ニコルソン ベイカー

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なんでか、私はある意味で似ているものを併読する癖があるようで(そして余計苦しくなるんだから、バランスよく違う本を読めばいいんだけどさ)、もう一冊は、少女ノリーのどこまでも続くお喋りにお付き合いする、「ノリーのおわらない物語」。岸本佐知子さんだし、ニコルソン・ベイカーなのにー!!、と思いつつ、途中でちょっとおなかがいっぱいになってしまいました。

ノリーのお喋りに付き合う、心の余裕が必要かと。そして、これはゆっくり読み進めたほうがいいのかもしれませんねー。でも、ノリーの話はどこまでも脈絡がないので、前の話をあっという間に忘れ去りそう…。

お縫い子テルミーお縫い子テルミー
(2004/02)
栗田 有起

商品詳細を見る

もう一冊は饒舌な語りとかそういうのではないんだけど、実は以前に読んでいたような?、と思った本。「お縫い子テルミー」と「ABARE・DAICO」の二本立て。「お縫い子テルミー」は、日常のようでいて実際にはあり得ない突飛な設定のお話。こちらは嫌いではなかったんだけど、曖昧模糊としたものしか感じ取れず。でも、流れ者のようなテルミーは、面白い存在でした。

「灯台守の話」/物語るということ

 2008-01-11-23:06

ジャネット・ウィンターソン, 岸本 佐知子

灯台守の話


物語るとは、世界を丸ごと構築しなおすこと。たとえば向かい合って話すとき、言葉の力は、表情や身振り、抱き合うことなど、身体的なものに負けてしまうかもしれない。けれど、言葉には言葉にしか出来ないことがある。それは物語ること、物語を作り出すこと。

私たちの人生は、様々な物語から成る。そしてそれは多くの場合、はじめがあって真中があって終わりがある、そういう類の繋がった一つの物語ではない。私たちの人生は、様々な物語の断片の積み重ね…。こうくると、ちょっと、フラグマン(断片)、注記(ノチュール)、続唱(セカンヌ)、反響(レゾナンス)から成る物語、「マグヌス 」を思い出す。

目次
二つの大西洋
暗闇のなかの確かな点
太陽の寄宿人
大博覧会
洪水の前の場所
新しい惑星
物言う鳥

小屋
 訳者あとがき


父を知らず、母を亡くしたシルバーは、ソルツの町はケープ・ラス(怒りの岬)との灯台に住む、盲目の灯台守ピューに引き取られる。灯台は光の仕事だけれど、必要のない物は照らさない。だから、自らの内部は闇に沈む。シルバーたちの暮らしは常に闇の中。目の見えないピューにはそれで問題はないし、シルバーもまたそんな暮らしに慣れていった。

ピューが言うには、よい灯台守の条件とは、船乗りよりもよりたくさんの物語を知っていること。そう、器械の使い方なら、誰だって教えることができ、誰だって習うことが出来る。けれど、灯台守となる人間に、本当に教えなくてはならないのは、光を絶やさないようにすること。そして、それは物語を覚えることと同義である。

船乗りたちがやって来た時代、灯台の光が活躍していた時代は当の昔に過ぎ去っていたけれど、そうして、シルバーはピューから、様々な物語を聞き、学ぶ。お話して、ピュー。すべての灯台は物語であり、そこから海へと放たれる光もまた、導き、報せ、慰め、戒めてくれる物語そのもの。シルバーもまた、海で流木を拾うように物語を集め、ピューに話して聞かせる。

ピューは百年前の出来事を、まるで見てきたように話す。シルバーの「その時、ピューはいなかったくせに」という言葉にもお構いなし。ケープ・ラスには、だって、ずっとピューたちがいたのだから。ここで語られるのは、まるでジキルとハイドのような二重生活を送っていた、百年前のバベル・ダークと言う牧師の話。自らを牢獄に閉じ込めるかのようであった彼の人生は、自分の真実を信じなかったために、非常にややこしいものになってしまう。「アイ・ラヴ・ユー」、それはこの世でもっとも難しい三つの単語。

やがて、ケープ・ラスの灯台にも機械化の波がやって来る。ピューとシルバーは退去命令を受け、ピューは海へと姿を消す。シルバーはピューを追うのだが…。これ以降のシルバーの人生は、シルバーの言葉を借りれば、難破と船出の連続。寄港地もなく、目的地もない、砂州と座礁があるのみ。本盗人となり、鳥盗人となり、たぶん、妻のある人と恋して、女性に恋して…。真実の愛を探して、ピューの残したバベル・ダークの日記を手に、旅立ったシルバーの生は…。

 化石に書かれた記録は、発見されようとされまいと、つねにそこにある。もろく壊れやすい過去の亡霊。記憶は海面とは似ていない、荒れていようが凪いでいようが。記憶は積み重なって層をなしている。過去のあなたはちがう生き物、とはいえ証拠はしっかりと岩に刻まれている―あなたの三葉虫が、あなたのアンモナイトが、あなたの地を這う命の形が、自分では二本足で直立できていると思いこんでいる今この瞬間にも、ちゃんとそこに存在している。   (p159-160より引用)

あれほど原始的な感じではないのだけれど、ちょっといしいしんじの作品に似た空気感を感じました。繰り返される、「お話して」というフレーズ、おとぎ話のような雰囲気、話はあちこちに飛ぶのだけれど、潮の匂いが立ち込めるようなこのお話、とても良かったです。

器械は誰でも扱うことが出来るけれど、良い灯台守はたくさんの物語を知っているというフレーズ。世にたくさんの仕事があって、それはどんどん機械に置き換わっていってしまうかもしれないけれど、「物語ること」、それは人間にしか出来ないことだなぁ、と改めて思いました。少し前に、野暮用で「将来の夢」なんぞを書かされていたのだけど、これもまた物語ることなのかしらん。自分の中の、アンモナイトや三葉虫のような記憶を掘り起こしてみたくなる本でした。

古い灯台にも興味が出てきちゃって、思わずネットをうろうろしてしまいました。あの「宝島」や「ジキル博士とハイド氏」(実は私、「宝島」と「ジキル~」の作者が一緒だって知りませんでした…)で知られる、スティーヴンソンの祖父が、この灯台のモデルとおぼしき、ケープ・ラスに実際にある灯台を建設したのだとか。「灯台」というアイテムが実に秀逸。

美しい装幀は、吉田浩美さんと吉田篤弘さんのクラフト・エヴィング商會です♪

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

「ダンシング・ガールズ」/あたしたちの内側には

 2007-10-22-21:45

マーガレット アトウッド, 岸本 佐知子

ダンシング・ガールズ―マーガレット・アトウッド短編集


訳者の岸本佐知子さん目当ての読書であります。

目次
火星から来た男
ベティ
キッチン・ドア
旅行記者
訓練
ダンシング・ガールズ
訳者あとがき


著者はカナダ出身とのことなので、豊かな自然描写なども期待しつつ読んだのだけれど、その点は実はいまひとつ。でも、心理描写が独特で、すとんと居心地悪い所に落とされる、その感覚が面白かったです。

訓練」を除けば、ほとんどの主人公は女性。そして、どちらかと言えば、地味な人物に焦点が当てられる。でも、地味な人物には地味な話しかない、なんてことはそれこそ思い込みでしかないわけで。ぺろりと現実の皮を捲ればそこには…、というお話。なんとなーく、中途半端に放り出される部分もあるのだけれど、これはその釈然としない感覚も含めて、楽しむべき物語なのでしょう。

妙ちきりんさで言えば、ミセス・バリッジを主人公とする「キッチン・ドア」が、ぴったりはまった美しさでいえば、都会的な旅行記者アネットを主人公とした「旅行記者」が面白かったです。

キッチン・ドア」の主人公、ミセス・バリッジは、一九五二年からずっとピクルスを作り続けている。今年も勿論、鍋二つ分のグリーン・トマトのピクルスを作り、夫、フランクとのやり取りもまたいつもと同じ。フランクは毎年、妻がピクルスを作り過ぎると文句を言い、でもそれをいつだって食べきってしまうのだ。ピクルスとチーズを控えるように言うのも、フランクの健康を心配してというよりは、彼女が口うるさく言わないと、フランクが淋しがるから。そう、これらはすべて決められた形式にのっとって進行する、日常の決まり事…。
常と同じ時間の流れの中で、ミセス・バリッジは「それ」がやって来るのを感じる…。その時、きっと夫フランクには彼女を守ることは出来ない。「それ」を感じるミセス・バリッジは、キッチン・ドアを見つめながら、一人、準備を始めるのだが…。

旅行記者」では、有能で都会的な旅行記者、アネットが飛行機事故に巻き込まれる。楽しみを見出し、人々が求める記事を提供する術に長けたアネットにとって、旅は既に純粋な楽しみではなく、まるで書割の世界にいるようでもある。言うならば、自分だけが現実から隔離されたような感じ。
そんな中で、彼女は飛行機事故に遭う。慌てもせず、海に着水した飛行機から、必要なものを整えて脱出した彼女を待ち受けていたのは…。当然、すぐに助けがやって来るはず。救命ボートの上で、彼らは考えるのであるが、現実には…。そう、これがアネットが求めていた「現実」なのか、「生きる」ということなのか。

カナダの作家と言えば、新潮クレストブックスのこちらも気になります。こちらは、自然描写も期待出来るのかしらん。

「ねにもつタイプ」/夢見るように生きている

 2007-09-08-21:23
岸本 佐知子
ねにもつタイプ

本書は、「ちくま」の2002年3月号から2006年9月号まで、55回連載されたものから48回分を選び加筆したもの。

岸本さん、前作にあたるエッセイ集、「気になる部分 」から、確実にパワーアップされております。

「気になる部分」はあくまで現実(と妄想)のお話だったけれど、本作においてはほとんどショートショートのような創作と思えるものも含まれ、いくつかのものについては、そのまま膨らませれば、一つの物語が出来てしまいそう。この次はエッセイではなく、小説を書かれたりして、ね。

(岸本さんの脳内にいると思われる)住民たちを描いた「住民録」(コマネチさん”、”子供”、”見知らぬおじさん”、”ミツユビナマケモノ”、”狂犬”、”一言婆”、”三つ編み”のそれぞれの紹介と特徴。あなたの頭の中には、これに類する何かが棲んでますか?)や、天気図にもし台風の「台」の代わりに「夏」があって、「夏」が上陸したらどうだろう?、と考える「夏の逆襲」など、岸本ワールドを堪能いたしました。

岸本さんの文章目当てに、「ちくま」を購入される方の気持ちも分かるわ~、の一冊でした。と、思ったら、「ちくま」は筑摩書房のPR誌なのですねえ。ってことは、無料?
こちら を見たら、奈良美智さんの表紙がめっちゃ印象的なんですが、うーむ、本屋で見た記憶がないぞ。汗 最近、図書館ばっかりだからなぁ。山本一力さんの「八幡の湯」も気になります。

さて、岸本さんの翻訳による、ニコルソン・ベイカー「中二階」も早く読まなくっちゃ!(って、気になる部分」を読んだ時にも、書いてたような気もするけど)

「猫好きに捧げるショート・ストーリーズ」

 2007-05-26-18:22


ロアルド ダール, ロズ チャスト, パメラ ペインター, フィリップ ロペイト, アリス アダムズ, M.J. ローゼン, Michael J. Rosen, 岩元 巌, 斎藤 英治, 大社 淑子

猫好きに捧げるショート・ストーリーズ


猫に関連する短編を集めたものだそうだけれど、「猫」という動物の特性のためか、実際は猫がメインになっているものは少なくて、都会生活の大人の倦怠の小道具として使われていたり、ちょっとその扱いは自分が期待していたようなものではなく、微妙。

というわけで、関心のある所だけ、拾い読み。全部は読んでおりません。

目次
巻頭口絵 フォトグラフ/トニー・メンドサ
賢いわたし パメラ・ペインター/岩元 巌訳
猫を飼う フィリップ・ロペイト/岩本 巌訳
二匹の猫と ロブリー・ウィルソン・ジュニア/鈴木和子訳
危機 モリー・ジャイルズ/亀井よし子訳
猫が消えた アリス・アダムズ/岸本佐知子訳
土地っ子と流れ者 ボビー・アン・メイソン/亀井よし子訳
シカゴとフィガロ スーザン・フロムバーグ・シェイファー/大社淑子訳
お気をつけて カティンカ・ラサー/亀井よし子訳
絵の中の猫 ライト・モリス/武藤脩二訳
つれあい アーテューロ・ヴィヴァーンテ/亀井よし子訳
漫画組曲 ロズ・チャスト/亀井よし子訳
屍灰に帰したナッシュヴィル エイミー・ヘンペル/岩元 巌訳
暴君エドワード ロアルド・ダール/岩元巌訳
屋根裏部屋の猫 ヴァレリー・マーティン/斎藤英治訳
テッド・ローパーを骨抜きにする ペネロピ・ライヴリー/鈴木和子訳
愛情 コーネリア・ニクソン/大社淑子訳
フェリス・カトゥス ジーナ・ベリオールト/岩本 巌訳
老女と猫 ドリス・レッシング/大社淑子訳
ラルフ ウェンディ・レッサー/斉藤英治訳
ふれあいは生き物の健康にいい メリル・ジョーン・ガーバー/斉藤英治訳
こっちを向いて、ビアンカ モーヴ・ブレナン/岸本佐知子訳

 解説 岩元 巌


シカゴとフィガロ」あたりまで、あとはロアルド・ダールと岸本佐知子さんが訳しておられる「こっちを向いて、ビアンカ」を読んだのだけれど、やっぱり圧巻はロアルド・ダールによるものかな。

あとは、巻頭の写真(惜しむらくは白黒なのだけれど、猫の色々な表情が見られて実にいい! おっかないのもあるけど・・・)と、「漫画組曲」が面白かった。「漫画組曲」は、猫族四種1.ペットになりうる家庭向けの猫族、2.完全な妄想症の猫族、3.外国産「大枚申し受けます」猫族、4.摩訶不思議な猫族)と猫にささげる難問奇問世界一運の悪い猫猫のためのジャンクフードにせ猫三態を図解しています。こういうユーモア、好き~。

さて、ロアルド・ダールによる「暴君エドワード」。

エドワードとは、妻のルイザと暮らす中年の男性。二人の前に現れたのは、冷ややかな黄色い目と、銀色の毛を持つ大きな猫。ピアノ演奏を趣味とするルイザのピアノの音に、その猫は異様とも思える反応を示す。ルイザはその猫を、フランツ・リストの生まれ変わりだと信じるのであるが・・・。
30頁ちょっとと小品だけれど、なかなか締まった構成だと思います。良き夫であり、これまでは妻のルイザと上手くやって来た事が示唆されるエドワードだけれど、うん、暴君といえば暴君なわけだ。

「フェルマータ」/もしも時間を止められたなら?

 2007-05-19-23:43


ニコルソン ベイカー, Nicholson Baker, 岸本 佐知子
フェルマータ

白水社

訳者の岸本さん目当てで借りてきた、ニコルソン・ベイカーの本。

妄想力が爆発していた岸本さんのエッセイ(→「
気になる部分 」)同様、こちらの本も物凄く変わってました~。

 もしも、時間が止められたなら?

基本設定はこれです。ワン・アイディアといえば、ワン・アイディア。

自由に時間を止める事が出来、全ての物たちが静止した状態の中、一人、自由に動く事が出来たならば、人それぞれやりたい事、やれる事は違うでしょう。

でも、この物語の中、主人公で自伝的記録をものしている途中のアーノがする事と言えば、そう、この文庫版の表紙にあるように、女性の服を脱がせたりなどの、セクシャルな行為ばかり。

アーノは、どんなタイプの女性であれ、それは純粋に女性の美を礼賛するための行為だと言うのだけれど・・・。

<襞(フォールド)>の中に入り、好き勝手に、時や他人の身体、人との関係性を弄くるアーノ。これ、amazonなどを見ると、基本的に男性目線の妄想なので、女性には不評では・・・、という意見が多かったように思うけれど、私は結構楽しんで読んじゃいました。まぁ、近くにアーノのような男性にいて欲しくはないけれど。ワン・アイディアだけど、流石に最後まで同じ展開というわけではなく、ラストの17、18章があるので、食傷せずに済んだというのもある。

アーノは実際に時を止めているわけだけれど、本来は過ぎ去っていってしまう、何でもない一瞬一瞬を愛おしむような、時を手の平で優しく撫で擦るような感触が新鮮でした。ま、やってる事は、セクシャルな妄想を実行に移しているという、ほんとけしからん事ばかりなんだけどね。

訳者の岸本さんのお遊び(? というか、訳語の工夫か)も、随所に見られまして、成長物語(ビルドゥングスロマン)をもじった性腸物語(ディルドゥングスロマン)という名の張形とかね・・・。この訳語でも分かるように、途中に挿入されるアーノ自身による猥文(ロット)は、ほとんどポルノ小説なので、そういうのが大丈夫な人じゃないと、ちょっと読むのは辛いかも。

俗語はそれなりに触れたことがあると思っていたんだけど、乳房を<ジャマイカ>っていうのは知らなかったな~。何からきているんだろう??? 英語に堪能な方ならば、岸本さんの訳やルビを更に楽しめるのかもしれません。

*私が実際読んだのは単行本なのですが、表紙絵が出てきた白水μブックスのソフトカバー版を載せています。35歳、派遣社員(テンプ)のアーノ。アーノっぽさが良く出ている表紙だわ~。

「気になる部分」/妄想力と記憶力に満ち溢れたエッセイ集

 2007-04-29-21:47
岸本 佐知子
気になる部分

新聞の書評で見かけた「ねにもつタイプ」が気になっていた岸本さん。
ほんとは「ねにもつタイプ」を読みたかったんだけど、わが図書館にはなかったのでこちらの「気になる部分」を。

しかし、白水社から出ているとはとても思えないこの表紙。装丁を知らずに予約で取り寄せちゃったので、ちょっとたじろぎましたよ。や、私、こんなの頼んでないです、という感じでね・・・。

目次
? 考えてしまう
? ひとり遊び
? 軽い妄想癖
? 翻訳家の生活と意見

さて、内容はというと、私より一足お先に、岸本体験をされた
nanika さん(nanikaさんの記事はこちら→『ねにもつタイプ 』)が指摘されておられる通り、その妄想力と記憶力に舌を巻く。

そうだなー、一例を挙げると、あなたは街で飾られている七夕の短冊が気になるタイプですか? そう、ことによってはイケナイことだと思いつつも、ついつい絵馬を読んでしまったりとか。もしそういうものが気になるようだったら、あなたも立派に「こちら側」(ええ、私も思いっきりそちらのタイプです)の人間かも。

しょうもないことについつい考え込んでしまう人、ふと聞こえた会話から色々と妄想が広がっていく人、これを読むと力強い味方を得た気分になるかも?(私だけじゃなかった!)

そうなんだよなー、私も子供の頃、算数の文章題に苦戦したのは、しょうもない事に気がいってしまったからだった・・・。母に悩みを打ち明けて、「そんなことは心配しなくてもよいのよ」と言われてからは、普通に解ける様になったけどさ。岸本さんバージョンの文章題の悩みは、こんな感じです。

「ある人が、くだもの屋さんで20円のリンゴを7こ買おうとしたら、10円たりませんでした。その人はいくら持っていたでしょうか」というような問題があったとすると、私はその”ある人”のことがひどく気の毒になりはじめるのである。この人はもしかして貧乏なのだろうか。家にそれしかお金がなかったのだろうか。リンゴが7個買えないとわかった時に”ある人”が受けたであろう衝撃と悲しみは、いかばかりだったであおるか―。どうかすると、同情が淡い恋心に変わってしまうことさえあり、(”ある人”ったら、うふふ・・・・・・)などと思いを馳せているうちに、「はい、鉛筆おいてー」という先生の声が響きわたってしまうのだった。

そして、岸本さんの本業、翻訳家としてのお仕事で気になったのは、ニコルソン・ベイカーの作品。
やっぱり、本業も拝見しないとねー。
? ?

その後に読んだ「フェルマータ」の感想はこちら。いやー、けったいな小説でしたよ。次は「中二階」だ!

 →「
フェルマータ 」/もしも時間を止められたなら?

そして、ついでに、「ねにもつタイプ」も読みました。たのしー!

 →「ねにもつタイプ」/夢見るように生きている

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡下さい。
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プロフィール

つな がる

Author:つな がる
つなです。
「日常」logとも称していますが、そう多くはない手持ちの本、興味が赴くままに借りてきた図書館本の感想が主になります。
興味を持った記事があったり、あなたが読み終えた本について語っていたら、是非あなたの感想を教えて下さい。お待ちしています。

2008年3月23日に、fc2ブログに引っ越してきました。それ以前のamebaブログでの更新も、引っ越しツールによって移行しています(以前の記事は、表示が少々見辛いかもしれません。ご容赦を)。

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